参院選で与党過半数割れ 台湾が注視する日本の政局と外交

2025/07/22 更新: 2025/07/22

台湾のシンクタンク「国策研究院」は21日、「2025年日本参議院選挙後の政治的転換と日台関係の展望」をテーマにシンポジウムを開催し、専門家や学者が今後の日本の政局と日台関係の行方について意見を交わした。

国策研究院の王宏仁事務局長は、今回の参院選で自公連立が過半数を割ったことに言及。「衆議院では多数を維持しているものの、政権の安定性は揺らぎ、外交戦略の柔軟性も損なわれている」と述べた。また、「衆参で多数派が異なるねじれ状態では、法案の成立や予算審議が困難になる。今回の選挙結果は、単なる与党への審判にとどまらず、日本の政党制度やリーダーシップの正当性そのものが問われている」と分析した。

副院長の郭育仁氏は、石破首相の選挙前の支持率が20%程度に落ち込んでいた点を挙げ、「岸田政権末期と似た状況だったが、結果は想定よりも良好だった」と評価。政権発足以来、大きな失政は見られない一方で、「自民党内の分裂が目立つものの、与野党の力関係が大きく動いているわけではない」と語った。

また郭氏は、従来であれば参院選に敗れた首相は辞任していたとしたうえで、「石破氏は3連敗にもかかわらず続投を望んでおり、理解しがたい」と指摘。国民民主党の玉木雄一郎代表が、石破政権の公約不履行を批判し、協力の意思がないことを明確にしたことは、石破政権にとって大きな懸念材料だと述べた。

輔仁大学の何思慎教授(日本語学科)は、「自民党は47議席を確保したものの、小幅な敗北にとどまった。一方で、移民政策を争点とした極右政党が躍進した」と語った。現状の野党は結束力に欠け、与党に対抗する力は乏しいとし、親台派の高市早苗氏などが本格的に台頭するには時間がかかるとの見方を示した。石破氏が7月末までに米国との関税交渉で成果を挙げ、現実的な経済政策を打ち出せば、政権維持は可能との見解を示した。

義守大学の呉明上教授(メディア学科)は、日本の参議院選を「米国の中間選挙のように、政権の評価が問われる場」と表現。農政の失策によってコメ価格が高騰し、地方の反発を招いたことが敗因の一因だと指摘。特に小泉進次郎農相がJA全農を介さず備蓄米を直接放出したことで、JA系統の支持を失ったとした。農業県での自民党の支持低下は深刻であり、早急な対応が求められるという。

高雄大学の楊鈞池教授(政治法律学科)は、「右派政党の躍進は、SNSやネット配信などを駆使した新たなメディア戦略により、若年層の支持を得た結果」と分析。さらに、従来の自民党支持層の一部が右派に流れたことが議席増につながったと述べ、有権者の意識の変化や、既存政党・伝統メディアへの不信感の高まりを映し出しているとした。

国立台湾師範大学の范世平教授(東アジア学科)は、「今回の参院選の結果自体は、連立政権の枠組みに大きな影響を及ぼすものではない」としたうえで、「今後は日本政府が米国との関税交渉に注力できる体制になるだろう」と予測。関税が引き下げられれば韓国への圧力にもなり得ると分析した。また、近年の日中高官の会談では、元駐日大使の王毅が中共側の対日政策を主導していると述べ、日本国内の反中感情が広がる中、中国人帰化者の増加が社会的分断を招く懸念も示した。

国防安全研究院の王尊彥研究員は、自民党が参院で第1党を維持したことや、麻生太郎氏、岸田文雄氏、小泉進次郎氏ら有力政治家の挑戦が想定より控えめだったことが、石破首相の続投を支える要因となっていると述べた。また、昨年の衆院選で「台湾有事は日本有事」との表現が綱領に盛り込まれていたことに触れ、対中姿勢の一貫性を評価した。

国立中興大学の蔡東杰教授(国際政治研究所)は、5度目の挑戦で首相に就任した石破氏が、内政・外交ともに厳しい課題に直面していると指摘。特に物価高や国債残高の拡大により財政出動が難しい中、経済の悪化が選挙結果に直結するリスクが高いと警告。年内に経済危機が深まれば、来年にも衆議院解散の可能性が現実味を帯びてくると述べた。

国策研究院の田弘茂院長は、今回の参院選後の政局の焦点として「石破政権が内閣改造に踏み切るか否か」が注目されると指摘し、「大幅な人事変更は行われないだろう」としながらも、「日本の政局や東アジア情勢への影響は今後も継続する」と述べた。さらに、トランプ前政権による一方的な関税政策が国際情勢を大きく変えたことを例に挙げ、「今後、日本の関税交渉姿勢が明確化すれば、台湾政府や産業界にとって貴重な参考材料となる」との見方を示した。

また田氏は、日本がフィリピンやASEAN諸国と良好な関係を築いていることから、地域のリーダーとしての役割を期待されていると強調。TSMCの九州進出が地域経済に好影響をもたらしていることを踏まえ、台湾はこうした経済連携を通じて、日本との互恵関係をさらに発展させるべきだと提言した。

鍾元
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