香港では今月10日、選挙制度の変更後初めてとなる、地方議会に当たる「区議会の議員選挙」が行われた。
投票率は、27.54%と過去最低を記録。2019年11月に行われた前回の同選挙は、過去最高の71.2%であったので、今回はその半分にも満たなかったことになる。
従来、この区議会議員選挙は「香港で最も民意を反映しやすい選挙」とも言われてきた。
しかし、これほど投票率が低ければ選挙の正当性が疑問視され、また政府の面子にも関わるため、香港当局は「これは民主的な選挙である」とアピールすることに、選挙後の今、必死になっている。
選挙の前日には、投票率の向上を狙った大規模なプロモーションまで実施され、コンサートが開催され、博物館などが入場無料になった。
しかし、そうした演出の効果は乏しく、多くの香港市民は「ただのショー」である今回の選挙への投票に無関心であった。
あるいは、多くの香港市民が、無関心という意志表示によって、中共傘下の香港政府に対し「反対票」を投じたとも言える。今回の区議会議員選挙は「選挙そのものが無視された」と言ってもよいほど、異様な結果となった。
今年7月、親中派に有利なように、選挙制度の大幅な変更がなされた。直接投票枠で立候補するには地区委員会からの推薦が必要となったが、その委員は全員が親中派である。そのため、前回の選挙で圧勝した民主派からは1人も立候補できず、候補者は親中派一色になった。
そうした経緯から、今回の区議会議員は「本当の民主的選挙ではない」と多くの市民が反発している。
香港では2020年に「香港国家安全維持法」が施行された。以来、香港当局は反政府的な言動への取り締まりを強化し、民主派の排除を進めてきた。
測量技師の香港市民、黄さん(26歳)は英紙ガーディアンに対し「当局は誰も投票に行かないことを心配しているようだ。街頭やバスの中、テレビなどで選挙広告が流れている。でも、私は候補者のことを知らないし(候補者の中に)私の関心を引くような人はいない。だから投票にはいかない」と、選挙前に語っている。
また60歳の陳さんは「今回は投票に行かない。私が投票に行かないのは、これが初めてだ」という。「なぜなら、これは単なるショーだからね」。陳さんはそう言って、親中派によって形骸化された「ショー選挙」を一蹴した。
いっぽう、SNSに流れている今回の区議会選挙関連の動画のなかに、とても印象に残ったものがあった。どこの誰が作ったか、これがなかなか皮肉が効いた、よい出来なのだ。
「あなたは、選挙に行くの?」と尋ねられた多くの香港市民は、香港で使われる言葉「広東語」で、皆このように答えていた。「投你老母」。
ここでいう「你老母」は直訳すると「あなたの年老いた母親」となるが、実はこれが、相手を侮辱する言葉のなかでも最高級にひどい罵語なのである。
つまり「投你老母」というのは「あなたの年老いた母親に投票する」だが、実際の意味はもっと乱暴で口汚く「投票なんかするわけないだろ。アホ」と言っているのだ。
動画では、その次に「世論調査」の結果が出る。「みんなが『老母に投票する』と言う。だから、当選するのは『老母』だろう」というのが、この動画のオチである。
いまや香港の選挙は、ここまで民衆に茶化されるレベルとなった。
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