トランプ新政権下で教育制度は大改革へ

2024/11/28 更新: 2024/11/27

トランプ政権下で予想されるアメリカ公教育政策の変更は、全国的な学校選択制度、批判的人種理論(CRT)、トランスジェンダーのイデオロギー、学生ローンの債務救済、高等教育認証制度などに及ぶと見られている。また、教育省(DOE)自体の存続も議論されているが、DOEを解体するには議会による立法が必要となる。

トランプ氏は11月19日、リンダ・マクマホン氏を教育省長官に指名することを発表。声明で、「教育を州に戻す。この取り組みをリンダが主導する」と述べた。

教育省は1979年、ジミー・カーター大統領によって設立された。

その役割は平等な教育機会の保障、州や地方の教育機関に役立つ研究や情報の共有、州の援助や地方の固定資産税だけでは運営できない低所得校に追加資金を提供し、高等教育のための連邦助成金やローンプログラムを管理することだった。

ただし、教育省は、カリキュラムや卒業要件、教師および管理者の資格を直接規定する権限を持っていない。これらは州および地方自治体の裁量で決定され、市町村の固定資産税や州の補助金を主な財源として学校運営が行われている。

教育省の役割と課題

近年、教育省は特別支援教育の資金提供、民権調査、AI教育の指針提供など、新たな分野にも取り組んでいる。しかし、ヘリテージ財団のジョナサン・ブッチャー氏は、これらの業務は他の連邦機関に統合できると主張し、そうすることで税負担の大幅な軽減が可能になると述べた。

「連邦政府は、本来なら州教育省が担うべき仕事を、連邦政府の行政機関に任せるために資金を支出している」とブッチャー氏は語る。また、貧困地区への連邦支援が1人当たりの生徒配分額の10%未満にとどまる点も指摘した。

「米国教育省を廃止することで、州や学区が自ら決定を下す権限が拡大する」

同氏はさらに、学生ローン債務救済の失敗、低迷する学力テストの結果、女子スポーツに男子選手が参加する問題などを例に挙げ、教育省は「実質的な政策の進展を果たしていない」と批判した。

教育省廃止の議論と政治的背景

ブッチャー氏は、トランプ政権下では、教育省が冗長な管理費を削減し、学力向上を重視し、州および地方の教育行政官に権限を与えて指導力を向上させ、全国的に学校選択の普遍化を推進することを期待していると述べた。

一方、アメリカ教育評議会(ACE)の代表者らは、教育省の廃止が必ずしも有利ではないとの見解を示している。ACEの政府関係担当副主席補佐ジョン・ファンスミス氏は次のように述べた。「教育省は、あらゆる学区やあらゆる大学キャンパスに働きかけ、政権の政策優先事項に関して注意を喚起し、圧力をかけ、その他さまざまなことを行える、巨大で影響力のある目に見えるツールである。それがあなたの権限であるのなら、なぜそれを放棄するのか?」

大紀元は教育省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

ジェンダーイデオロギーと批判的人種理論への対策

ドナルド・トランプ氏は、7月にミネソタ州セントクラウドで行われた集会で、批判的人種理論(CRT)[1]、ジェンダー思想、その他「子どもたちに不適切な人種、性別、政治的内容」を推進する学校に対し、連邦教育資金を削減する方針を表明した。

[1]批判的人種理論(CRT)
人種と人種差別が法、政治、文化、経済などの社会的制度にどのように組み込まれているかを分析し、批判する理論
 

「ワクチンやマスクの義務を課す学校には1セントも渡さない」とトランプ氏は語り、「女性のスポーツに男性を参加させることは許さない」と強調した。

保護者団体の調査と教育現場の実態

非営利団体「Parents Defending Education(PDE)」は、学校におけるリベラル思想の事例を特定するオンラインマップを公開している。この調査は、保護者から寄せられた苦情や情報公開請求を基に行われており、近年の具体的な事例として以下が挙げられる。

