7月29日から、中国の華北地域は台風5号(トクスリ)の異例な豪雨に襲われた。当局のダム放水が実施され、河北省や北京市などでは大規模な洪水被害がもたらされた。
これにより中国共産党(中共)当局の管理体制の深刻な危機が露呈した。中共の偽りの救援活動はすでに社会の現実と大きく乖離しており、その光景はもはや「中共の末日」を際立たせているという。
「指導者はどこへ?」なぜ被災地に誰も来ないのか
数年前まで、特に2012年までの胡温時代(胡錦濤、温家宝による中国政権)であれば、中国で重大な災害や危険が発生するたびに、中共の指導者たちが「親民秀(民衆に親しむ演出)」を行い、現場で指揮を執る姿を見せていた。
それはもちろん、党の宣伝のための演技であったが、今回の華北洪水災害では、中共7人の政治局常務委員のなかで被災地に行った要人は誰もいないのである。習近平氏が最後に公の場に現れたのは7月31日、北京で2人の将軍(上将)を昇進させた時だった。
中共の官製メディアである新華社は8月3日、政治局常務委員の蔡奇氏が同日、北戴河で夏季休暇中の専門家57人を招聘し、北戴河会議が始まったと報じている。
ある観察者によると、とくに習近平氏は第2任期以来、被災地を視察することなく、往々にして「被災状況が収束してから、祝賀宴に出席する」という毛沢東のやり方を模倣しているという。例えば2021年7月19日、河南省は稀に見る豪雨によって洪水が発生したが、習氏はその際にチベットを視察した。
これまでに中共政治局で表に現れたのは、水利を担当する張国清副総理だけだ。
前首相の李克強氏は2020年に重慶、2021年に河南省鄭州の洪水現場に赴いたが、現国務院総理の李強氏は8月1日に習近平氏の指示に従い、洪水後の8月8日に洪水災害救援の作業を実施するために国務院常務委員会の会議を主催して現れただけで、まだ被災現場には行っていない。
今回の洪水災害で中共当局のとった対応は、「7人の政治局常務委員はどこに行ったのか」と、国民や海外メディアからの追及を招いた。
党メディアも、洪水が最も深刻な時期である7月31日~8月4日まで、『人民日報』の一面で、習近平、李強両氏が2日に洪水のことに指示した以外は、一言も触れなかった。8月2日になってようやく、4面に小さな囲み記事で洪水のことが掲載されている。
洪水発生後、涿洲市の幹部が姿を消したことが懸念されている。8月4日、ネット上には、「涿洲市長と市党委書記を緊急捜索:何日も音信不通。未曾有の災難に見舞われた中、民衆は大局を把握して指揮する人間が必要であるとともに、真実が知りたい」とメッセージが大量に転載されている。
中国政法大学の国際法修士であり、現在はカナダに在住する頼建平氏は、エポックタイムズの取材に次のように語った。
「中共には、何か問題が起きるとすぐに最高当局に報告される仕組みがある。彼ら(7人の政治局常務委員)は十分な情報を得ており、対応する能力も持っている。
しかし彼ら、つまり最高地位にいる7人が(被災地視察などの)取るべき行動を取らないのは、主に、やる気の問題なのだ。災害は、被災者にとっては天が崩れたような大問題だ。しかし、この7人の小者たちにしてみれば、それほど大きなことではなく、最も差し迫った仕事ではない」
何百万人が被災しても、中国全体の14億人に比べれば大海の一滴に過ぎない。国民を全く人間として見ていない上、政権にとって災害が独裁の維持に実質的な害を及ぼすことないならば、もちろん被災者救災が最優先事項とはみなされない。頼建平氏は、そう指摘し、さらに以下のように述べた。
「彼らのすることは、権力と利益の奪い合いだ。その上で彼らは、米国と全世界へ対抗し、いかにして国全体を文化大革命のような極左状態に追い込み民主主義を抑圧するか、さらには台湾海峡で起こりうる戦争への算段に忙殺されている。これは中共と国民の関係が質的に変化し、もはや表面上でさえも、中共が社会や国民に対する責任感を有していないことを示している」
なぜ水が「高い所へ流れた」のか?
