監視技術による新植民地主義 中共のAIがアフリカに及ぼす影響

2025/08/14 更新: 2025/08/14

複数の調査によれば、アフリカ諸国の一部政府は中国製の人工知能を用いて、政治的反対派や民主化活動家を特定し、投獄、拷問、さらには殺害している。

専門家らは、中国共産党政権が自国の「監視国家」モデルをアフリカに輸出し、アフリカ大陸のAIシステムを稼働させるために不可欠なインフラ、データ、エネルギーの掌握体制を急速に整えていると指摘する。

この動きは、中国共産党(中共)がアフリカの政治や公共生活に深く介入し、選挙結果を左右したり、世論を北京やその同盟国に有利な方向へ誘導したりする可能性を示唆している。

一部の学者は、こうした動きがすでに進行中だと警告。

世界各地で反体制団体を標的にするためのソーシャルメディアや各種技術の利用を調査する非営利団体の報告は、AI技術がアフリカ全土の紛争構造を変えつつあると結論づけた。

独立研究機関「分散型AI研究所(DAIR)」は、スパイウェアによる政治活動家の追跡や、顔認証を用いた抗議者の監視といった技術が、アフリカに「新たなタイプの傭兵勢力」を生み出していると指摘する。その勢力の多くは、北京の支配下にある企業が形成している。

ドイツ・ブレーメン国際大学院社会科学研究所の研究員であり、DAIRの「データワーカー調査プロジェクト」を率いたアディオ=アデト・ディニカ氏は、エチオピア、ルワンダ、ジンバブエを含む複数の国で発生した事例を調査した。

ディニカ氏の研究は、ケニアのナイロビ、ガーナのアクラ、ウガンダのグルなど、アフリカ各地に「デジタル搾取工場」が存在することを明らかにした。そこでは労働者が、AIシステムに顔認証を学習させ、コンテンツをモデレートし、行動パターンを分析させる作業を、時給わずか1.50ドルで行っている。

中国共産党当局は、ディニカ氏が「最も陰湿な形でのデジタル植民地主義」と呼ぶ行為を推し進めている。

ディニカ氏は、「私はこれを監視植民地主義と呼ぶ。外国勢力がアフリカの人々からデータと労働を搾取し、その人々を最終的に監視・抑圧・不安定化させるAIシステムを構築するプロセスだ」と指摘している。

「歴史的な植民地主義が軍靴と銃弾に依存していたのに対し、監視植民地主義はアルゴリズム、プラットフォーム、そして生体認証契約を通じて機能する。統制を外部に委ねながら、依存関係を巧妙に固定化するのだ」

ディニカ氏は、2018年にジンバブエ政府と北京拠点のテクノロジー企業クラウドウォークが締結した2億4千万ドルの契約に言及した。これは、AI監視技術を携えてアフリカに進出した初の事例である。

中国企業はジンバブエのデータセンター建設を支援し、最終的にAI顔認証システムを備えた施設が完成した。

さらに2021年12月、アメリカ財務省は、機微な技術や製品の輸出を制限する対象として、アメリカ政府の「エンティティリスト」に中国のテクノロジー企業8社を追加した。

2019年1月18日、ケニアのナイロビ市内で監視カメラを清掃する作業員。専門家は、アフリカで中国製監視技術の利用が拡大していることを確認しており、これにより警察は抗議者を追跡し、拘束する能力を得ている(Yasuyoshi Chiba/AFP via Getty Images)

新たに追加された企業の一つにクラウドウォークが含まれており、米財務省は当時、「ジンバブエ政府は国内に大規模な監視ネットワークを設置することに同意した」と述べた。

さらに米財務省は、「この合意には、監視ネットワークで取得した画像をジンバブエ政府が中国のクラウドウォーク本社に送付する義務が含まれており、クラウドウォークは肌の色の違いに基づく個人認識能力を向上させるため、顔認識ソフトウェアの性能を改善できる」と説明した。

ディニカ氏によれば、この技術は現在、中国によってアフリカ各地や世界各地で利用しており、ジンバブエの反政府デモ参加者が集まる公共空間でも活用している。

ジンバブエは、自国が北京の最も親しいパートナーの一つであると自負している。

ジンバブエのエマーソン・ムナンガグワ大統領の報道官、ニック・マンガワナ氏はエポックタイムズに対し、「中国共産党とその指導者、習近平氏との優れた協力関係により、ジンバブエはアフリカで最も高度な犯罪対策ツールの一つを手にしている」と述べた。

しかし一方で、2024年にドイツ・フンボルト大学が実施したジンバブエのAI監視システム利用に関する広範な調査では、この技術の導入にもかかわらず、犯罪者が公に有罪判決を受けた事例は一件もなかったと結論付けられている。

ジンバブエの民主化活動家エバン・マワリレ氏はエポックタイムズに次のように語った。「警察に逮捕・拘束されると、彼らは抗議活動で我々を特定するためにAI技術を使っていることを誇示する。中国製のテクノロジーは政治的統制の道具として使われている。警察は、インターネットや電話を監視するためのデバイスも中国から購入したので、いつでもどこでも我々を見張れる」と言っている。

これに対し、大統領報道官のマンガワナ氏は「治安維持装置の性質やその運用方法については失効する恐れがあるため、コメントを控える」と述べたうえで、ジンバブエの治安部隊が技術を「ジンバブエの法律に沿って」使用していると強調した。

