アメリカ軍事 生産計画、真直度管理、製造現場は潜水艦でも一体でなければ

バージニア級潜水艦生産不足で米国の潜水艦覇権が中国に移る恐れ

2024/10/17 更新: 2024/10/17

アメリカ議会下院国防歳出小委員会のケン・カルバート委員長(共和党、カリフォルニア州)は、バージニア級潜水艦計画の予算を2030年までに、170億ドル超過する見込みで、少なくとも2〜3年遅れていることを明らかにした。

ブルームバーグの報道によると、アメリカ海軍は少なくとも18か月前からこの事実を認識していたが、9月初旬まで議会に報告しなかった。

これは特に悪いニュースだ。潜水艦は中国やロシアなどの対等な競争相手と対峙する際、最も重要な海軍艦艇だからだ。この悪いニュースに対し、カルバート議員の事務所は次のような警告的な声明を発表した。

「デル・トロ長官、あなたの45日間の造船レビューでは、設計の成熟度、初号艦への移行、生産、設計要員、調達・契約戦略、サプライチェーン、熟練労働力、政府職員に関する多くの連続する問題が見つかった。

率直に言って、ナン・マッカーディ違反 [1] について議論していない唯一の理由は、海軍の進捗度の測定基準の保持と事実の報告のシステムが、良く言っても不明瞭で欠陥があり、最悪の場合、誤解を招く可能性があるからだ。造船プログラムの流れについて正確な情報を持っている人がいるとは思えない」

[1] ナン・マッカーディ違反 アメリカの国防調達プログラムにおけるコスト超過を監視・報告するための法的メカニズム

この更新情報で、新鋭の原潜であるバージニア級潜水艦が2〜3年遅れていることが明らかになり、カルバート議員によると、「異常なコスト増」により計画コストが1840~2010億ドルに増加するとのことだ。カルバート議員はまた、バージニア級と共に他のいくつかの海軍計画も「危機的状況にある」と述べている。

バージニア級計画は危機的状況にあるだけでなく、実際に、危機を引き起こしている。最新のロサンゼルス級潜水艦でさえ、退役年齢に近づいているからだ。海軍がいくつかの潜水艦の使用期間を3〜4年延長できたとしても、退役する攻撃型潜水艦の数は建造・就役する数を上回ることになる。

2023年6月の議会調査局(CRS)レポートによると、海軍の2024年度30年間(FY 2024-FY 2053)造船計画の下では、SSN(攻撃型潜水艦)の数は2030年度に最小46隻まで減少し、その後再び増加して2053年度には最小60隻になると予測している。しかし、この2023年CRSレポートは、最近明らかになったバージニア級計画の悪い状況を考慮に入れていない。結果として、2030年までに攻撃型潜水艦の数は46隻を下回る可能性があるということだ。

一方、アジア・タイムズの報道によると、中国は2025年までに65隻の攻撃型潜水艦を、2035年までに80隻の攻撃型潜水艦を保有する予定で、その中には非常に高性能で極めてステルス性の高いディーゼル電気推進の攻撃型潜水艦が多く含まれる。これは、中国が地域の利益を守るため極めて高い攻撃能力を持つ潜水艦と対艦兵器を多数持ち、同時に核潜水艦を世界中どこにでも展開できることを意味する。

さらに悪いことに、同じCRSレポートは、我々の攻撃型潜水艦のうち展開可能なのはわずか63%で、展開可能な潜水艦の数はさらに減少傾向にあると指摘した。これは、特に中国やロシアとの緊張が高まった場合、我々のニーズを満たすのに十分な潜水艦がないことを意味する。

退役する冷戦時代の原潜688i攻撃型潜水艦(ロサンゼルス級潜水艦の改良型)の代替として年間2隻の潜水艦を納入すべきところ、実際には年間1.2〜1.4隻しか建造していないため、このような減少が見られる。

しかし、以前はそうではなかった。1980年代、米海軍は年間4隻の攻撃型潜水艦を調達・建造することができ、造船所の生産量は需要に見合っていた。

さらに、Navy Proceedingsの記事によると、1960年代以降、合計で13の造船所が純減している。その結果、大型海軍艦艇を建造しているのはわずか4つの主要請負業者が所有する7つの造船所だけだ。さらに、原子力空母と潜水艦を建造しているのはわずか2つの造船所だ。

対照的に、中国の20以上の造船所は海軍艦艇の拡大をサポートするだけでなく、商業用造船も行っている。これにより、海軍建造のための追加的なインフラと、より大規模で回復力のある労働力を支える幅広い収益基盤が提供され、海軍建造の間接費を削減している。そのため、中国にはアメリカ最大の造船所を凌駕する数十の造船所がある。これらを合わせると、中国の造船能力はアメリカの232倍になる。

さらに、我々の造船能力は需要を満たすには不十分である。この能力不足に加えて、防衛請負業者に責任を負わせることができなかった議会の失敗と、競争の欠如とが、原子力攻撃型潜水艦の価格の大幅な上昇をもたらした。

バージニア級の前身である688ロサンゼルス級攻撃型潜水艦は2023年の価格で18.3億ドルだったが、バージニア級潜水艦の最新型として開発されており、攻撃能力とステルス性能を強化した多目的潜水艦、ブロックV バージニア級攻撃型潜水艦は現在1隻あたり48億ドルだ。

これでさえ現在のコストを過小評価している可能性がある。海軍は今、バージニア級潜水艦2隻の調達に総額113.5億ドルを要求しており、そのうち1隻はさらに込み入った仕様であろう特殊作戦部隊をサポートするように改造されている。

確かに、ブロックV バージニア級潜水艦はロサンゼルス級よりも40%大きくなっている。しかし、ロサンゼルス級の2〜3倍の戦闘力と存在感を提供するわけではなく、バージニア級の複雑さ(多目的性)が生産の遅れの一因となっている。

アメリカ海軍は最近、潜水艦の生産率を向上させるために潜水艦産業基盤を強化する措置を講じた。これには、アラバマ州モービル郊外に355エーカーの造船所を建設して潜水艦生産をサポートすることも含まれる。

しかし、バージニア級計画がいかに悪化していたかを、1年半もの間、議会に隠していた事実に、適切に対処していない。そして最も重要なことは、現状では海軍が中国に潜水艦力でアメリカを追い越させる計画を立てているように見えることだ。

法外に高価な原子力潜水艦を建造できる海軍造船所が不足していることを考えると、おそらく海軍はアメリカの潜水艦力を最大化するために、はるかに安価で建造しやすいディーゼル電気推進潜水艦を建造することが選択肢の一つになるだろう。

しかし、従来型潜水艦を加えても、納税者は年々少ない見返りしか得られないという根本的な問題は解決されない。

米海軍が中国海軍に対して地盤を失い続けないようにするためには、議会が深刻な文化変革を伴う防衛改革を追求し、同時に「海洋大国」を自称する国にふさわしいレベルまで、民間および軍事造船能力を再構築するための、大規模なイニシアチブを実施する必要がある。

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