鉄道や百貨店、ドラッグストアなど…中国人客復調でウィーチャット浸透 監視工作のリスクも

2023/12/04 更新: 2023/12/03

東京都および大手鉄道会社は11月、地下鉄きっぷの購入に中国発アプリ「ウィーチャット微信)」の決済サービスを導入すると発表した。訪日中国人のインバウンド需要が復調するなか、ウィーチャットの利用も増えているが、中国共産党による監視とプライバシー保護の面で懸念する声もある。

中国人の「生活必需品」

中国のIT大手テンセント(深セン拠点)が開発したウィーチャットは、通話やチャットのほか、個人認証、電子決済など多種多様な機能を集約したアプリだ。中国共産党が外国アプリ(X、Facebook、YouTubeなど)の利用制限を課していることもあり、中国ではほとんどの携帯電話所有者が導入、文字通り生活「必需品」となっている。

訪日中国人の増加に伴って、ウィーチャットの日本での使用も増加している。テンセントは7月、ウィーチャットの決済サービス「微信支付(ウィーチャットペイ)」の日本における新規加盟店数が226%、決済件数が342%増加したと発表。導入先は百貨店などの商業ビル内店舗やドラッグストア、コンビニなど多岐にわたる。

情報が筒抜け

いっぽう、このアプリは所有者の中国国外にいても、動きの追跡や当局によるデータ送信のリスクに直面する恐れがあるというのが、専門家らの指摘だ。

カナダ・トロント大学の情報研究機関シチズンラボが今年6月に発表した報告書によると、ウィーチャットのミニプログラムは実行中、現在地や決済方法、連絡先、入力情報などあらゆるユーザの情報が中国のサーバに送信される。これを受けて、「中国共産党政府と地元警察のデータと情報の要求に従い、本質的に大規模な監視ツールになっている」と結論づけている。

先日、米サンフランシスコで開催されたAPECでは、多くの在米華人が習近平に対する抗議活動を展開した。しかし、彼らの行動はウィーチャットアプリによって筒抜けとなり、中国本土に残してきた家族に中共関係者が「サンフランシスコでの抗議活動への参加をやめさせろ」と圧力をかけることもあった。

ウィーチャットはかねてから、海外版アプリのデータサーバは中国国内向けサーバと区別していると説明してきた。しかし中国のデータセキュリティ法などが、企業に対し捜査当局への協力を求めている以上、過信は禁物だ。

技術者の懸念

日本企業は訪日中国人の利便性向上のためにウィーチャットペイを受け入れている。しかし、日本に長年在住する中国人IT技術者は取材に対し、同アプリの「居場所の拡大」は、結果的に中国共産党による域外での監視活動に資することになると懸念を示した。

匿名を条件に取材に応じた技術者によれば、ウィーチャットは単なるメッセージングアプリではない。カメラ情報やマイクからの音声、利用者のGPS情報を絶えず追跡し、購買活動をも詳細に記録し、データセンターへと送り返している。

そのため、ウィーチャット利用者は音声や画像によるビッグデータ解析を通して、個人の性格や家庭環境、政治的傾向、友人関係、プライベートな情報まで詳細に把握される恐れがある。収取された情報を用いて、ウィーチャットは個人の嗜好に合わせた情報を日常的に利用者に提供し、利用者の認知領域に働きかけることもある。

北米や豪州では、ウィーチャットにセキュリティ上の懸念があることから、さまざまな規制をかける動きが広がっている。例えば、カナダでは「プライバシーとセキュリティに容認できないレベルのリスクをもたらす」ことから、政府デバイスでの使用を禁止した。

米国ではトランプ政権時代にTikTokとともに使用停止を命ずる大統領令が出されが、裁判所がその効力を停止している。

どうする、日本

こうしたなか、都内の鉄道会社はウィーチャットペイ導入に踏み切った。

鉄道関係機関は大紀元エポックタイムズの取材に対し、利用客はウィーチャットのミニプログラムを通じて、QRコードを使いアナログの乗車券を発券する。アプリを改札機に直接タッチして乗車するわけではないため、ウィーチャットによる乗客の位置情報の収集はなく、当該機関のネットワークへの直接接続も行われない、と回答した。

サイバーセキュリティで欧米に遅れをとる日本政府だが、中国製アプリの脅威に直面し、欧米諸国と足並みを揃えている。松野官房長官が3月、政府端末では「TikTokをはじめとするSNSなど外部サービスを利用することはできない」と明言している。

志ある議員による注意喚起も行われてきた。自民党の長尾敬衆院議員(当時)は21年、「米国でエンティティリストに載りかけたテンセントのような企業からの出資は純投資とは言えないのではないか」と内閣委員会で述べている。また、日本維新の会の浦野靖人衆院議員は「世界で十億人が使っているウィーチャットは、中国政府がデータを使って利用者を監視している」との懸念を表した。

鉄道関係機関に対し、ウィーチャットペイの安全面に対する懸念についても質問したが、直接的な回答は得られなかった。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。