論評
カマラ・ハリス氏とドナルド・トランプ氏の間には大きな違いがあるが、中国との貿易と投資に関しては両者の間には驚くべき類似点がある。両者とも、現在の対立的な姿勢を維持する意向が強くうかがえる。しかし、ホワイトハウスからそれぞれが追求する戦術には違いがある。
トランプ氏は大統領在任中、中国に関税をかけ、北京政府に政策変更を要求したことで知られている。大統領に咲き戻ったら、この路線を継続するつもりであることを明らかにしている。
ハリス氏は、バイデン大統領の政策を継続する意思を強く示している。もちろん、大統領に当選したら異なるアプローチを選ぶ可能性もあるが、ハリス氏の外交や経済に関する経験が限られていることを考えると、バイデン氏と共に示した姿勢を維持する可能性が高いと考えられる。
バイデン氏は、2020年の選挙戦でトランプ氏を激しく批判していたが、就任後はトランプ氏がとっていた(中国共産党に対する)敵対的な姿勢をさらに強化している。
ここで少し最近の歴史を振り返ると、トランプ氏が2017年に大統領に就任した際、グローバル化全般、特に中国に対して強い敵意を示していた。彼は、グローバル化がアメリカ人から雇用を奪い、中国の政策がアメリカに最悪のダメージを与えたと主張していた。
また中国がこれまでのように国内産業への補助金を出し続けたり、特許保護に違反したり、中国でビジネスを展開するアメリカ企業に対し、独自の技術や企業秘密を中国に移転しなければならないと要求した場合、報復すると警告していた。同氏はこれらの行為を一種の「窃盗」と表現していた。
トランプ氏は、中国政府(中国共産党政権、以下「中共」)に自らの望む改革を迫るために、中国製品に関税を課した。2018年9月には約2千億ドル相当の中国製品に10%の関税を課し、中共が態度を変えなかったため、2019年5月にはその関税を25%に引き上げた。同年8月には、さらに3千億ドル相当の中国製品に10%の関税を課し、9月には追加で1120億ドルの中国製品に対しても関税を拡大した。
トランプ氏はまた、中国への技術売却を厳しく制限し、特にファーウェイのような中国企業がアメリカ国内で事業を展開することを阻止していた。2020年1月、トランプ氏は中共と合意に達し、中国が求められた政策変更を行った後、関税を撤廃することを約束したが、その合意は何も実現しなかった。
バイデン氏は2020年の選挙戦でトランプ氏の強硬的な態度を批判していたが、就任後はすべての関税を維持した。バイデン氏の通商代表であるキャサリン・タイ氏は関税を中共に(海外企業への)差別政策を変えさせるための手段だと表現したが、これはトランプ氏のやり方と同じだ。
その後、バイデン政権はさらに中共に対して圧力を強化した。中国への先進的なコンピューターチップの販売やチップ製造設備の販売を禁止し、日本とオランダにもこの制限に加わるよう要請した。バイデン氏はまた、アメリカの中国技術への投資を禁止し、中共の補助金に対抗するためにアメリカ国内の半導体製造を補助した。過去12か月間で、中国製の電気自動車(EV)、バッテリー、EV部品、風車や太陽電池のグリーンテクノロジー製品に追加関税を課している。
ホワイトハウスでの再任を視野に入れているトランプ氏は、中共に対する圧力をさらに強化する意向を明確に示している。すでに中国製品全般に対して60%の関税を課し、中国が2000年から享受しているアメリカとの恒久的正常貿易関係(PNTR)を撤回することを提案している。
同氏はまた、中国との完全な技術的デカップリング(分離)を提案しているが、消費財、エネルギーなど、それほど機密性が高くない技術分野での個別の協定にも前向きだ。前任期と変わらず、トランプ氏は同盟や多国間主義よりも二国間協定を好んでいる。
ハリス氏はトランプ氏ほど明確ではないが、バイデン政権が進めてきた同様の貿易敵対的な姿勢から逸脱する兆しは見られない。しかし、彼女の戦略はトランプ氏とは大きく異なるであろう。ハリス氏は「デカップリング」という言葉を避け、「リスク回避」という表現を好んで使っている。これはヨーロッパが使用しているのと同じ表現だが、両者のアプローチの実際の違いがどこにあるのかは明確ではない。それでも、この曖昧な表現はハリス氏に柔軟性を持たせており、これがヨーロッパがこの表現を好む理由であることは間違いない。
また、ハリス氏はトランプ氏が拒絶してきた多国間主義を支持している。同氏はバイデン氏とともにG7を押し進め、中国の「一帯一路」構想に対抗するための共同のグローバルインフラプロジェクトを支持していた。
同様に、日本、韓国、台湾、アメリカによる半導体パートナーシップ、いわゆる「チップ4」アライアンスにも賛同しているようだ。ハリス氏が大統領になった場合、これらから離れる可能性もあるが、そのような兆候は見られない。
戦術、レトリック、スタイルには違いがあるものの、両候補者は中共に対する懸念と中国の貿易慣行と野心への反対という点で共通している。特に今の議会も対中貿易や投資に対して超党派で敵意を示している。次の議会も同様である可能性が高いことを考えると、この分野においては、11月の選挙で誰が勝利するかはほとんど重要ではないように見える。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。