中国共産党が政府の補助金を利用して安価なEVの主要生産国としての地位を確立し、世界のクリーンエネルギーのサプライチェーンを支配しようとしている。
欧米諸国は中国製EVが自国の自動車産業に影響を与えるだけでなく、データ・セキュリティ・リスクももたらしていることに気づいている。各国は安全性の調査を開始したり、中国製EVに貿易障壁を設けるなど対抗策を打ち出している。
中国製EV規制に乗り出し
バイデン政権は2月29日、米国にとって国家安全保障上の脅威となりうる中国製の「コネクテッドカー」を調査するよう商務省に指示した。
バイデン氏は「これらの車は私たちのスマートフォンや、カーナビ、重要インフラ、そして車を製造している企業とつながっている」と述べ、 車そのものを遠隔操作したり、車が動かないように無効化することが可能であり、「市民やインフラに関する機密データを収集し、そのデータを中国(中共)に送り返すことができる」と述べた。
レモンド米商務長官は、コネクテッドカーは「車輪のついたスマートフォンのようなもの」だとし、「個人情報、生体情報、車両の進行方向など、ドライバーに関する機密データを大量に収集する」と述べ、国家安全保障上の重大なリスクをもたらすと指摘した。
昨年12月、米国政府は米国内で販売されるEVに中国製バッテリーの使用を禁止することを発表した。また、米国のクリーンエネルギー産業を保護するため、中国製EVを含む中国製品への新たな関税を検討している。
しかし一部の中国企業は、メキシコなどの国に組立工場を設置することで、米国の関税を回避しようとしている。
中国EV大手BYDは2月28日、メキシコで工場用地を探していると明かした。データ・セキュリティの方向での米国の対抗措置は、柔軟な対応だと考えられている。
中国製EVの主な輸出先はEUだ。欧州の関税は米国より低く、米国が27.5%なのに対しEUは5〜10%となっている。欧州委員会は、中国製EVが欧州の電気自動車市場の8%を占め、2025年には15%まで増加する可能性があると指摘している。
欧州では、1400万人が自動車製造業に直接または間接的に携わっているとされ、中国製EVはEUメーカーの競争力を弱め、欧州の何千もの雇用を危険にさらしている。
欧州委員会は昨年10月、安価な中国製EVの輸入から自国の生産者を守るため、懲罰的関税をかけるべきかどうかについて調査を開始した。 EUによると、調査の対象は、原材料やバッテリーの価格から、優遇融資や安価な土地の供給まで、幅広い不当な補助金だという。
最近、自動車業界関係者がニュースメディア「ポリティコ」に語ったところによると、英国も中国のEV市場に対する調査を開始する準備を進めており、それに応じて関税を課す可能性があるという。
台湾国立国防安全研究院の王繍雯・準研究員は、中国製EVが世界中に大量にダンピングされることで、現在自動車産業が支配している世界経済の構造が大きく変わるだろうと語った。
また中国経済研究院国際経済研究所の准研究員である戴志言氏は「欧米諸国は貿易障壁を利用し、関税を引き上げ、調査を強化するなどの方法で中国製EVのダンピングを妨害し、特許侵害や知的財産権訴訟などの方法で欧米諸国で中国製EVの販売を速やかに禁止する可能性が高い」と述べており、公用車の調達に当たって、一部ブランドの車を対象外にする方針を打ち出すなど、欧米の対抗措置は政府調達にも及ぶ可能性が高いと分析している。
国の自動車産業を守る
データ・セキュリティへの配慮に加え、国内の自動車産業を保護することも要因の一つだ。
1月24日、テスラのイーロン・マスク氏は、「貿易障壁がなければ、中国製自動車はおそらく世界の競争相手の大半に勝っていただろう」と述べた。
例えば、英国ではBYDのEVハッチバック・DOLPHINは2万5490ポンド(約485万円)からで、フォルクスワーゲンより約27%安い。
フォード最高経営責任者(CEO)・ジム・ファーレイ氏は、他の企業はEV分野で中国の自動車メーカーと競争するのは難しいだろうと述べた。 欧州のEV市場における中国メーカーのシェアは、2年前にはゼロだったが、現在は約10%まで拡大している。
戴志言氏は、中国製EVの過剰生産は、欧州、米国、日本の自動車メーカーに打撃を与えるだろうと語った。またこれらの国では中国車に対する厳しい審査が行われるだろうと指摘した。
またこうした中国製EVの過剰生産で、欧米、日本の生産ラインがシャットダウンされる可能性がある。そうすると失業者が出る。
そして、通常、中国のEVは、音楽や動画のストリーミング配信、オンラインゲームなどの遠隔エンターテインメントサービスや、交通状況や道路状態のリアルタイム情報などのデータ収集など、いくつかのサービスを持ち込むため、こうしたサービス市場のバランスも損なわれる。
中国製EV補助金を巡って
中共の奨励政策により、EV輸出市場における中国のシェアは、2020年の4%から2022年には21%に上昇した。 中国汽車工業協会によると、中国自動車輸出台数は2020年以降3倍に増加した。2022年の自動車輸出台数は300万台を突破。
BYDは2023年第4四半期にテスラを抜いて世界最大のEVメーカーとなった。同社は安価なEVの生産で知られるが、2月にフェラーリやランボルギーニに対抗する約3500万円の最高級EVを発表した。
中国でのEVの生産コストが他の地域よりも低い。その主な理由は、過去10年間、中共の刺激策と補助金政策により、中国が世界最大のEV市場になり、原材料を含む世界の電気自動車供給チェーンを支配しているからだ。
コンサルタント会社のアリックスパートナーズは、2016年から2022年の間に、中共がEVとハイブリッド車に対して行った国家補助金は総額570億米ドル(約8兆5600億円)に上ると推定している。
王繡雯氏は、中国のEVが安い理由を分析した。第1に、研究開発プロセスのほとんどが他国の先進技術のコピーに頼っており、研究開発コストが安いこと。
第2に、中共政府がEVに多額の補助金を出しており、産官学と研究が国民運動という形で緊密に連携しており、BYDはEV業界のファーウェイと言える。
第3に、中共が産業用ロボットの世界最大の市場となっており、自動化とデジタル技術を駆使したスマート工場やターンオフ工場が早くから運営されており、労働力の雇用コストが安いことである。
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