「7月上旬、中国国家安全局の係官が私の実家に侵入し、怯える母の目の前で父を連行した。尋問するためだ」
米国の名門・ジョージタウン大学法学部に通う張津睿(ジャン・ジンルイ)さんは2023年12月、中国共産党(中共)による国境を越えた弾圧について告発するため、米国議会の証言台に立った。
「国家安全局(国安)の係官らは、私の政治信条について父にあれこれ尋ねた。私を再び『国を愛し、党(中共)を愛する 』ようしつけることを条件として、父を釈放した」
張さんが中共に目をつけられたのは、2022年の末、「白紙革命」のときだった。
「裏切り者」と呼ばれて
2022年11月、中国共産党の過酷な隔離政策(ゼロコロナ政策」)が続くなか、新疆ウイグル自治区ではビル火災により複数人が亡くなる惨劇が発生した。我慢の限界を迎えた中国人は、当局に拘束の口実を与えないよう、白いA4用紙を掲げて抗議した。
同様の活動はあっという間に全世界を席巻した。張さんを含む在米の中国人留学生たちは、国内の人々との連帯を示すため、白紙革命に参加した。ジョージタウン大学のメインキャンパスで、中共のゼロコロナ政策に反対するチラシを配布した。
しかし、チラシを配り始めてから40分と経たないうちに、他の中国人留学生から「裏切り者」「クズ」と怒鳴られた。そして、「米国政府から金銭を受け取って反中国のチラシを配っているのか」と非難された。
張さんによると、その留学生は当時通話をしていたが、スマートフォンのカメラを張さんに向けた。「この人は反政府の人間だ」と言い、電話の相手方に対し、張さんのことを中国警察に通報するように言った。
中国共産党は確かに動いていた。狙ったのは、中国国内にいる張さんの家族だった。
中国共産党の精神攻撃
2023年6月、張さんは妹から、警察による接触があったと知った。警察官から着信があり、「兄はワシントンにいるのか?ICSU(民主化組織)を創設したのか?彼が中心メンバーであることを我々も知っている」と告げられたという。
数日後、中国共産党の国家安全局が張さんの父親を訪ね、「『国を愛し、党(中共)を愛する 』ようしつける」ことを要求した。
張さんは妹と父の話から、中国共産党に標的にされていることを知った。民主派学生グループのメンバーだと疑われたのだ。
2023年、ワシントン地区において、家族が中共当局から嫌がらせを受けた学生は12人で、そのほとんどはジョージ・ワシントン大学(GWU)で学んでいた。キャンパスでは民主派の中国人学生と、親中共派の中国人学生・学者協会(CSSA)の間で対立が見られ、民主派の学生たちは2023年3月、GWU独立中国学生連合(ICSU)を結成した。張さんもメンバーだと中共は考えていたという。
張さんは困惑した。同団体が主催するイベントには参加していないが、ICSUのメンバーも参加するイベントに偶然参加した可能性は否定できない。そこで、張さんは自身の家族が経験したことをマスコミに語った。しかし、中共による家族への嫌がらせは続いた。
2023年11月下旬、中共幹部は張さんが母や妹と交わした「微信(ウィーチャット)」の通信履歴を印刷し、父親に見せた。そして、張さんが民主化運動を支持したとして、強く糾弾した。
張さんは米国議会の公聴会で、父親は「ものすごい圧力を受けていた」と語った。
「(警察の)尋問のプロセスは、人を疲弊させ、精神を消耗させ、さらに反体制派の家族の一体感を破壊するように設計されたものだ」
国境を越えた弾圧
張さんが経験したことは、米連邦捜査局(FBI)が「国境を越えた弾圧(Transnational Repression)」と呼ぶ中国共産党の迫害手法だ。
2023年12月の公聴会で、下院対中共特別委員会のマイク・ギャラガー委員長は、「中共は、世界中の人々を監視し、影響を与え、処罰し、強制しようとしている。中共は批判者らを黙らせ、政治をコントロールし、国境をはるかに越えて警察権を行使しようとしている」と説明した。
「彼ら(中共)が特に好むターゲットの1つが、米国の大学だ」
張さんは、同じように家族が嫌がらせを受けた留学生の体験談を比較し、中共の「弾圧プロセス」をまとめ上げ、米国会議員と共有した。それによると、中国共産党が行っている弾圧には、公式的なものと、非公式的なものという2種類がある。
公式的な迫害について、張さんは、「ソーシャルメディアチーム、潜在的なトラブルメーカーを発見するチーム、その家族の住所を入手するために地元の警察署に命令を送る連絡チーム、そして取り調べや脅迫を行うチームがある」と語った。
いっぽう、非公式的な迫害は「中国共産党に勇気づけられた中国共産党支持者」が自発的に実行するのだと指摘した。
(次回では、ほかの留学生に対して脅迫を行い、有罪判決を下された中国人留学生について紹介します。)
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