浜田靖一防衛相は7日、我が国の許可なく領空に侵入すれば外国の気球であっても領空侵犯になり、武器使用も選択肢に含めるとした。偵察気球を戦闘機を駆使して撃墜するといった行動を含め、米国がますます対中姿勢を厳しくさせるなか、防衛相は対処を「一層厳正化していく」と言明した。
日本で同様の偵察気球らしきものが複数回目撃されているが、自衛隊等が撃墜した前例はない。鹿児島で2019年11月、宮城で20年6月、青森で21年9月に飛行物体が確認されている。南日本新聞6日付によれば、薩摩川内市の施設職員が3年前に目撃した飛行物体は、中国偵察気球と「うり二つ」だと語った。
自衛隊法84条は、武器使用を含む対領空侵犯措置をとることができる。いっぽう、20年6月当時の河野太郎防衛相は宮城で目撃された気球の行方や出所を問われ「気球に聞いてください」「安全保障に影響はございません」と答え、重大事案との認識は示さなかった。
日本政府は今後、他国からの気球が日本領空に侵入した際の対応を強化する可能性がある。自民党外交・安全保障調査両部会も7日の合同会議で自衛隊法の対処に穴がないか検証していく方針を示した。
安全保障調査会会長の小野寺五典議員は「気球はレーダーで捕捉しにくく、また領海侵犯として撃墜するにも危害などのリスク判断が必要。しっかりとした対処方針を政府に求めた」とした。
否定する中国共産党
中国外交部報道官は6日、日本でも偵察気球が目撃されているとの質問を受け「承知していない」と関連を否定した。前日の会見では、気球を撃墜した米国の対処に「過剰反応」と批判し、気象など科学研究用の民間機器だと説明した。
いっぽう、複数の研究論文によれば、中国が高高度気球を軍事目的で利用することに関心を強めているとロイター通信は報じている。中国軍の研究者が「気球の開発を進めて特定の作戦向けに配備すべきだ」と主張する論文もあるという。
米国は今回、領空侵犯した中国偵察気球に対して戦闘機で撃墜するという厳しい対処をとった。北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)のバンハーク司令官によれば、気球は本体の高さ約60メートルで、下部に小型ジェット機ほどの大きさの機器(重さ900キロ以上)を搭載していたと明らかにし、爆発物の可能性を否定しなかった。
ホワイトハウスのカリーヌ・ジャン=ピエール報道官は7日の記者会見で、米国は中国との対話手段は維持するも「どのような米中関係を望むのか中国側次第だ」と強く牽制。また「中国の無責任な行動は、米国および世界がはっきりと見ている」とも指摘した。
米中間の緊張を高まらせる事案が重なる。1月末、台湾有事と米中軍事衝突勃発が2025年に引き起こされると予想する米空軍ミニハン大将の内部メモが漏えいした。中国発アプリのTikTok(ティックトック)を全面禁止する法案も米下院で提出される見通しだ。
もともとは緊張緩和に向けた対話になることが期待されたブリンケン国務長官の2月訪中は、気球の飛来により延期となった。
バイデン米大統領は8日、新たな国会における年次一般教書演説を行う。例年、この演説では政権の功績を紹介する。しかし突然の気球飛来を受けて、直面する中国共産党の攻勢と米中間の緊張の高まりについてより明白な対中姿勢を示すことを求められる。
米国の対中姿勢は超党派で一致する。トム・コットン上院議員(共和党)はFOXニュース・サンデーの出演で「スパイ風船は、バイデン大統領の強さと決意を試すためのトライアル風船に変わった」と述べた。ピート・ブティジェッジ運輸長官(民主党)はCNNのステート・オブ・ザ・ユニオンで気球が「容認できない主権侵害であることは明白」と語気を強めた。
1月の日米外交防衛担当閣僚会議(日米2プラス2)では、「日米が連携してそれぞれの戦略を速やかに実行していく」と実践の重要性が掲げられた。日本政府および議会も、対中姿勢では米国との共通認識が期待されている。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。