  • カリフォルニア州の学区が「CRT、白人性、社会正義活動」に関するカリキュラムを開発するために53万ドルをコンサルタントに支払った事例
  • バーモント州で幼稚園児にジェンダー・アイデンティティについて教えるストーリータイムプログラム
  • バージニア州の学区が中国の組織と協力し、米国のカリキュラムを用いた学校を中国に設立する文化交流プログラムを企画した事例

さらに、PDEの調査によれば、大半の州で学区が生徒の「ジェンダー・アイデンティティ」を保護者に隠す対応をしており、これはバイデン大統領の行政命令によるTitle IXの改正を遵守するためだという。

教育政策の方向性

PDEの連邦問題ディレクター、ミシェル・エクスナー氏は、過去4年間で各州から寄せられた多くの苦情を背景に、今回の選挙結果を驚くべきものではないと述べた。「保護者たちは我慢の限界に達しています。親の信頼が失われています。学校は情報を隠すべきではなく、私たちは実力主義と能力主義に戻りつつあります。学業の基準を下げることは生徒に利益をもたらしません」と指摘した。

 

2020年12月7日、ニューヨーク市ブルックリン区で、子どもたちが授業を待ちながら校庭を眺めている(Angela Weiss/AFP via Getty Images)

エクスナー氏によれば、トランプ政権下では、連邦教育資金をすぐに利用して批判的人種理論(CRT)やジェンダー・イデオロギー・プログラムの廃止を強要することはないと考えている。

その代わりに、差別や嫌がらせの苦情を調査し​​、教育省の市民権局が違反を調査し是正を求める形で対応する可能性が高いという。

「これは、教育現場に広がるウォーク(覚醒)文化を解体する一歩となるでしょう」とエクスナー氏は述べた。

教育においては、CRT とトランスジェンダーの思想は国家的な二分法を表している。

一部のディープブルー州(大多数の有権者が一貫して民主党を支持する)の州教育局のウェブサイトページでは、トランスジェンダー可視化デーなどの特別なイベントが取り上げられている。

「一方で、アリゾナ州やアーカンソー州のような共和党支持の州の教育部門のウェブサイトには、学業水準を損なうような偏見を許容しないとの免責事項が記載されている。

「政治的な意見を述べるつもりはないが、新政権が批判的人種理論やいわゆる多様性、公平性、包摂性(DEI)の要素を学校から排除すると約束したことを評価している」と、アリゾナ州教育長官のトム・ホーン氏は大紀元への声明で述べた。

「私は長年、こうしたプログラムに反対してきました。なぜなら、人々は性格や知識、美を鑑賞する能力で判断されるべきなのに、人種に基づいて分断されるからだ」

学校選択権の拡大

全国レベルでは、ビル・キャシディ上院議員が「Educational Choice for Children Act(子どもたちの教育選択法)」を推進しており、これにより私立学校のバウチャープログラム(低所得層向けの教育補助金制度)に寄付した個人や団体に所得税控除が適用される。

キャシディ氏はトランプ氏の支持を得ており、2025年1月に共和党が上院を支配した際には健康教育労働年金委員会の委員長に就任することを目指している。

公教育と保護者の役割

キャシディ氏は、11月7日にワシントンで行われた教育改革センターのイベントで、他の政治家や教育指導者らとともに学校選択権を求める集会に参加した。

有志者たちは税金を地元の学校に限定するのは時代遅れの考えであり、その資金は公立学校、私立学校、またはホームスクールの費用の中から子供が選ぶものに使われるべきだと主張した。

フロリダ州の自由研究所の最高経営責任者クリストファー・マーカー氏は、優れた公立学校は数多くあると語った。それでも、学校の指導者や選出された役人は、親を教育プロセスのパートナーとして受け入れるのではなく、無視してきたと指摘した。

