中国 VS インド 新たな世界大戦の構図

2026/07/30 更新: 2026/07/30

1 世界を震撼させた中国のミサイル発射

7月6日、日本時間13時1分に中国の戦略原子力潜水艦が弾道ミサイルを発射した。弾頭は実弾ではなく模擬弾頭だが、南太平洋に着弾した。中国外務省は「定例の軍事訓練」であり「国際法上も問題なし」と発表したが、中国の軍事専門家は発射されたミサイルは最新型のJL-3であり、射程は1万km超だとした。

これは中国領海から発射すれば米ロサンゼルスを壊滅させられる射程である。米国務省は同日「中国による急速かつ不透明な核兵器増強は、地域と世界に深刻な懸念を抱かせている」との声明を発表した。

日本政府も「深刻な懸念」を表明したが、心の底から震撼したのはオーストラリアだった。というのもアルバニージー豪首相は、この日、南太平洋の島国フィジーの首相とフィジーにとって初めてとなる相互防衛協定を締結していたのだ。

この条約締結の1時間半後、中国は南太平洋にミサイルを撃ち込んだのである。

 

2 太平洋の覇権を争う米中

中国の南太平洋への進出は、近年、米豪にとって深刻な脅威と見なされてきた。パプアニューギニア、ソロモン諸島、そしてフィジーに中国は多額の援助を行い、中国企業の進出も著しいものがある。

実はこの進出ルートは第2次大戦中、日本軍が試みた侵攻ルートである。日本軍の意図は、これらの島々を占領し、この海域の制海権を握ることにより、米国オーストラリア間の海上交通路を遮断することにあった。

中国は日本の軍国主義を非難し続けているが、その実、太平洋の覇権を賭けた日米太平洋海戦史を熱心に研究している。それは、今や中国が、かつての日本に代わって太平洋の覇権を米国と争う海軍大国になったために他ならない。

従って、中国は米国の覇権に挑戦した日本の戦略をシミュレーションし、失敗の原因を探り、成功の戦略を案出した。つまり日本軍が侵攻したルートに最初から軍事的に侵攻するのではなく、まず経済的に進出し、政治的に買収し、次に情報作戦の拠点を築き、最後に軍事的に進出する戦略である。

この戦略に気が付いた米豪は、日本の協力を得て、これらの島々に援助を拡大し、政治的に取り戻すことに努力し、遂にフィジーとオーストラリアは中国を共通の脅威とした同盟条約を締結した。

まさにその当日、中国は羊の皮を脱ぎ捨てて軍事的な牙をむき出しにしたのである。

 

3 焦燥感に駆られたインド

中国が南太平洋にミサイルを撃ち込んだ翌日すなわち7月7日、インドのモディ首相はインドネシアの首都ジャカルタで同国のプラボウォ大統領と会談し、インド製の巡航ミサイル、ブラモスと空対空ミサイル、アストラの輸出で合意した。

人口で既に中国を上回ったインドは、経済においても、中国のライバルである。経済成長の鍵は海外市場の獲得であり、そのためにはシーレーン防衛は、必須の条件となる。

インド洋と太平洋の交点に位置する海洋大国インドネシアにとってもシーレーンは生命線であり、中国の海洋進出は深刻な脅威である。

つまりインドとインドネシアは共通の利害と脅威を有しており、それがゆえにインドの武器輸出拡大で合意に至ったのだ。

モディ首相は、その足でオーストラリアに向かい、アルバニージー首相と会談、日米との協力拡大を共同で声明した。日米豪印の防衛協力の枠組みクワッドの強化を意味するが、ここで重要なのは、豪印だけでクワッドの強化を声明している点だ。

本来であれば、日米豪印4首脳が揃って共同声明を出すのが望ましいのだが、それが出来ないので豪印で見切り発車した形なのである。

第2次政権下でトランプのインド太平洋戦略への言及は激減している(Shutterstock)

 

4 インド太平洋戦略の終焉

クアッドは、安倍晋三総理(当時)が提唱し実現したもので、やはり彼が提唱したインド太平洋戦略の骨格をなす。2021年以降、オンラインと対面を合わせて計7回、首脳会合が行われている。

ところがトランプ政権下では首脳会合は1回も開かれていない。トランプはクアッドに後ろ向きなのである。

もともとトランプは孤立主義者であって、2017年に第1次トランプ政権が成立したが、それ以前は在韓米軍や在日米軍を撤収させると公言して憚らなかった。

そんなトランプの懐に飛び込んだのが当時の安倍総理である。安倍にほれ込んだトランプは孤立主義を封印し、安倍の提唱するインド太平洋戦略を米軍の戦略として採用させるに至った。2018年5月には米太平洋軍を米インド太平洋軍に変更したのである。

ところが2022年、安倍が亡くなるとインド太平洋戦略は失速する。この戦略は安倍の外交力によって支えられていたのだ。

第2次政権下でトランプのインド太平洋戦略への言及は激減している。6月には米軍はインド太平軍を再び太平洋軍に変更した。これは米国がインド太平洋戦略を放棄したことを示す。

米国のイラン攻撃は物議をかもしたが、トランプとしては、イランの核開発の芽をつめば米軍を中東から全面撤退できるとの思惑がある。欧州からの米軍撤退は既に表明されている。トランプは完全に孤立主義者に戻ったのだ。

イランとウクライナが落ち着けば、トランプは東アジアからの米軍撤退を視野に入れて中国との交渉を本格化させる。豪印首脳の共同声明は、それに歯止めを掛けたい思いから発せられたのである。

軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。
関連特集: 百家評論