プーチン大統領と習近平の三文芝居

2023/04/08 更新: 2023/04/09

仲裁の表と裏

中国とロシアは独裁者が国家を動かしているが、ロシアによるウクライナ侵攻で習近平プーチン大統領の会談が行われた。3月21日は中国の習近平とロシアのプーチン大統領が会談し中国とロシアの戦略協力強化で合意。同時に習近平が持ち込んだ仲裁案を平和的解決だと喜んだ。習近平とプーチン大統領は核戦争を回避する認識を公にしたが実際は3月25日になるとベラルーシにロシアの戦術核を配備することを公表した。

さらにプーチン大統領は3月31日になるとロシアの外交政策の概念を承認する大統領令に署名した。新概念の内容は「ロシアは自国や同盟国の防衛」・「在外の国民の保護」であり、自国民の保護を名目に他国に侵攻することを認めている。NATOのストルテンベルグ事務総長は5日、中国とロシアが21日に出した共同声明は“空約束”だと批判した。

 

戦略関係の意味

中国とロシアは戦略的協力に関する合意書に署名したが、これは中国とロシアの関係が対等ではないことを意味している。結論から言えば戦略関係は対立関係であり、“お前の国を我が国の覇権に組み込む”意味を持っている。見た目は美しい言葉だが実際は弱肉強食の世界なのでロシアは中国の覇権に組み込まれることに合意した。

国家関係は弱肉強食の世界だからロシアを中国の覇権に組み込んだことは明らかで、中国が西洋の価値観を知らないとしても結果的に習近平は言葉の正しさを証明している。なぜなら国家間の仲裁を行なうのは“時の強国”が行なうのが通例。中国がウクライナとロシアの仲裁を行なうことはロシアが中国の下位であることを認めたことを意味する。

ロシアの政府関係者・政府機関であれば戦略関係と仲裁の意味を知っているはずだ。私がロシア政府機関に所属していれば戦略関係の文言を入れないようにする。合意するとロシアの地位低下を宣言し中国の覇権に組み込まれることを認めてしまうので知識として知っているなら進言して文言を変更させる。実際にはロシアは戦略関係の文言を入れたことで仲裁国の中国を時の強国であることを認め、中国の覇権に組み込まれたことを世界に宣伝した。

 

プーチン大統領の新概念は国内向けのパフォーマンス

プーチン大統領は自国民保護を名目に他国に侵攻することを認めたが、これは国際社会のグレーゾーンを悪用した侵攻宣言と言える。なぜなら自国民を保護することは国家の使命なので、実際にアメリカは自国民保護を名目に何度も軍事行動を実行している。だから自国民保護を名目に軍隊を使うことは新概念ではなく既存の概念。だが侵攻となると新概念であり国際社会を否定することを意味する。

ここで異なるのは侵攻と救出は別物であること。だが侵攻と救出を明確に区別することは難しく、救出後に軍隊を撤退させるなら批判されない。それに対して侵攻後に他国に居座ると侵攻として批判される程度。

先制攻撃の区分
攻勢攻撃(Offensive Attack):国際社会で否定される
敵国の国防線を踏み破って奇襲攻撃を仕掛ける。

防勢攻撃(Defensive Attack):国際社会で肯定される
自国の国防線の中で脅威国が戦争準備した段階で先制攻撃する。

国際社会では先制攻撃は攻勢攻撃(Offensive Attack)と防勢攻撃(Defensive Attack)に区分され、戦前の日本と今のロシアは攻勢攻撃を実行したから悪と見なされた。なぜなら国際社会は軍隊を用いて開戦した国は今の平和を否定する行為と見なすので攻勢攻撃は国際社会では否定されている。

防勢攻撃は国際社会から肯定されるが実行は難しい。だがイラクのフセイン大統領がWMD(大量破壊兵器)の保有意志を公言すると脅威国の戦争準備と見なされた。アメリカは国連決議を間接的な宣戦布告としイラク戦争(2003- 2011)を開始した。この様な戦例であれば防勢攻撃としての先制攻撃は肯定されるので、プーチン大統領によるベラルーシに戦術核を配備する発言はアメリカによる防勢攻撃を正当化する可能性を持っている。

