中国共産党が突如、日本に対するビザ免除を一方的に再開すると発表した。こうした政策の転換は、中国の国内経済への刺激とアメリカのトランプ次期政権下での国際関係の布石として解釈されている。この記事では、中共当局の政策の転換が持つ多様な意図と、そのことが国際政治に与える影響について詳細に分析する。
最近、トランプ氏は大統領に就任した後に中国製品に対して10%追加で関税を賦課すると発表した。こうした今後迫りくる対中共強硬政策に対抗するため、中共は日本を含む米国の同盟国を懐柔し、同盟関係を弱体化させようと図っている。日本の専門家は、日本は米国と緊密に連携している重要な同盟国であり、日米同盟は中共のいかなる措置によっても両国の関係が弱体化することはないとの見方を示した。
中共外交部は22日、日本の一般旅券を持つ人々に対する中国入国のビザ免除措置を今月30日から再開すると発表した。滞在期間は30日間。日本で中共の「一方的なビザ免除再開」に波紋が広がっている。
2020年3月にパンデミックの影響で、日本の一般旅券を持つ人々に対して入国ビザの免除を停止。パンデミックが収まった後、日本の経済界からの要請を受けて、日本政府は中共当局側にビザ免除の再開を何度も求めたが、中共はビザ免除の再開には「相互主義」が必要だと突き返してきた。
中国国民が日本を訪れる際にも同様のビザ免除待遇を受けることが条件とされたが、日本側は中国共産党との相互ビザ免除提案を受け入れなかった。
日中交流を促す団体に所属する日本側の高官は、ビザ免除に関して「事態がこれほど突然に展開するとは思わなかった」と驚きの声を上げている。
石破首相はその夜、日本側がすでに中国側に早期のビザ免除再開を何度も要求し、多層的なコミュニケーションを行ってきたと述べた。そのうえで、日本はこのビザ免除措置が両国の交流をさらに活発化させることを期待していると強調した。林官房長官は、この措置が両国の交流をよりスムーズにすることを期待していると表明した。
対日ビザ免除再開 経済活性化を図る
中共は従来のビザの相互免除でない限り一方的に免除することはないとの方針を転換し、日本に対する一方的なビザ免除を突然再開した理由について、中国経済の活性化とトランプ次期政権による対中制裁を見据えた措置であるとみられる。
中国経済の低迷が続く中、中共にとっては外国企業の対中投資を呼び込みたいところであり、またトランプ氏就任前に日本などとの関係修復を急ぎたいところだ。
不動産業の衰退などにより中国経済が下降したうえ、中共の「国家安全法」の施行によって外国企業の経営環境が悪化し、外資の中国撤退が相次いでいる。中共は経済を守るために、中国にある外国企業の撤退を防ぎ、できる限り外国資本を誘致する必要がある。
21日、中共商務部はホームページで対外貿易の安定成長を促進する政策措置に関する通知を発表した。その中の第8項目では、ビジネス渡航を促進し、より多くの国々とのビザ相互免除に関する協定の締結を推進し、中国への一方的ビザ免除国の範囲を拡大すると記されている。
中共国家外貨管理局の「中国国際収支表」によれば、中国への外国直接投資は急激に減少しており、特に外国資本の撤退(企業の規模縮小を含む)が新規投資を上回っている。2024年第2四半期の外国直接投資は148億ドルのマイナスとなり、2023年第3四半期以来のマイナスとなった。
日本の財務省が発表した「国際収支状況」も、対中直接投資が2021年にピークに達した後、減少に転じ、対中撤退や直接投資の縮小が増加していることを示している。
中国に進出している日本企業の団体は、20日に会員企業に対する最新の調査結果を発表。調査結果によると、在中日本企業は対中投資に対して引き続き慎重な姿勢を示しており、44%が対中投資を縮小すると回答、60%以上が今年の中国経済の景気が悪化していると認知していることが分かった。
このような背景の中で、中共は短期ビザ免除を通じてビジネス関係者や観光客の往来を増やし、日本企業の投資をさらに誘致することで経済を活性化させることを狙っている。
従来より狙う日米同盟の分離を再度仕掛ける
中共は来年1月にトランプ氏が大統領に復帰することを見越して、アメリカの同盟国や他の国々との関係修復・改善に積極的に取り組んでいる。尹錫悅政権の下で韓中関係は悪化していたが、8日に韓国が初めて中共のビザ免除リストに加わった。
