この記事はスパイ気球だけじゃない…中国共産党の対米スパイ活動(上)のつづきです。
バイオデータ
米国からあらゆる情報を得ようとする中国共産党の取り組みは、知的財産窃盗やスパイ気球に留まることはない。それは人間の究極的な個人情報である遺伝子にまで及んでいる。
中国のバイオテクノロジー企業が米国の研究機関との提携を通じて入手した米国市民の臨床データおよび遺伝子データは国家安全保障上のリスクをもたらすと、米国の防諜機関トップが2021年に警告した。
議会の報告によると、遺伝子解析最大手の華大集団(BGI)などの企業が行う大量のDNA収集は、様々な方法で悪用される可能性があるという。
例えば、中国共産党が医療情報を暴露すると個人を脅迫したり、アレルギーなどの健康状態のデータを使って、外交官、政治家、連邦高官、軍幹部に対する生物学的攻撃を行うことも可能だという。
一部の専門家は、中国共産党がこの豊富な遺伝情報を利用して、特定の人々を標的にした生物兵器を作る可能性があると警告している。
重要なのは、BGIが民間企業でありながら、中国共産党と明確な結びつきがあることだ。中国国営メディア新華社は2018年1月、BGIの研究所の杜玉涛副総裁が、「中国共産党第19回全国代表大会の精神」を学び、実行に移すことの重要性を話したと報じた。
核と極超音速の研究
中国共産党は米国をスパイするための積極的な取り組み以外にも、国家が支援する人材育成プログラムを利用して、重要な技術分野において中国の優位性を維持しようとしている。
このような人材育成プログラムは、世界最高レベルの大学から華僑や外国生まれの優秀な人材を招致することで、中国の技術・軍事発展にとって重要な分野の新世代の研究者を育成することを目的としている。
その一例として米エネルギー省傘下の国立研究機関であるロスアラモス国立研究所が挙げられる。
ある報告書によると、現在までに少なくとも162人のロスアラモス国立研究所出身者(うち少なくとも1人は米国で最高機密扱いの資格を持っていた)が中国に渡り、その多くが極超音速ミサイルなど政権の最先端兵器開発を支援しているという。
ロスアラモス国立研究所で働いた少なくとも59人の研究者は海外から優秀な研究者を集める中国の人材招致プロジェクト「千人計画」に参加していたことも明らかになっている。
そのため報告書は、「中国の人材プログラムは拡大し続ける採用ネットワークであり、政権はそれを利用して米国から継続的に知識を奪取している」と指摘している。
戦略的な農地購入
中国共産党の支配下にある中国企業による米土地購をめぐって、安全保障の専門家は中国共産党が、諜報活動や米国の国家安全保障上の利益を妨害しようとしていると警鐘を鳴らす。
近年、中国企業はテキサス州とノースダコタ州で土地を購入したが、いずれも米軍基地の近くに位置しており、地元の住民や州・連邦政府の政策立案者の間で警戒が広がっている。
2015年には中国の実業家・孫広信氏がテキサス州に約14万エーカーに及ぶ広大な土地を購入した。孫氏は、中国軍の元将校で新疆青年連合会の副主席を務めるなど、中国共産党政権と親密な関係にある人物とされている。
全米不動産協会によると、2021年4月から2022年3月までに中国の投資家が米国の不動産に費やした金額は61億ドルに上り、支出額では最大の外国人バイヤーとなった。
ノースダコタ州グランドフォークスで物議を醸している中国のトウモロコシ工場プロジェクトも「国家安全保障に対する重大な脅威」とする米空軍からの警告を受けて、中止が決定した。同工場は重要な軍用無人機技術を運用しているグランドフォークス空軍基地からほど近い場所に位置していた。
また、多くの州当局者が、中国による米農地の所有について警鐘を鳴らしている。サウスダコタ州、フロリダ州、テキサス州など複数の州では、中国企業による米国の農地や企業の買収を禁止または制限する法案が提出されている。
(おわり)
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