英国のタワーハムレッツ区議会は1日、中国共産党の国内外での人権侵害や安全保障などを理由に、大規模な中国大使館の建設申請を全会一致で却下した。中国側は敷地内に文化交流ビルなどを建設すると主張していたが、英国では中国共産党が非公式に設置している「海外警察署」になり得るのではないかといった安全保障上の懸念が指摘されていた。
中国はロンドン中心部のメリルボーン地区ある大使館を、ロンドン塔に隣接する旧王立造幣局跡地に移転し、ヨーロッパ最大級の「スーパー大使館」を建設する計画を立てていた。中国政府は2018年に3億米ドル以上で同土地を購入しており、その広さは約8万平方メートルに及ぶ。承認されれば、在英中国大使館の規模は10倍となり、世界最大の中国外交施設となる予定だった。
議員らは建設計画を却下した理由として史跡保存や潜在的なテロ攻撃、交通渋滞などの懸念があることを挙げた。そのほか、10月にマンチェスターの中国総領事館内で、香港の民主化を求める抗議運動の参加者が暴行された事件を引き合いに出し、中国当局による人権侵害や政治的な懸念も提起した。
また、タワーハムレッツ区はイスラム教徒の人口比率が高い地域の一つであることから、移転計画には在英ウイグル人や香港コミュニティなどから強い反発を受けていた。中国大使館が20万ポンド以上を投じて導入するとしていた大規模な監視システムは、個人情報漏洩に繋がるほか、中国の非公式「海外警察署」として機能する可能性があるとの指摘があった。
公聴会に参加していた在香港英国総領事館の元職員で民主活動家のサイモン・チェン氏は「私たちは妥協してはならない。権威主義的国家に異見を弾圧する施設をアップグレードするような権限を与えてはならない」と決定を支持した。
英国は対中姿勢を硬化させている。スナク英首相は先月、英中関係の「黄金時代」は終わったと断言。英国の利益と価値観に挑戦する中国の動きが「深刻化している」とし、現状に甘んじることなく国際的な競争相手とは「現実的な方法で対峙する」と強調した。
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