深刻な財政難、中国排除の世界的潮流…習近平新指導部が直面する危機

2023/02/11 更新: 2023/02/10

中国では来月初めに「両会」と呼ばれる政治的に重要な会議が開かれる。習氏の側近で固められた新指導部は正式にデビューする。しかし、この「習王朝」はすでにいくつもの重大危機にさらされている。

国政助言機関である全国政治協商会議(政協)と、国会に相当する全国人民代表大会を合わせて両会と呼ぶ。

深刻な財政難

まず最大の危機は「深刻な財政難」だ。いまや中共のポケットは空になったといえる。ゼロコロナ政策下で3年間に及んだ大規模な感染症対策に多くの資金を費やした。財政当局が発表した昨年の財政赤字は日本円で105兆円以上(5兆6900億元)に上る。

ブルームバーグが算出した昨年1月から11月までの中国の財政赤字は日本円で約147兆円(7兆7500億元)だった。この数字は21年同期比で2倍以上となる。

当局のゼロコロナ政策による厳しい封鎖で国内では大混乱し、大量の企業が倒産。政治リスクから外資系企業も相次ぎ撤退した。失業者が増加し、政府の歳入は当然ながら激減。そのうえ、中央政府は頻繁に全民PCR検査やワクチン接種を実施したため、地方の財政が赤字になるのは避けられない。

財政危機は「ゼロコロナ政策」の放棄や国民の不満、社会の混乱などをもたらす。昨年末から地方政府の賃金滞納をめぐる抗議事件は中国各地で相次いでいる。

バスの運転手、国営メディアの記者や編集者、公立病院の医療従事者であっても給与が支給されないケースがある。多くの地方政府でも公務員の手当削減や給与カット、賃金未払いが発生している。不払いにより防疫政策関係者による大規模な抗議デモが起きている。

今年1月初旬、四川省重慶市の大手PCR検査キット製造工場では給与未支払いをめぐり約2万人の労働者らが大規模な抗議デモを行い、警官隊と衝突を起こした。多数の負傷者が出た。

ゼロコロナ政策の残した負の遺産とその影響は今後も続くだろう。財政難は民間からの抗議を引き起こすと同時に、当局が重視している「安定維持分野」にも影を落としている。

「政府は本当にお金がないのかもしれない。次に給料をもらえないのは自分たちかもしれない」という危機感を持ち始めた警察はデモ鎮圧にも力が入らないとの情報もある。力による安定維持の試みがほころび始めている。

軍用資金にまで給与削減が及んだら、台湾侵攻のプロセスが遅れる可能性もある。

雲南省の地方都市にある病院のベッドに横たわる患者と関係者たち、2023年1月撮影 (Photo by Noel CELIS / AFP) (Photo by NOEL CELIS/AFP via Getty Images)

世界の潮流「中国排除」

国内の財政難に加え、世界の潮流となっている「中国排除」も習指導体制にとって大きな危機となる。

今や米中貿易戦はテクノロジー戦、半導体戦、人材戦に及び、エスカレーションの一途をたどっている。米国は同盟国と共に、中国への先端半導体技術に制限をかけるだけでなく、「インド太平洋経済枠組み」を打ち出すなどして、中国を排除した世界のサプライチェーンの再構築に努めている。

中国が世界貿易機関(WTO)に加盟してから20年以上が経ち、国際社会はようやく中国には「誠実さがない」ことに気づいた。国際組織の規則を守らないばかりか、二重基準や戦狼闘争など野暮な振る舞いをしている。各国は中国による様々な浸透や統戦、スパイによる窃盗などの被害に遭い、深刻な利益損失を被った。

国際社会は、中国共産党がグローバル化の抜け穴を利用し、各国の利益を侵食し、世界秩序を破壊する国際的なならず者であるとの教訓を得た。いまや、米国とその同盟国は中国を排除したサプライチェーンの再構築と、既存の国際秩序の保護で一致している。

中央政府と地方政府の緊張

国内の「財政難」、世界の「中国排除」などの危機のほかにも、現時点では、この兆候はまだはっきりと顕現していないが、起こりうる危機としては確かに存在しているのが「中央政府と地方政府の緊張の高まり」だ。過去3年間に及ぶ感染対策や安定維持の関連支出の支払いを中央は地方に押し付けているからだ。

地域総生産が中国で最大の広東省のケースを例に見てみよう。公式に発表されたデータによると、昨年の広東省の財政赤字5230億元(日本円で約10.2兆円)だった。このうち、感染対策関連の支出は13.6%を占めている。昨年末時点の広東省政府の負債総額は2万5000億元(日本円で約48.7兆円)を超えた。

中国当局の公表データは信用に値しない。しかし、中国最大の経済大省である広東省の「粉飾」がこの程度なら、他の地方政府の財政と負債がどれほど深刻かは想像に難くない。

中央政府は過去3年間の感染対策や安定維持関連の費用を全て地方に押し付けており、「救済しない」とまで表明している。地方政府はGDPを上げるプロジェクトや債券発行を試みるが、実体経済が伴わなければ債務はますます膨む。

この状態が続けば何が起こるのか。2つのシナリオが考えられる。

例えば、地方政府がその財政収入を中央政府に納めるのを拒否しはじめることだ。地方と中央の分裂と衝突につながるだろう。もう1つのシナリオは、地方が「寝そべり」を決め込むこと。莫大な借金を踏み倒して公務員の給与や社会保障費も支払わない。建設プロジェクトもストップして、巨額負債の責任を中央政府に転嫁することだ。

この2つのシナリオは比較的極端なもので、必ずしもそこまでいかないかもしれない。いずれにせよ国民の受難は続く。反抗やデモが鎮圧部隊で抑えきれなくなるほど頻発すれば、官界の不満にも延焼しかねない。習政権はさらに不安定な立場に立たされることになる。

(翻訳編集・李凌)

唐浩
台湾の大手財経誌の研究員兼上級記者を経て、米国でテレビニュース番組プロデューサー、新聞社編集長などを歴任。現在は自身の動画番組「世界十字路口」「唐浩視界」で中国を含む国際時事を解説する。米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)、台湾の政経最前線などにも評論家として出演。古詩や唐詩を主に扱う詩人でもあり、詩集「唐浩詩集」を出版した。旅行が好きで、日本の京都や奈良も訪れる。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。
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