豪政府、中国企業のダーウィン港賃借を審査 「不当行為あれば撤回可能」

2022/10/04 更新: 2022/10/05

豪州政府はこのほど、中国企業が北部ダーウィンの商業港を99年間賃借する契約について、安全保障上の観点から見直しており、今後審査結果を公表すると示したことがわかった。

中国山東省に本社のある大手エネルギー会社、嵐橋集団(ランドブリッジ)は2015年、豪ノーザンテリトリー準州政府との間でダーウィンの商業港を99年間リースする契約を結んだ。

米ボイス・オブ・アメリカ(VOA)9月28日付によると、今年5月21日の連邦議会総選挙後に発足したアンソニー・アルバニージー氏が率いる労働党政権は発足直後、同契約の妥当性について審査を始めた。

ダーウィン港はアジア、中国本土に最も近い豪州の港である。第2次世界大戦時、ダーウィン港は南太平洋戦域の重要な戦略の要衝であった。台湾有事の際にも、重要な兵站補給港の1つとして機能する。

ノーザンテリトリー準州の州都ダーウィンは現在も豪州の重要な軍事拠点で、米海兵隊が駐留している。VOAによると、米豪両政府はダーウィン港の防衛設備を強化するために1億ドル以上を投じている。

豪シンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の専門家、ジョン・コイン(John Coyne)氏は、ダーウィン港は民間商業港だが、米軍がインド太平洋地域に部隊を配置し、特に中国が台湾に侵攻した場合、米軍が前方展開する重要な地政学的場所であるとの見方を示した。

同氏は、ダーウィン港を、世界各国に小規模な軍事基地を構えるという米国の「リリー・パッド(Lily-Pad)戦略」の一環と見なすことができるとし、物資供給や軍事的インフラにおいて重要な役割を果たすと示した。

いっぽう、嵐橋集団はVOAの取材に対し「豪政府の港管理安全関連規定に従っている。国土安全当局の審査を定期的に受けている」とコメントした。また、同港を通過する米海軍の艦隊について「港の運営会社に当社は特別なアクセス権を持っていない」と示した。

日本も大きく関わる

チャールズ・ダーウィン大学の学者であるジョン・ギャリック(John Garrick)氏は、米国と日本はダーウィン港についてインド太平洋戦略上に大きな意味を持つと考えているとVOAに語った。日米両国は豪ノーザンテリトリー準州に巨額の資金を投じてきたという。特に、ダーウィン港の運営に関して、日本が最も大きな「経済的利益を得る」と同氏は述べた。

「日本は、ノーザンテリトリー準州の最大の海外市場である。中国は2番目に大きい市場だ。ダーウィン港にある日本の石油・天然ガス開発の国内最大手である「INPEX」の液化天然ガス(LNG)生産拠点は、日本にとって最大の海外投資プロジェクトの1つである」

ギャリック氏は、同州政府と中国の嵐橋集団の賃借契約はダーウィンの商業用港にとどまっているが、同港は豪海軍基地「HMAS Coonawarra」の一部の軍艦に停泊場所を提供しているとした。嵐橋集団は軍艦へのアクセスを豪政府によって制限されている。

同氏は、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の下で、今後米海軍の空母機動部隊がノーザンテリトリー準州に派遣され、米側がインド太平洋地域での展開を加速する可能性が高いと推測した。

ASPIの米国在住の専門家、マーク・ワトソン(Mark Watson)氏は、中国による台湾侵攻などに関する米軍の軍事行動では、豪州は「主に情報共有で貢献する」と指摘した。特に同州にある米豪共同運営の軍事施設、パインギャップ共同防衛施設(JDFPG)は衛星写真を分析し、通信情報を収集できるという。

契約破棄可能か

オーストラリア放送協会(ABC)8月28日付によると、嵐橋集団の豪州法人の責任者であるテリー・オコナー(Terry O’Connor)氏は、中国本社はダーウィン港の運営に「全く関わっていない」と強調した。港の管理業務はすべて豪州人社員が行っているという。ノーザンテリトリー準州政府は同港の運営会社の20%株式を保有している。

しかし、ジョン・ギャリック氏は「中国政府が嵐橋集団に対し、ダーウィン港の商業活動などに関するデータを求めているかはわからないが、もし求めているなら、嵐橋集団は従うしかない」とした。

保守党のモリソン前政権は2021年、嵐橋集団のダーウィン港の99年間賃借契約を巡って、国家安全保障上の独立審査を国防省に求めた。しかし国防省は政府の審査に関する情報開示の要請を拒否した。審査は、契約解除に結び付く「国家安全保障上の理由を見つけられなかった」と結論づけた。

アルバニージー政権は賃借契約に関して審査範囲などを具体的に言及しなかった。ダーウィン地区選出のルーク・ゴスリング(Luke Gosling)下院議員(労働党)は8月、政府は同契約に潜在的な「不当行為」があるかを調べていると明かした。

ギャリック氏によると、「不当行為」があると認められた場合、アルバニージー政権は契約を撤回することができる。

ASPIのコイン氏は、アルバニージー政権がダーウィン港を「現状のまま」にすれば、米豪間の軍事関連の輸送協力に「大きな影響を与える」とし、西オーストラリア州の州都・パース近郊のスターリングや、クイーンズランド州北部の湾港都市ケアンズなどが、新たな米豪軍事協力拠点になる可能性があると指摘した。

張哲
張哲
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