スウェーデンは人口わずか1千万人ほどの小国だが、高度な工業化を遂げている。世界クラスの自動車や「サーブ39グリペン」といった戦闘機の設計・製造などに例示されるように、生産性の面でスウェーデンに匹敵する国はほとんどないだろう。
しかし、電力コストが高騰すれば生産性が低下し、他国の工場との競争力を失い、国内の工場が閉鎖または移転に追い込まれ、産業が崩壊してしまうという弱みを抱えている。
そんななか、生産性と競争力を維持するため、スウェーデンは最近、国際委員会の承認を待たずに「ネットゼロ政策」、すなわち温暖化対策の政策を変更することを決めた。
過去数年間、国連によって提案され、押し付けられた非現実的な達成目標である「ネットゼロ」を遵守しようとしたことで、スウェーデンや近隣の欧州諸国の電気料金は急騰した。
国連総会は、1988年に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」を設立し、人間活動が地球の気候を変えうると仮定し、人為的な気候変動に関連する科学的、技術的、社会経済的なデータを評価した。
世界中の国々が、この中央集権的な委員会によって決定された絶対的命令に盲目的に従い、すでに数兆ドルを費やしている。しかし、結果として気候は改善されたのか悪化したのかを示すエビデンスはない。
それどころか、この恐ろしいほどの資源の浪費によって西側諸国の経済はひどい状況に陥り、特に低所得者は、信頼できるエネルギーを手ごろな価格で手に入れることすらままならない。
IPCCは、1995年にベルリンで第1回締約国会議(COP1)を開催し、数万人の代表者が署名国にネットゼロ目標を割り当てた。
代表者の中には、物理学、化学、数学、幾何学、あるいは地質学、気象学、天文学、天体物理学に依拠する地球科学の知識を持つ者はほとんどいなかったようだ。彼らの主な関心事は、科学に基づく取り組みや地球に対する理解の深化ではなく、化石燃料を使用して成長した国々の富をいかに共有するかだった。
こうして、科学を政治に置き換えた彼らの集団的決定が西洋文明に対する直接の脅威になった。
そんななか、スウェーデンのエリザベス・スヴァンテソン財務相は6月20日、「我々には安定したエネルギー・システムが必要だ」と議会で発言し、経済に壊滅的な影響を与えるネットゼロ目標を一方的に廃止した。
そして、40年もの間、電力供給源として役立ってきた原子力発電に回帰することの必要性を示した。
しかし、経済を支える上で、スウェーデンの総エネルギー需要の30%は依然として炭化水素燃料(主に化石燃料)に依存しているという事実は、「非化石電源」という新たな表看板の背後に隠されていた。
「科学」のせめぎ合い
地球の気候変動の記録は、岩石、樹木の年輪、氷床コア、堆積物に刻まれている。また、歴史的な文書には人類が現れてからの短い期間の記録が刻まれている。
この惑星を包む薄い大気の中には、二酸化炭素(CO2)もある濃度で存在している。しかし、それが自然起源か人為起源かにかかわらず、周期的に訪れる惑星の劇的な気候変動の原因とはなっていない。
今すぐ利用できる「最もクリーンで安定した電力源」は石炭であると言えば、多くの人が驚くだろう。
石炭は、重労働による手工業と馬力に依存した社会から、原子力を利用する社会への移行を可能にし、その結果、人類社会は多くの人口を抱えることができるようになった。その規模は、来るべき人口過剰と貧困に警鐘を鳴らした18世紀の経済学者トマス・マルサスにも想像できなかったほどだ。
人類が排出物を、とりわけCO2の排出量を制限することによって気候が変化するという思い込みは、幻想に包まれた嘘だ。地球は、かつてウィンストン・チャーチルがロシアを定義したように、「謎に包まれた、謎の中の謎」なのだ。
もちろん、前世紀の間に知識は進歩を遂げた。例えば、惑星・宇宙サイクルと気候の関連性は、セルビアの地球物理学者ミルティン・ミランコビッチによってしっかりと確立された。今や彼の理論は、歴史上の記録、衛星からの映像、異常気象をとらえた手持ちカメラの映像など、さまざまなデータから評価できる。
