トランプ フェンタニルを「大量破壊兵器」指定 大統領令に署名

2025/12/17 更新: 2025/12/17

トランプ米大統領は12月15日、違法なフェンタニルとその前駆体化学物質を「大量破壊兵器(WMD)」に指定する大統領令に署名した。ホワイトハウスは、フェンタニルを「薬物というより化学兵器に近い」と位置づけ、司法省による訴追強化や、国務省・財務省による制裁措置など、連邦政府の総力を動員すると表明。過剰摂取死が若年層の主要死因となるなか、中国やメキシコを主要供給源とするフェンタニル危機を、国家安全保障上の脅威として扱う姿勢を鮮明にした。

トランプ大統領はホワイトハウスでの式典で、「本日、歴史的意義を持つこの大統領令に署名し、フェンタニルを正式に大量破壊兵器として指定します。なぜなら、それがまさしくその通りだからです」と述べた。

その後、ホワイトハウスは声明を発表し、「トランプ大統領は本日、アメリカを化学兵器の脅威から守るため、大統領令に署名し、違法なフェンタニルおよびその主要前駆体化学物質を大量破壊兵器として指定した」と明らかにした。

フェンタニルを大量破壊兵器指定した大統領令の中身

この大統領令に基づき、ホワイトハウスは各省庁に次の行動を指示している。

司法長官は、フェンタニル取引に関する刑事訴追を直ちに開始し、刑罰の加重および量刑基準の見直しを求める。

国務長官および財務長官は、違法なフェンタニルおよび主要前駆体化学物質の製造・流通・販売に関与または支援する資産や金融機関に対して制裁措置を講じる。

国防長官および司法長官は、大量破壊兵器に関連する緊急事態が発生した際、必要に応じて国防総省が司法省へ国家安全保障資源を追加提供すべきかを判断する。

また、国防長官は国土安全保障長官と協議し、化学事案対応指令を更新してフェンタニルの脅威を反映させる。

国土安全保障長官は、大量破壊兵器および拡散防止関連の脅威情報を活用し、フェンタニル密輸ネットワークの特定を進める。

声明はさらに、「トランプ大統領は、18〜45歳のアメリカ人にとって主要な死因となっているフェンタニルの拡散を食い止めるため、麻薬カルテルや外国ネットワークに対して、あらゆる手段を動員している」と強調した。

フェンタニルを大量破壊兵器とみなす理由

ホワイトハウスは、フェンタニルを殺傷力を持つ兵器とみなす理由についても説明している。

「違法なフェンタニルは薬物というよりも化学兵器に近い存在であり、すでに数十万人のアメリカ人の命を奪っている。フェンタニル2ミリグラム、すなわち食塩10〜15粒ほどの量が致死量とされている」と述べた。

現在、アメリカの18〜44歳の成人の主要な死亡原因の一つは薬物の過剰摂取であり、その多くはフェンタニルなどの合成オピオイドによるものである。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のデータによれば、2023年には薬物過剰摂取で10万7千人以上が死亡した。

医療関連研究を支援する民間財団コモンウェルス基金(Commonwealth Fund)が1月に公表した報告書によると、アメリカは世界で薬物過剰摂取による死亡率が最も高い国である。

声明はまた、「麻薬カルテルや外国のテロ組織はフェンタニル取引による利益を暗殺、テロ、反乱活動の資金に充てており、麻薬ルートや事業の支配をめぐって武装抗争を行っている」と警告した。

「フェンタニルは敵対的組織によって兵器化され、集中型で大規模なテロ攻撃を引き起こす潜在的脅威となっている」とホワイトハウスは述べ、「フェンタニルを大量破壊兵器に指定することで、トランプ大統領は連邦政府の全力を結集・調整・動員し、この致命的な化学兵器に立ち向かうことを保証する」と強調した。

フェンタニル危機の背後にある中国の影

ホワイトハウスの声明によると、トランプ大統領はメキシコ、カナダ、中国が有毒なフェンタニルやその他の薬物のアメリカ流入を防げなかったことを理由に、これらの国に追加関税を課したという。

長年にわたり、中国は違法なフェンタニルおよびフェンタニル関連物質をアメリカへ輸出する主要な供給国であった。

米陸軍戦争大学戦略研究所のラテンアメリカ問題教授R・エヴァン・エリス氏(R. Evan Ellis)は、「中国湖北省武漢市は強力な製薬・化学産業を持つことから、フェンタニルの重要な供給拠点となっている」と指摘している。

エリス氏はトランプ政権第1期に国務省政策・企画・資源局(Office of Policy, Planning, and Resources)に所属しており、当時すでに中国共産党に対してフェンタニル生産の抑制を求める圧力をかけていた。

米司法省も武漢の複数の中国企業および個人をフェンタニル取引の罪で起訴している。ニューヨーク市の陪審は2月、中国人2名に有罪判決を下した。彼らは武漢の企業に勤務し、アメリカの潜入捜査官に対してフェンタニル前駆体約200キログラム(440ポンド)を販売していたとされる。

米財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が4月に発表した報告書「フェンタニル関連の違法金融:2024年の脅威パターンと動向情報(Fentanyl-Related Illicit Finance: 2024 Threat Pattern & Trend Information)」も、メキシコと中国がフェンタニル製造および犯罪収益洗浄の主要関係国であると指摘している。

さらに、同年4月に発表された米連邦下院の対中共特別委員会(The House Select Committee on the CCP)の報告書は、「中国共産党政府がフェンタニル原料などの違法麻薬を直接補助しており、中国企業はフェンタニル前駆体化学物質の輸出後に輸出還付金などの金銭的利益を得ている」と明らかにした。

15日のホワイトハウスの声明は次のように締めくくられている。
「トランプ大統領は『フェンタニル防止法』に署名し、フェンタニル関連物質を『麻薬取締法』のスケジュール(第一類)薬物として恒久的に登録した。大統領は今、この闘いを新たな段階へと引き上げ、違法なフェンタニルを大量破壊兵器として指定することで、麻薬カルテルの活動を断ち、アメリカの家庭を守るものである」

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