同氏は、「公共教育が工場のような非効率なモデルに陥る可能性がある」と懸念を示し、保護者の意見を取り入れることが重要だと訴えた。

全米教育協会(NEA)は、学校選択制度を州憲法に組み込む提案がコロラド州とケンタッキー州で否決された一方、ネブラスカ州では税金で賄われる私立学校バウチャープログラムを終了する住民投票が可決されたと発表した。

NEA会長ベッキー・プリングル氏は、選挙後の声明で「全ての生徒が質の高い公立学校に通えるよう、選出された指導者たちが団結して取り組むべきだ」と述べた。

高等教育における政策変更の展望

昨年、ペンシルベニア州フィラデルフィアで開催された「Moms for Liberty(自由を求める母親たち)」のサミットで、ドナルド・トランプ氏はバイデン大統領の学生ローン免除プログラムを批判し、大学入学におけるアファーマティブ・アクションを禁止する最高裁の判決を称賛した。また、連邦政府が資金を提供する多様性、公平性、包括性(DEI)プログラムを廃止する意向を示した。

全米教育評議会(ACE)のテッド・ミッチェル会長は、この選挙結果が高等教育に「不安な時期」をもたらしたと述べた。「多くのアメリカ人が、高等教育がアメリカ社会を誤った方向に導いていると感じています」と、11月6日のパネルディスカッションで語った。

外国人留学生と資金提供の課題

ACEのスピーカーたちは、トランプ氏がカナダ、オーストラリア、イギリスに倣い、外国人留学生の受け入れを制限する可能性があると指摘した。ただし、歴史的黒人大学(HBCU)や先住民大学への資金提供は超党派の支持が強いため、削減される可能性は低いと見ている。

さらに、ACEのジョン・ファンスミス氏は、トランプ氏が教育省の市民権局を活用し、DEI採用やカリキュラムプログラムに反対する可能性を予測している。「これらのプログラムは他の学生グループを本質的に差別しているとの批判がある」と述べた。

 

2024年2月22日、テキサス州オースティンのテキサス大学オースティン校で講義の準備をする学生たち(Brandon Bell/Getty Images)

認定制度への影響と反応

高等教育認定評議会(CHEA)のシニアバイスプレジデント、ジャン・フリース氏も同意を示している。CHEAは、人文科学やSTEM(科学、技術、工学、数学)の分野で業界基準を策定・維持する数十の組織を監督する非営利団体だ。

フリース氏によれば、認定制度は「DEIや社会正義プログラムよりもはるかに古くから存在している」とし、「認定制度が脅かされれば、高等教育から強い反発が予想される」と述べた。

反発の動きと今後の展望

一方、アメリカ自由人権協会(ACLU)は、自らのウェブサイトで「トランプ政権に対抗する準備ができている」と明言している。同団体は、クリティカル・レース・セオリー(CRT)やトランスジェンダー思想を教える学校を擁護する方針だ。「教室における検閲や書籍への挑戦に反対するため、議員、学生、保護者、教育者、地域社会のメンバーに支援を呼びかける」とウェブサイトに記載している。

一方、PDE(Parents Defending Education)のミシェル・エクスナー氏は、同団体のような保護者グループは訴訟に慣れており、今後ACLUからの一連の訴訟を予想していると述べた。しかし、2024年選挙で共和党が成功したことを背景に、「教育改革やすべての人にとって公平な教育を支持する人々は、自信を持って変化を期待して良い」と述べた。

「これらは常識的な課題であり、多くの国民が賛同している」とエクスナー氏は語った。「さらなる摩擦や抵抗が予想されるが、世論は我々の味方だ。彼らにとっては厳しい戦いになる」

 

「現代に合った古き良きジャーナリズム」を掲げる報道記者。表現の自由や若者のトランスジェンダー運動など、さまざまなテーマで執筆している。エポックタイムズ入社前は、オハイオ州の新聞社で20年以上にわたり記者としての経験を積み、数冊の本を出版した。ケント州立大学ジャーナリズム科卒。
関連特集: アメリカ政治