現代では、香港大学のウィス・イム教授の研究により、海底火山活動と、その結果生じる地球の気候を構成する気象パターンとの間に密接な関係があることが証明されたが、自然発生のCO2にも人為的に発生したCO2にもまったく無関係だ。
環境保護団体グリーンピース・カナダの元会長であるパトリック・ムーア氏や米プリンストン大学のウィリアム・ハッパー教授のほか、著名な科学者らが行なった研究では、大気中により多くのCO2が必要であることが示され、「ネットゼロ」イデオロギーに反する結果となった。
「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」は、コストがかかる上に無益なプロジェクトだ。それどころか、植物にとって必要不可欠な栄養素であるCO2が不足すれば、あらゆる生命が脅かされる。
最も強力な温室効果ガスである水蒸気の欠乏は、短期的であっても目に見える。一方、CO2の長期的な欠乏は、致命的であるにも関わらずこれまで認識されてこなかった。しかし、それが現在では測定可能となった。
繰り返しになるが、地球上の生命は大気中に存在する以上のCO2量を必要とする。以下ではなく以上だ。
CCSベンチャーは、その投資資金を石炭火力発電所周辺の木材プランテーションや食用作物に向けるべきだ。石炭火力発電はクリーンな電気エネルギーを生み出し、緑を再生するからだ。
「崩れかけの前提条件」に立つ目標
メンジーズ研究所の事務局長であるニック・ケーター氏が、オーストラリアン紙で、ネットゼロの見通しについてまとめている。その中で、彼は専門機関であるネットゼロ局による2030年までの「石炭火力電力系統の脱炭素化のための資本コスト」に関する最新の報告書を紹介している。
ケーター氏は報告書に関して、「政府が目標を達成できると結論づけるために、崩れかけの前提条件を組み立てている」としている。
ここで提案されているロジスティクスの戦略を詳細に分析すると、エネルギー問題全体の不条理さが明らかになる。
そこでは、希少鉱物を採掘・処理し、肥沃な土地を不毛にし、信頼性もエネルギー密度も低い供給源を安定化するために信頼できる石炭火力電力系統を二重に整備し、その上数年以内にコストを回収することが要件となる。
これは産業規模の狂気だ。炭素化合物は私たちの経済にとっての生命線だ。「脱炭素」とは喉を切り、生命力を枯渇させるようなものだ。
CO2がネットゼロ、つまり正味ゼロだったことはない。有機物がこの微量ガスを大気から吸収するため、数千年の間CO2は常に正味マイナスになる傾向にあった。
幸運にも、この生命維持に不可欠なガスが火山活動によって地球内部から定期的に補給され、130ppm以上が維持されてきた。CO2が130ppm以下だと植物は飢餓状態に陥るが、今このガスを「回収・貯留」しようとする人間も同じ運命を辿ることになる。
何のために貯留するつもりだろうか。動植物の生命は、CO2レベルが今よりもはるかに高かった数億年前に繁栄した。
したがって、私たちにとって重要な化石燃料産業を閉鎖すれば、地球の温度を1、2度抑えることできると自信を持って主張する予測モデルは間違っている。
エネルギーシステム全体を破壊する恐れのあるIPCCの誓約が、西側世界を人質に取っている。
人質となった者の多くは、IPCCに協力することで利益を得ている。IPCCに洗脳され、生命の息吹であるCO2を敵だと思い込んでいる人も多い。皆で呼吸を止めれば気候の潮流を変えられるかのように装うのは、そろそろやめるべきだ。
スウェーデンは、IPCCの人質から逃れる方法について、扉を開いたように見える。
(翻訳・大室誠)
本記事で表明された見解は、著者自身の見解であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。
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