アメリカ本土の空をドローン攻撃から守る 課題は山積み【プレミアムレポート】

2025/07/16 更新: 2025/07/16

6月初旬、ウクライナによる大規模なドローン攻撃によりロシア国内の空軍基地で複数の航空機が破壊された。中東では、イスラエルがイランに対して同様の戦術を仕掛けていたと見られる。アメリカ軍はこれを受け、軍事基地の対ドローン防衛強化に本腰を入れる。

ウクライナのドローン攻撃は、ロシアの核戦力の重要な一角を担う戦略爆撃機を少なくとも10機以上破壊した。イスラエルはドローンの部品をイラン国内に持ち込んで組み立てた後、イラン国内から弾道ミサイル発射装置および地下の発射サイロに対しドローン攻撃を実行したとされる。

アメリカ軍高官らは、同様のドローン攻撃が米本土に及ぶことを懸念する。低コストの民用ドローンで高価な兵器システムが破壊されることは、国内の軍事基地および重要インフラに継続的な脅威をもたらすためだ。

陸軍をはじめ他の軍種でも適切な基地防衛システムの設計・配備に苦戦している。ドローン攻撃への対処は、戦闘区域外で発生する多くの不確定要素に左右されるからだ。

米陸軍参謀総長のランディ・ジョージ大将は6月4日、下院軍事委員会で「戦闘地域における基地防衛と本土における基地防衛は、明らかに全く異なる概念だ」と指摘した。

ドローンの飛行に関して連邦政府、州政府、地方自治体それぞれ異なる法規制があり、さらに軍隊独自の行動ルールも別に存在する。海外の基地なら、接近する正体不明のドローンに対して制約なく防衛行動をとり、攻撃を未然に防ぐことができるが、本土の軍隊はドローンが軍事施設上空を飛行するまで迎撃する権限を持たない。

仮に基地・施設上空に侵入した場合でも、とれる選択肢は限られている。

軍の関係者によると、従来のミサイル防衛システムを使用して本土に侵入したドローンを撃墜することは極めて難しい。費用対効果に欠けるだけでなく、上空から落下する破片によって地上の人的・物的被害が生じるからだ。

軍の高官らを悩ませているのは、いかにして市民を危険に晒さない形で、ドローンの脅威から基地を守る防衛システムを構築するか、ということだ。

アメリカ軍や連邦政府が所有する電磁兵器(電波妨害によってドローンの機能を停止させる)を用いてドローンを無力化することは可能だが、電磁波の影響は広範囲に及ぶため、航空機が混雑するような空域では十分に性能を発揮できない。

3月1日、ワシントン近郊のレーガン・ナショナル空港へアプローチしていた十数機の航空機が衝突警報を誤って受信し、少なくとも6機が着陸を中止した。

アメリカ連邦航空局(FAA)は後に声明で、誤警報は政府が空港付近で行った対ドローン防衛システムの試験運用によるものだったことを明らかにした。この出来事で、本土上空における対ドローン防衛の難しさが浮き彫りとなった。

電波を照射しドローンを乗っ取る兵器「DroneDefender」の照準を合わせる米空軍警備兵(5月、Master Sgt. Jeffrey Grossi/U.S. Air Force)

 

電磁兵器システムの弱点を鑑み、米陸軍は現在対ドローン作戦において指向性エネルギー兵器の運用を検討している。レーザー、マイクロ波、粒子ビーム、音響等を利用した指向性兵器の開発は進んでいるものの、エネルギーを大量に消費する兵器は実用化の壁が高い。

米議会調査局(CRS)によると、米国防総省が所有する最新の対ドローン兵器は、1発のレーザーを発射するのに100キロワットの電力を必要とする。これは、アメリカの一般的な家庭が使用する電力3日分を上回る。兵器自体を冷却するためにも追加の電力が消費される。

アメリカ本土の軍事施設をドローン攻撃から守ることが、安全保障の問題のみならず、電力インフラの問題でもあることを示している。

新たな電力源

米陸軍長官のダニエル・P・ドリスコル氏は、既存の電力供給システムでは基地や施設を守る指向性エネルギー兵器の電力をまかなえないと指摘する。

「指向性エネルギー兵器を発射する際には非常に大きな電力が送電線を通じて流れ込むが、現行のシステムではそのような急激な負荷に耐えることができない」

この問題を解決するキーになるのは、小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる次世代の小型原子反応炉だ。既存の原子炉に比べて小規模なSMRは、工場で組み立てた後、電力が必要な現場に設置して運用する。