涿州市政府は、災害救援に関して全く不作為だったが、ダム放水して雄安新区を守ることには大きな執念を見せた。
情報提供者によると、涿州市党委員会書記は自身の立場を一度も明らかにしなかった。洪水後、涿州市政府が発表したのは、民間救援隊の招請状と資金集めの問題の2つだけだという。しかし、7月末の内部会議では「北京を守るため、涿州を放棄する」と明言している。
その言葉の通り、涿洲当局のダム放水によって被害状況は悪化した。
頼建平氏はエポックタイムズに、「地元の酷吏たちは地位を確保し、習氏と党中央への忠誠心を表明しようと躍起になっていた。翌日になれば、おそらく雄安新区と北京が水浸しになるから、夜のうちに河北省へ水を放流しよう、と急いだのだ」と評した。
この洪水について、ドイツ在住の水利専門家である王維洛氏はエポックタイムズの取材に対し、「北京には2種類の洪水がある」と語った。
「北京の洪水には2種類ある。その1つが制御なき洪水だ。房山や門頭溝の例がそうであるように、ダムが決壊したのではなく(人為的に)放水したものだが、それが当局(官方)の想定を超える制御不能の洪水となってしまった」
いっぽう河北省の洪水災害について、王氏は「完全に人為的に起こされたものだ」と指摘する。
「海河の流域は人工的な河川システムであるため、水の流れを自在に制御することができる。全体の設計が、まさにそのようなものだからである。中共の治水とは、水を支配することだ。それは、命令によって、どの地域でも水没させ得ることを意味する」
河北省の雄安新区は、習近平氏が直接主導した国家プロジェクトである。そのため(河北省涿洲に向けて)放水し、雄安新区を守ることに、中共各級は前例がないほど一致していた。
8月1日夜、水資源部の李国英部長は、永定河左岸や白口河左岸など重要な堤防の防衛を強化し、「雄安新区や北京大興空港などの重要な防衛対象の絶対安全を確保する」よう要請した。
また、河北省党委員会書記の倪岳峰氏も、8月1日~2日に保定市と雄安新区を訪問した際、北京に迫る洪水の危険性を軽減するため、洪水の「遊水地」として河北省涿洲を用いることにより、首都を守る「堀」として対処する決意を強調した。
華北平原の最下部に位置する雄安新区は、海抜はわずか7〜19メートルである。これに対し、涿洲は19.8〜69.4メートルある。雄安新区よりも高所にある涿洲に水が向けられたのは、自然の力では全くなく、政治的な意図によるものであることは明らかだ。
ネット民は「水没するか、しないかだって。そんなこと、標高の高さで決まるものじゃない(中共の都合で決められる)」「遊水地の場所に都市に作るか、都市を遊水地にするか、だろ」と非難している。
「悪意ある」ライブ配信を禁止
洪水関係の災害は、収束していない。しかし当局は、宣伝と維穩(政権の安定維持)を急遽実施し、被災地では情報統制が更に厳格化している。被災地の深刻な被害状況は、情報統制によって(外部に伝えられないため)更に悪化しているが、地元当局は「維穩」を最優先事項としている。
ラジオ・フリー・アジアの8月7日の報道によると、中国のある記者は、涿洲市党委員会宣伝部がその下部組織と企業職員に対して、許可なく「災害と洪水場面に関する情報を公表しない」および「外国人記者の取材を受けない」よう求めたことを明らかにした。
また、同記者によると、一部の救助隊員が、救助過程や現場映像を撮り「悪意をもって」ライブ配信したため、現地に深刻な影響を与えた、という。そのため「被災地の映像を無許可で撮影した複数のドローンが、現地当局に撃墜された」とする民間ボランティアの証言もある。
洪水災害に際して、救援の主力は民間の救援隊であった。しかし8月5日、河北省の武装警察部隊が現地の救援活動を全面的に接収したため、民間救援隊は撤収を求められた。ある地元住民は「当局は災害の真相が暴露されることを恐れている。1つの村だけでも死体が散乱している」と述べた。
涿州の住民・陳さんはエポックタイムズの取材に対し、河北省武装警察の本隊500人が8月5日に涿州入りし救助活動を全面的に接収、民間救援隊は撤収を余儀なくされたと証言した。
陳さんは、中央からの救援物資は今こちらに到着したばかりであり、これまでの物資はすべて民間から寄せられ、救援活動も完全に民間の自助であったと述べた上で、こう述べた。
「民間ボランティアは、涿州市清凉寺の馬坊村で、あたり一面に死体が散乱しているのを見た。政府は、それらの民間ボランティアが現場の写真や動画をネット投稿するのを恐れたのだ」
「洪水救援の戦士たち」という大ウソ
BBCの元特派員で、米国のフリーランスの学者であるフィリップ・J・カニンガム(Philip J. Cunningham)氏は、中国中央テレビ(CCTV)による災害救援映像が捏造されたプロパガンダであることを確認した。
CCTVの映像では、ほとんどの救助隊員が「色鮮やかな」服を着て砂嚢を踏んだり、トラクターで人を運んだり、泥をかき回したり、お婆さんを背負ったり、子供を抱きかかえたりといったさまざまなポーズをとっている。
カニンガム氏は「張国清氏(水利副総理)はカジュアルな服装でカメラの前でポーズをとっているが、彼が握手した救助隊員は、衣服が汚れておらず、靴さえも泥がついた跡がない」として、その欺瞞性を指摘した。
実際、CCTVは民間ボランティアによる救助活動を一切報道しておらず、その目的は中国共産党を宣伝することにある。8月2日、CCTVはヘリコプターによる救助映像を公開した。しかし、ネットのコメント欄で「地上の水の深さがまだ車のタイヤを水没させていないのだから、ヘリコプターによる救助は必要ない」と指摘され、この映像が完全にフェイクであることが露呈している。
中国共産党の終焉の兆し
こうした中国共産党による一連の動きについて、米国在住の民主活動家・魏京生氏は、以下のように総括する。
「今回の洪水では、中国軍は被災者の救助に行かず、指導者も弔問には行かなかった。代わりに(避暑地である)北戴河に集まって、休日を過ごしただけだ。これは軍内部が極めて不穏であり、政情も極めて不安定であることを示している。 加えて、中国の民心は非常に怒り、馬鹿馬鹿しいとさえ思っている。これを総括すれば、まさに末世であり、中国共産党の終焉の兆しと言えるだろう」
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