20日には、ブラジル公式訪問した習近平がルーラ大統領に月の石を贈り、同じBRICS加盟国であるブラジルとの外交および商業関係の強化を訴えた。
日中間には領土問題やイデオロギーの対立など課題が山積している。日本はアメリカなどの同盟国とともに、アジア太平洋地域における中共の覇権拡張を抑制している。安倍政権以降、中共による一方的な現状変更に対して明確に抵抗する姿勢に傾き始めている。
一方、中共も靖国神社問題などを通じて日本を牽制しており、政治面において二国間関係が冷え込んでいる。
しかし、今回の日本に対する一方的なビザ免除再開は、中国共産党の対日融和の新たな動きと見なされている。
日本の経済界はこの動きを歓迎しており、日本企業の中国でのビジネス環境が改善されることを期待している。またNHKの報道によると、中国の業界も対日ビザ免除の再開を歓迎しており、日本からの旅行者が中国にとって非常に重要であるとしている。日本人観光客がどの程度増加するかが今後注目されるところだ。
中共が対日ビザ免除を突然再開したことについて、日本アジア太平洋交流協会の会長である澁谷司氏はエポックタイムズに対し、米国が来年1月からトランプ政権になるため、中共が日本に対して好意的な姿勢を示していると述べた。
また、習近平が一定の権力を失い、中央軍事委員会副主席の張又俠が実権を握っているため、習近平が推進してきた「戦狼外交」を停止し、日本などに対して融和的な政策を採用していると指摘した。そうしなければ、中国経済の悪化を食い止めることができないためだ。
最近中国国内で発生する無差別殺傷事件により、中国への渡航を躊躇する外国のビジネスマンも少なくないはずだ。海外のビジネスマンの懸念を払しょくしたいためか、中共が「世界で最も安全な国」と喧伝している。
しかし、実際は11月中旬までに約100件の「無差別殺傷事件」が報告されており、世界で最も安全な国とはお世辞にも言えない情況だ。
澁谷氏は、中国では数日ごとに人々を驚かせる「張献忠事件」(社会報復事件)が発生していると述べた。最近、中国のネットでよく見られる「張献忠」とは、1630年頃に四川で起きた農民反乱を起こして、皇帝を自称した人物のことだ。反乱の過程で、無差別に市民が殺害された。
この事件になぞらえ、社会報復事件・無差別殺傷事件を「張献忠事件」と呼ばれている。
習近平が最も警戒しているのは?
スイス金融大手UBSの研究部門は、2025~2026年の中国経済の見通しを発表した。米国が2025年9月から段階的に中国からの輸入品に対する関税を引き上げる場合、同年の中国の経済成長率は4%に減速し、2026年にはさらに3%まで減速すると予想している。このことは、習近平がトランプ次期政権を警戒している主因の一つと考えられている。
最も、中共にとって経済の低迷は共産党による一党支配の「正当性」を揺り動かしかねない重大な懸念事項だ。中共の歴代指導者が掲げてきた「中国の特色ある社会主義」による「功績」が称えられることによって、共産党統治の正当性が強調されてきた。
そのため、経済を安定的に成長させたい党中央の意向に反するようなトランプ次期政権に経済的な強硬策に警戒しているとみられる。
トランプ氏が任命した閣僚の中には、国務長官に就任予定のマルコ・ルビオ氏を筆頭に対中強硬派が多い。法学者の袁紅氷教授によれば、トランプ氏の強硬な対中政策に対抗するために、中共のシンクタンクは中共指導部に6つの対応戦略を提案しており、その一つはアメリカの同盟国を分断すると同時に、日本、EU、韓国、インド、オーストラリア、ASEANとの経済・外交関係を強化することだ。
中共の最近の動き、特に日本に対する突然の一方的なビザ免除の再開は、中共の国際戦略に変化があることを示唆している。しかし、中共の努力はあまり効果を上げていないとみられる。澁谷氏は、中共の措置によって日米同盟が弱体化することはないと指摘。そのため、中共は今後「戦狼外交」を再開させる可能性があると考えられる。
最後に澁谷氏は、習近平がトランプ氏を警戒しているが、より懸念しているのは軍権が他の者に移ることだと指摘した。
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