19世紀、世界史上の産業革命は鉄道という新たな技術によって加速された。1890年までに、鉄道産業のために公開株式発行や民間資金調達で約100億ドル(現在の価値で約3470億ドル)が集められた。現在、私たちは人工知能(AI)という最新の革新的技術の開発において、同様の投機的バブルを経験している。
鉄道は従来、危険なルートや長距離輸送において、高速で大量の物資を陸路で輸送することを可能にした。よって、鉄道会社は、19世紀半ばには投機的投資の最大の対象産業となり、個人投資家、銀行、他の投資会社、政府から資本を集めた。
その中には詐欺的な企業もあり、実際には一マイルも鉄道を敷かなかった企業もあり、加えて合法的ではあったが、過剰に拡大しすぎて、膨大な負債を抱えてしまった企業もあり、需要が十分でなく、競合が多すぎたため、投資回収に苦しんだと言う。1890年までに、50年以上続いた鉄道ブームで、資金提供を受けた企業の半数は破産していった。
1893年、アメリカで発生した深刻な金融危機および経済不況のパニックにおいては、1年足らずで米国の鉄道会社の25%に相当する多くの会社が倒産した。その主な会社は、フィラデルフィア・アンド・レディング、エリー、ノーザン・パシフィック、ユニオン・パシフィックといった主要鉄道会社だった。この業界は、金融家J.P.モルガンが率いる銀行コンソーシアムによって救われ、統合が強制され、地域ごとに高価格な独占が生まれた。
現在、私たちは、AIの開発において投機的なバブルを経験している。具体的な数字を挙げるのは難しいが、AIへの累積投資はすでに何百億ドルにも上ると言う。AI関連企業は、2024年の収益と市場価値上昇の大半を占めていた。投資家たちは、この斬新なテクノロジーに関連するあらゆるものに投資している。
米国株式市場を牽引する「マグニフィセント・セブン(Magnificent Seven)」は、2024年に利益を33%増加させた。この7つの大型テクノロジー企業を除いたS&P 500の残り493社は、わずか4%の利益成長にとどまったと言う。第4四半期だけで、マグニフィセント・セブンの時価総額の増加は、S&P 500のリターンの100%以上を占め、残りの企業は市場価値を失っただろうことが示唆されている。
ドナルド・トランプ大統領は最近、スターゲート(Stargate Project)という民間主導の計画を発表した。この計画は、AIインフラに5千億ドルを投資するというものだ。AI技術の重要な要素であるAI専用半導体の大手提供者であるNvidiaは、2024年末時点で約3.3兆ドルの株式価値を持ち、時価総額で世界第3位の企業となった。
1月27日、突如、Nvidiaは一日で6千億ドルの株式価値を失ったが、これは1社による株式市場価値の損失としては過去最大であった。他のAI関連のテクノロジー企業も大きな市場価値の損失を経験した。アメリカのAI投資を示す指標であるフィラデルフィア半導体指数は9%以上下落し、これは2020年3月のCOVID-19パンデミック時以来、1日で最大の下げ幅となった。Nvidiaを含めると、時価総額の損失は1兆ドルを超えた。
この暴落の原因は、中国のスタートアップ企業「ディープシーク(Deep Seek)」に関するニュースだ。この企業は、アメリカの競合企業と比較して、低コストで高性能な生成AIモデルを開発したという。ディープシークは急速にオンラインアプリストアでのAIツールのダウンロード数でトップに立ち、アメリカのChatGPTなどの既存企業を超えた。
アメリカの投資家は、ディープシークがAIへの投資理論を完全に覆し、Nvidiaなどのアメリカ企業の支配力を脅かすことを恐れている。19世紀の競争的な土地争奪戦のように、何十億ドル、場合によっては何百億ドルのデータセンターやその他のインフラへの投資が、より低コストで効率的な競合企業によって無駄になってしまう可能性があると言うのだ。
時間が経てば、脅威が本物かどうかが分かるだろうが、ディープシークは、うまく仕組まれた「ディープフェイク」に過ぎないかもしれない。
ディープシークの能力は、競合する米国のモデルと比較され、テストされ始めたばかりだ。観察者たちは、スターゲートのアメリカでの発表の後に、このニュースが飛び込んでくるタイミングが不審なほど都合がよく、市場からガスを抜くことを意図しているように見えると指摘した。中国の通信企業ファーウェイやソーシャルメディア企業TikTok(いずれも最終的には中国共産党の影響下にある)を巡る論争と同様に、北京のディープシークへの関与や、データ収集、監視、政府検閲のためのトロイの木馬ではないかという懸念が提起されている。
ディープシークのAIツールは、中共の指導者である習近平、台湾に関する質問に答えることを拒否しており、その情報の偏りをいち早く示している。これらの問題を含むその他の懸念は、ディープシークが最終的に、アメリカやヨーロッパでの導入や利用に際して、かなりの規制上の障害に直面する可能性があることを示唆している。
AIの登場が莫大な価値を生み出し、生産性を劇的に向上させる可能性を秘めていることは疑う余地がない。しかし、その力が他の技術革新と同様に、少数の寡占的な巨大企業の手に集中するのか、それとも今回は状況が異なるのかという疑問が議論されている。
ディープシークはおそらく解決策にはならないだろうが、より低コストで、データ集約的でなく、分散型で非中央集権的なモデルを見つける価値があると言える。それがもしかしたら、より民主的な技術的未来を提供するかもしれない。ブロックチェーン技術(分散型台帳技術の一種)を基盤とするオープンソースのプラットフォーム、「イーサリアム」のコミュニティの開発者たちが導入を目指しているようなこの技術は、その解決策の一部を提供するかもしれないと言うのだ。
鉄道、自動車、ラジオ、テレビ、コンピュータ、インターネットといった、テクノロジーによって生まれた投機的なバブルと同様に、数人の勝者と多くの敗者が出ることになるだろう。ユニコーンを選び、ラバを拒絶するのは難しい仕事だ。マグニフィセントセブンに対する盲目的な投機と、ディープシークがアメリカの競合を駆逐するという反射的な恐れは、いずれも過剰反応である可能性があるかもしれない。
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