[ラダナガー(インド) 1日 トムソン・ロイター財団] – インド北東部アッサム州ナガオン県の村、ラダナガーに暮らすピンク・ダス・サーカーさんは、まだ15歳。だが、既に赤ちゃんを身ごもっている。それなのに、一家の稼ぎ手である26歳の夫が2月2日に児童婚の容疑で逮捕され、途方に暮れる毎日だ。
今年2月にアッサム州で行われた当局の一斉摘発では、男性や宗教関係者ら3000人余りが児童婚を禁止する法律に違反した容疑で身柄を拘束された。
「夜の11時でした。寝ようとしていたら警官4人がやって来て、夫を引っ立てていきました。何が起きたのは分からなかった。夜通し泣いていました」とサーカーさん。家計は夫が荷車で売るサトウキビジュースからのわずかな収入が頼み。「どうしたらいいのか全く分からない」と述べていた。
インドでは、18歳未満の結婚が法律で禁止されている。しかし、実際にはこの年齢に達しない児童婚が珍しくない。
2019―21年のデータによると、18歳未満で結婚した女性は全体の約4分の1に上る。ただ、この比率は05―06年の47%から低下しており、近年は児童婚を減らす取り組みが大きく進展している。
女性の権利保護を訴える団体によると、未成年の女性の教育機会の改善や、早婚の慣習が文化的に受け入れられているコミュニティーでの意識向上に向けた取り組みが効果を上げた。
警察が児童婚の摘発に動くことは少なく、最新の公式統計によると、21年にインド全土で児童婚を手配、あるいは児童婚を行ったとして逮捕されたのは2000人弱に過ぎない。
一方、アッサム州の児童婚摘発は、女性保護や反貧困に取り組む団体から非難も受けている。経済的な理由から未成年の娘を結婚させた貧しい家庭を不当に罰し、多くの家庭が重要な稼ぎ手を失うというのが理由だ。
非営利団体HAQセンター・フォー・チャイルト・ライツの共同創設者であるエナクシ・ガングリー氏は「元々貧しい人々を犯罪者にしてしまい、社会的な問題への最善の対処方法ではない。若い妊娠中の少女たちは稼ぎ頭を失い、寄る辺ないまま放置されている」と訴える。
女性の権利保護に取り組む活動家らは、州都グワーハーティーの高等裁判所に嘆願書を提出。取り締まりを行う代わりに未成年女性の性と生殖に関する情報や教育へのアクセスを改善し、児童婚の防止を支援するよう求めた。
<無一文>
サーカーさんの自宅からほど近くに住むグルソナ・ベグムさんは結婚からわずか2週間後の2月7日、警備員として働いていた夫が警察に身柄を拘束された。一家は無一文の状態に陥り、先の見通しが立たなくなった。
「義父は体に障害があり、夫が刑務所にいる今、どこからも収入がない」という。
ベグムさんは、自分は18歳だと主張した。しかし、警察によると彼女は18歳未満で、年齢を証明する文書はない。
「夫は逮捕されたのだから、職を失うでしょう。今は近所の人や親戚の助けでなんとか食べているけれど、先のことは分からない」と不安な気持ちを隠さない。
村の住民によると、逮捕を恐れた男性数人が、10代の妻を残して近隣の州へ逃亡した。
アッサム州のヒマンタ・ビスワ・サルマ州首相は2月28日の記者会見で、警察による摘発開始以来、児童婚の報告はないと述べ、取り締まりを擁護する姿勢を示した。これまでに3047人が拘束され、そのうち251人は保釈が認められたという。
一方、今回の摘発では州人口3400万人の約3分の1を占めるイスラム教徒が狙い撃ちされているのではないか、との疑惑も浮上している。弁護士のタニヤ・スルタナ・ラスカール氏によると、イスラム教徒が多く住む地区で多数の逮捕者が出ている。
サルマ氏はヒンドゥー至上主義を掲げるモディ政権与党、インド人民党の有力者だが、摘発において対象者の信仰は関係なかったと主張した。
<複数の家族の支えに>
ラダナガー村に住むサーカーさんの義父は息子が逮捕され、両家双方のためになると思って結婚を勧めた判断に疑問を感じざるを得なくなった。「サーカーの母親は家事手伝いをしていて、若くして夫を亡くした。私が妻を失ってから、家には女性がいなくなった。だから(自分の息子とサーカーさんの)結婚が2つの家の問題を解決する方法だと思った」と言う。
「児童婚が良くないことは分かっているし、サーカーが一日中悲しんでいるのを見ると、今は無力感に襲われている。この年になれば、なかなか仕事はもらえない。子どもが生まれたらどうなるのか心配だ」と嘆く。
サーカーさんは、今は病院通いなどで近所の人の手助けを受けている。しかし、夫がいない寂しさはどうしもうようない。「夫の存在は私の支えでした。彼は私の力(の源)です」と言い切った。
(Zarir Hussain)
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