インド太平洋基地が最有力
インド太平洋は、おそらく中国共産党が新軍事基地を設置するとすれば最も合理的な場所だ。
中国共産党は第一列島線を超えて、商船と軍艦の自由な海洋支配を確保しようとしている。同様に、南シナ海からインド洋まで、この地域一帯の漁業の領土と貴重な資源の支配を拡大しようとしている。
中共が米国とその同盟国を脅かし、世界で最も重要な貿易ルートを掌握するためには、インド太平洋をより一層支配する必要がある。
リスク管理会社ノーススター・サポート・グループの地政学アナリスト、サム・ケスラー氏は、中共が世界支配を目指す上で、この地域に基地を置くことは論理的なステップだと考えている。
「現時点では、中国が将来的に海軍基地を建設する際、様々な大陸に分散させるのではなく、(中国の)影響力のある地域に近い場所に建設すると見るのが現実的だ」
エイドデータの報告書にも同様に、「太平洋とインド洋が中国にとって最も優先度の高い海軍基地建設地域だ」と記されている。
特にスリランカのハンバントタは、インド沖の戦略的立地や地元のエリート層の中共への高い支持、国際的に中共の利益に沿った投票を行ってきた実績などから、中国の次の海外拠点として最も有力な候補地だという。
実際、中共はハンバントタ港の運営権を99年間リースしている。この契約は、中国の「債務の罠」に嵌った典型的な例で、10億ドル(約1400億円)を超える免除を引き換えに中国に譲渡された。
ケスラー氏もスリランカの「魅力」には賛同する。スリランカの基地がもたらす戦略的・経済的利益は、見過ごすにはあまりにも価値が高い。
「一帯一路構想のように、中共は支配領域である中国本土を取り巻く保護のネットワークや盾を必要としている」
「グワダルやハンバントタのような高レベルの投資を伴う港湾は戦略的価値があり、中共がインド洋、インド太平洋、中東、そしてユーラシア全域にパワープロジェクション(戦力投射能力)を拡張することを可能にする」
実際、中共は過去20年間にハンバントタ国際港に20億ドル(約2800億円)以上を投資しており、中共にとって一回の投資としては最大の港湾投資となっている。また、スリランカのコロンボ港にも4億3千万ドル(約640億円)以上を投資している。どちらも、中国がインドの直接のライバルとして海を支配することを可能にするだろう。
スリランカは明白な選択肢ではあるが、可能性はそれだけではない。エイドデータの報告書とケスラー氏は、パキスタンのグワダルと豪州に近いバヌアツのルーガンビル港の可能性にも注目している。
中国政権はグワダルに約5億7700万ドル(約860億円)ルーガンビル港に約9700万ドル(約140億円)を投資している。
報告書によれば、バヌアツに基地があれば、中共は米軍と同盟軍による封じ込めを打破することが可能になる。一方、パキスタンに基地があれば、中共による「一帯一路」構想の中東への拡大がさらに強固なものとなり、重要なホルムズ海峡の支配を拡大することができる。
注目すべきは、パキスタン海軍が世界最大の中国製武器購入国であることだ。そこに海軍基地があれば、このような軍事対軍事関係が改善され、中パ両国軍の相互運用性が高まる可能性がある。
カンボジアとのつながり
インド太平洋に関して考慮すべきことは他にもある。具体的には、現在の軍事開発が将来の発展にどういった影響があるかということだ。
「リアム海軍基地を持つカンボジアは、このシナリオでも役割を果たすかもしれない」とケスラー氏は言う。中共はカンボジアのリアム海軍基地の拡張を進め、カンボジア最大の海軍基地のために深海施設を建設しており、施設自体へのアクセスから利益を得る可能性が高い。
「これまでの公式投資は少ないが、カンボジアのリアム基地は何らかの形で(中国の海軍)施設となる可能性が非常に高い」とエイドデータの報告書は述べている。
米国の国家安全保障コミュニティは2019年以来、カンボジアと中国が秘密協定を起草し、リアム基地の拡張が完了すれば、中国のタイ湾の港への制約のない軍事アクセスを確実にすると警告を発してきた。
基地の拡張と近代化によって、カンボジアで使用される船舶のサイズは、排気量1千トンから5千トンへと5倍に拡大される。つまり、中国の最新鋭の大型ミサイル駆逐艦055型を収容するには港はまだ小さいが、対艦ミサイルや電子戦パッケージを装備した小型フリゲート艦を収容できるようになるということだ。
この港は、中共が「歴史的権利」を主張する南シナ海にも隣接している。中国は、人工島を造成するなど、自国の領土を拡大しようと違法な主張を続けている。
(つづく)
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