欧州・ロシア 致死性はフェンタニルの5倍 

欧州に広がる中国産薬物「ニタゼン」 密輸の実態を追う

2025/08/02 更新: 2025/08/02

フェンタニルよりも高い致死性を持つ中国産「ニタゼン系(Nitazenes)」合成オピオイドが、欧州全域で急拡大中だ。闇市場や密輸ネットワークを通じて、短期間で拡散しており、中毒死が急増して、現場に深刻な混乱をもたらした。

イギリス・スコットランドでは、人口約550万人の地域が現在、中国産の新型合成オピオイド「ニタゼン系薬物」の急速な拡大に直面し、この薬物はフェンタニルの5倍の致死性を持ち、短期間で多数の中毒死を引き起こした。

スコットランド公共衛生局(PHS)は29日に報告を発表し、3月から5月にかけて毒物関連の死亡が312件に達したと明示した。これは前四半期と比べて15%の増加である。検出体制に限界があるものの、確認された症例のうち、6%からニタゼン系薬物を検出した。専門家はこの割合を過小評価と見なし、実態はさらに深刻であると強調した。

同時に、オピオイド系薬物による過剰摂取(中毒)を緊急的に治療するための拮抗薬ナロキソンの使用件数は45%の増加を示し、救急科への受診数も19%増加した。新たな合成薬物が医療現場に混乱と緊張をもたらしている実情が浮き彫りとなった。

現場で語られる合成薬物の恐怖

ロンドンに住む41歳のティナ・ハリスさんは、10代からヘロインに依存してきたが、米ニュージャージー州のカムデンで売人から5ポンドでフェンタニルと偽ったニタゼンを購入した経験を語った。

ハリスさんは売人から「気を付けろ、効き目が強い」と警告されたが、それを冗談と受け取って、吸引した直後に昏倒したという。友人がナロキソンを注射して、命を救った。その後ハリスさん自身もニタゼン系薬物を知らずに吸引した他の2人の命を救った。

彼女は「これは悪魔の罠であり、この中毒の地獄から一生抜け出せないと感じる」と語った。

これらの薬物はごく微量でも致死的であるうえ、ヘロイン、レクリエーションドラッグ、偽造鎮痛剤、抗不安薬などに混入され、判別が極めて困難な状況となっていた。

中国のネット売人、隠語と偽装で堂々販売

中国の業者は、ネット市場に進出し、若い女性名義のプロファイルや公開された電話番号、SNSアカウント、商業所在地を利用して、販売活動を展開し、多くの製品は「研究用化学品」と称して流通させているが、中には「ニタゼン系薬物」と明示されたものもあった。

イギリス政府の統計では、過去18か月間に、同国で少なくとも400人がニタゼン系薬物を過剰摂取したことで命を落とした。イギリス国家犯罪局は、この事態を「未曽有の薬物乱用時代」と位置づけ、危機感を募らせた。

バキスタン経由で欧州に流入、組織的ネット販売網

7月31日に発表された調査報道は、バキスタンの通信販売サイトTradeKeyにおいて100を超える個人が各国向けにニタゼン系薬物を販売していた事実を明らかにした。その中にはフェンタニルの15倍の作用を持つetonitazenesも含まれていた。

複数の中国業者が欧州やイギリス向けに大量出荷し、偽装梱包によって税関検査を回避しながら、キロ単位での供給にも応じていた記録が残されている。

これらの売人は「誤用の責任は個人にある」と主張し、自らを合法製造業者と位置づけて、製薬企業にのみ販売していると弁明している。

TradeKeyの運営側は「合成オピオイド類の取引を認めない」と声明を出しているが、実際には違法な登録や商品の掲載が繰り返されていた。

ペットフード袋に薬物を隠し密輸 — BBC調査

2024年に、BBCが行った調査では、中国の供給業者が欧米のSNSや音楽アプリで広告を掲載し、「安全配送」や「大口割引」を強調し、彼らは薬物を犬や猫の餌袋に隠し、違法に輸送した。実際に英国各地への配送成功例を示すため、客にトラッキング番号まで提供した。

供給元の電話番号は、中国の国番号「+86」であり、多くの薬物が中国国内の研究所で製造されていたことが明らかになった。

業者らはプロフェッショナルな外観のウェブサイトや実在する会社住所を利用し、違法販売時には「販売数を抑制せよ」と現地業者に指南していたケースも確認された。

世界的シンクタンクは、このような合成オピオイドの流行は、需要主導ではなく、供給者側が市場を形成している構図だと分析し、「このまま流通が定着すれば、欧州は深刻な公衆衛生危機に直面する」と警鐘を鳴らした。

中共の対応は国際警告から2年遅れ

6月19日、中共公安部・衛生健康委・薬監局は、初めてニタゼン系と新規精神活性物質12種を規制対象に指定した。しかしこれは、国連薬物犯罪事務所がその危険性を警告してから2年後の対応であった。

米財務長官は、わずかな量のフェンタニルで「ジュネーブ市全体が死亡しうる」と中国代表団に警告したという逸話を披露し、致死量の恐ろしさを強調した。フェンタニルの致死量は2mgにすぎないが、ニタゼン系は0.4mgで死に至るのだ。

中共政府と企業の関与に国際社会が疑念

2024年の報告書で、米下院の中共問題特別委員会は、中共政府が違法合成薬物ビジネスを黙認・支援していると指摘し、関連する広告がネット上に数万件の存在していることを報告した。さらに、国有企業が密輸に加担していたとする証言もあった。

一方、中国政府はこれらの関与を一貫して否定している。米国務長官は「中国はフェンタニル前駆体の米国流入を把握しており、即時停止も可能である」と述べ、中国側の対応を非難した。過去には中国政府が規制強化を外交交渉のカードとして用いた疑惑も浮上した。

終わらぬ薬物汚染と国際社会への警告

中国産の新合成オピオイド、特にニタゼン系は現在も欧州全域で広がりを見せ、SNS、ネット、バキスタン経由の流通経路、偽装出荷などが複雑に絡み合い、規制をかいくぐって供給が続く。使用量わずか0.4mgで死に至るこの薬物は、国際的な規制の網の目を突き、各国にとって未曾有の脅威だ。

こうした状況の背景には、中国の対応の遅れ、グローバル化した密輸ネットワーク、そして違法薬物ビジネスに潜む莫大な経済的利益が存在する。

国際社会は今、各国の医療・治安・司法機関が連携し、迅速かつ厳格な対応を進める必要に迫られた。

林燕
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