プーチン大統領が新概念を宣言してもロシアによるウクライナ侵攻は国際社会では悪と見なされる。仮に自国民保護を名目にしても軍隊を用いた侵攻なので今の平和を否定したことに変わりはない。だからプーチン大統領はウクライナ侵攻を正当化することが目的の新概念ではなく強気の姿勢を国内に宣伝するパフォーマンスなのだ。

自国民保護を名目に侵攻できるなら何でも有りの世界。だが今のロシア軍では他国に侵攻する実行能力は無いのが現実だ。ロシア軍はウクライナで損害を増大させ骨董品の戦車・装甲車を投入している。それでも勝利を得られないから物資を消費するだけに終わっている。

プーチン大統領は独裁者なので常に強気でいなければならない。なぜなら独裁者は弱くなったと判断されたら国民から排除される危険な立場。そうなると独裁者は常に強気な姿を見せることで政権を維持するので、プーチン大統領は実行できないことを派手に宣伝して国内向けのパフォーマンスをしたと断言できる。

仮に実行しても今のロシア軍では遠征能力は無い。戦闘になれば兵士1日辺り100kgの物資を必要とするので陸軍1個師団で1日2000トンを消費する。さらに空軍が1個師団を火力支援すると4000トン消費する。最低でも1日6000トン消費するが海を隔てた隣国への侵攻だとさらに増加する。
 
ロシア軍はウクライナ侵攻で弱体化しているので補給を考慮すれば隣国に侵攻することすら困難。今のプーチン大統領ができることは核兵器を撃ち込むことだけ。このため自国民保護を名目に侵攻するよりも核兵器を使う方が怖いと言える。したがってプーチン大統領は新概念で国内向けのパフォーマンスを行なうピエロなのだ。

 

空約束ではなく習近平の方針

プーチン大統領がベラルーシに戦術核を配備することを公言すると、共同宣言では核戦争を回避させる方針にするが実際には真逆の世界になった。だからNATOのストルテンベルグ事務総長は共同声明を“空約束”だと批判した。

だが習近平はベラルーシの戦術核配備を怒らないから最初から予定されていたことを示唆している。つまりプーチン大統領と習近平の三文芝居だったのだ。表向きは核戦争を回避させる共同宣言をしておいて実際にはロシアとNATOを対立させる道に進ませた。結果的には、仮にロシアとNATOが核戦争を始めれば中国は漁夫の利を得る。だから習近平は子分であるプーチン大統領を使いベラルーシに戦術核を配備させたと見るべきだ。

ロシアから見ればベラルーシに戦術核を配備することはエスカレーションになり無益。最悪の場合はNATOからの報復攻撃で自国の未来を閉ざされる。それでもプーチン大統領は親分である習近平のために実行したと言える。

 

日本の手段

自国民保護を名目に軍隊を派遣することは欧米では珍しくないから、自国民保護を名目に軍隊を派遣するなら国際社会が認めるし協力する国も有る。同時に今のロシア軍では日本への侵攻は難しい。それでもプーチン大統領が宣言するなら別の意味で危険。習近平の方針で動いているなら、ウクライナとベラルーシでロシアとNATOによる戦術核の応酬が行われることを想定すべきだ。

今のロシア軍ではウクライナ軍の反攻を止められない。そうなればプーチン大統領はウクライナの原発爆破と戦術核を使い放射能による汚染地帯を作るはずだ。そうなればNATOとウクライナ軍はロシア領に侵攻できない。ロシア軍で国土を守れないなら汚染地帯を障害に変えて侵攻を阻止するはずだ。仮にプーチン大統領が戦術核をウクライナで使えばNATOも戦術核で報復する。使うのはウクライナ・ベラルーシ限定になるから限定的な核戦争になるだろう。

ウクライナは核兵器を放棄したことでロシア軍の侵攻を受けたなら核兵器を保有しない日本は危険な状態になる。プーチン大統領が核兵器による報復を恐れるなら日本は核兵器の保有が必要だ。さらに日本が核兵器を保有すれば習近平も困る。ならば日本は核兵器を保有して中国とロシアからの脅威に対抗する手段が必要だ。

日本が戦争を拒否しても戦争は外国からやって来る。戦争は日本の都合ではなく敵対する国の都合なのだ。ならば日本も核兵器を保有して中国とロシアの脅威から国を守る必要に迫られている。これは直接核兵器を保有するのではなくアメリカと核兵器をシェアリングすることから始めれば良い。

 

この記事で述べられている見解は、著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。
 

戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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