トランプ米大統領は5月、2028年までに米軍基地へのSMR設置を完了するよう命令する大統領令に署名した。大統領令では、「SMR、MMR(SMRよりさらに小型)、ポータブル原子炉などの先進的な小型原子炉は、防衛中枢施設およびその他の任務遂行に必要なリソースに対し、強靭で、安全で、信頼性の高い電力を供給するポテンシャルがある」とした。

大統領令に署名するトランプ大統領(5月、Win McNamee/Getty Images)

 

ドリスコル氏は、米軍事施設に侵入するドローンの数が増えていることに言及し、弾薬や物資を守るために軍需物資の保管方法を再考しなければならないと指摘する。

「これらの安価なドローンは、補給線を脅かし、自由な運用を妨げる能力がある。我々は、軍需物資の備蓄場所を分散させなければならない」「1つの大きな倉庫に物資を集積し敵の標的になるような保管方法は時代遅れだ」

民間用ドローンの脅威が増す中、一部の軍事施設では軍部による補給線の再編を待たずに、自主的に対ドローン防衛力を高めている。

米ノースカロライナ州、シーモア・ジョンソン空軍基地の関係者は昨年、地上待機中の戦闘機を小型ドローンの攻撃から守るために物理的な囲いを構築する有効性について調査していると発表した。

この取り組みは、2021年に米空軍の技術インキュベーターが実施した、ドローン攻撃から戦闘機を守る受動的防護策に関する提案募集に端を発する。

受動的対抗策に期待される効果は、使い捨て攻撃ドローンが起こす爆発の影響から兵器や装備を隔絶することで、ロシアが経験したようなドローン攻撃による壊滅的被害を防ぐことだ。

対ドローン訓練の拡大

ドローン攻撃への対応策が定まらない中、戦場やテロ行為における民間用ドローンの普及により安全保障空間の形が根本から変わる、と米政府関係者は予想する。

アメリカの重要施設がドローンの攻撃に晒されるというシナリオは現実味を帯び、有事の際にアメリカ本土も戦場になりうる。そう語ったのは、元米国防副次官補のミシェル・フロノイ氏だ。

「アメリカの重要軍事目標がドローン群に攻撃され、同時に重要インフラへのサイバー攻撃、宇宙空間での作戦遂行に対する妨害が発生する事態を想像してみてほしい。被害は甚大なものとなるだろう」

米カリフォルニア州、ナショナル・トレーニング・センターで陸軍第11装甲騎兵連隊と脅威システム管理室が交代訓練部隊(rotational units)向けに対ドローン訓練を実施(2019年5月、Pv2 James Newsome/U.S. Army)

「将来、戦場の概念が変わるだろう。自国の本土も作戦地域に含まれるようになり、空中やミサイルの脅威だけでなく、サイバー攻撃やドローンの使用も想定する必要がある」

この問題に対処すべく、トランプ政権は国内のドローン開発および対ドローン防衛システムの構築を促進する一連の抜本的な大統領令を発令した。

大統領令は、ドローンに関する規制枠組みのレビュー・現代化を担うタスクフォースの設置を命じ、国家安全保障に対する脅威とみなされる外国ドローンメーカーのリストアップを行う。

具体的な実行では、米司法省と国土安全保障省が共同で対ドローン防衛システムを対テロ合同タスクフォースへと統合する。訓練施設を新設して対ドローン人員を養成し、コンサートやスポーツイベントなどの大規模集会の際にドローンからの安全を確保することにも力を入れる。

大統領令は連邦航空局に対し、機密性の高い施設上空のドローン飛行に関する法整備を急ぐよう命令するとともに、リモートID技術を利用しリアルタイムでドローンを発見・識別するよう関係部門に働きかける。

ホワイトハウス関係者は、民用ドローンが市民にもたらす脅威はますます差し迫った課題だと話す。すでに、機密性の高い軍事施設の上空でドローンを飛行させたとして外国籍の人間が告発される事件が複数発生している。

エポックタイムズ特派員。専門は安全保障と軍事。ノリッジ大学で軍事史の修士号を取得。
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