2018年10月24日、北京の展示センターで開催された第14回中国国際公共安全・セキュリティ展示会において、展示されている、顔認証技術を備えたAI監視カメラ(Nicolas Asfouri /AFP via Getty Images)

クラウドウォークおよびジンバブエの中国大使館はコメントを拒否した。

ディニカ氏によれば、エチオピアでは親中政権が国内のティグライ人に対して、中国製の「感情分析ツール」を使用している。

これらのツールは、当局がソーシャルメディアやオンライン投稿をリアルタイムで監視できるだけでなく、コミュニケーションのトーンに関する情報も提供するという。ディニカ氏は、エチオピア当局が利用する主要なAIツールの一つとして、自然言語処理(NLP)アプリケーションを挙げた。

ディニカ氏は、「これにより、システムはティグライ語の文脈やニュアンスを理解するよう訓練される。皮肉などの微妙な言語的な表現も解釈でき、その結果、ティグライ人がこの理由だけで失踪する事例もあった」と述べた。

さらに、エチオピア当局が2020~22年のティグライ紛争で中国のAI技術に依存した際、単に技術を購入しただけではなかったとディニカ氏は指摘する。
「エチオピア当局は、戦略的利益を共有する外国勢力に、重要な統治機能をアウトソースしていたのだ」と述べている。

調査によれば、紛争中に「民族扇動」に該当するソーシャルメディアの投稿を判断するアルゴリズムは、ケニアのデータ作業員によって訓練されていた。

さらに、2024年にケニアで発生したZ世代による増税反対デモでは、ケニア最大の通信会社サファリコムが顧客の位置情報データを治安当局と「違法に」共有していたとディニカ氏の報告は指摘している。この情報提供により、警察はデモ参加者を追跡し、拘束することが可能になった。

サファリコム側は、ケニア当局との協力を一切否定している。

一方でディニカ氏は、ケニアのウィリアム・ルト大統領政権が「データ傍受」に加え、顔認証ツールと中国製の数百台に及ぶCCTVシステムの映像を組み合わせ、彼が「デジタル・ドラグネット」と呼ぶシステムを構築したと述べた。その結果、82人が「強制失踪」し、そのうち29人はいまだ行方不明となっているという。

また、プレトリア大学の法学上級講師であるウィレム・グラヴェット教授も、アフリカでの中国技術の利用拡大を記録している。

ジンバブエのエマーソン・ムナンガグワ大統領(左から3人目)は、2018年4月4日、北京の人民大会堂で中共の李克強首相(右から3人目)と会談した。研究者たちは、中国がアフリカに「監視国家」型のAIシステムを輸出することで、北京が大陸全体の政治や世論に大きな影響を及ぼす可能性があると警告している(Parker Song/AFP via Getty Images)

グラヴェット氏によれば、その技術には、ノートパソコンやスマートフォンなどのデバイスの固有アドレスを収集する「Wi-Fiスニッファー」が含まれているという。

グラヴェット氏は、エポックタイムズに対し「特定のネットワーク範囲内にあるデバイスから、データが秘密裏に取得される。これにより、当局はメールを含む通信内容を閲覧できるようになるのだ」と語った。

さらに、「中国はこれをビジネスと呼ぶかもしれないが、実際にはこれらの政権が反対派を文字通り抹殺するのを助けている。アフリカの一部地域では、市民のプライバシー権はもはや存在しない」と付け加えた。

中共は「21世紀型の監視国家」へと発展し、言論を検閲し、基本的人権を侵害する前例のない能力を持つようになったとグラヴェット氏は述べた。

グラヴェット氏は、「中共政権は、監視の青写真をアフリカの権威主義政府に送り始めたばかりだ」と語る。

「この青写真には、中国型の監視社会を構築する潜在的な力が込められている。特に人権状況が悪く、民主的制度が脆弱または未発達なアフリカ諸国では、その影響が顕著になるだろう。アフリカ大陸の人権に及ぼす影響は極めて深刻なものになると考えられる」

さらにグラヴェット氏によれば、中共当局は80万台以上のカメラを通じて「北京市全域を監視する能力」を持っているという。

「アフリカの独裁者たちは、これを聞くと歓喜する。彼らは自らの不当な権力を脅かす可能性のあるあらゆるもの、あらゆる人間を完全に支配したいのだ」

ディニカ氏によれば、アフリカの人々の間では急速に「監視への恐怖」が広がっている。

「抗議に参加する市民、汚職を調査するジャーナリスト、地域社会を組織する活動家たちは、自分たちが監視されていると感じると行動を変える。この心理戦は、システムの内実が不透明であることによってより効果的になる。市民は、どのカメラが稼働しているのか、どのようなデータが収集されているのか、それがどのように利用されるのかを知らない。『監視されているかもしれない』という市民の懸念そのものが、支配の手段になるのだ」

別の報告書では、国際関係シンクタンクの海外開発研究所が、中国のテクノロジー企業であるアリババやファーウェイが、アフリカ全土でクラウドサービスの提供やデータセンターへの投資を拡大していると指摘している。

例えば、ファーウェイはアフリカのデータセンターに4億3千万ドルを投資する計画を立てており、アリババはすでに南アフリカでクラウドサービスを提供している。

2019年1月18日、ケニア・ナイロビの街頭に設置された監視カメラ(Yasuyoshi Chiba/AFP via Getty Images)

「これらすべてはアフリカの人々にとって脅威だ。中国企業が現政権と協力することに、何のためらいもないことは周知の事実だからだ」とグラヴェット氏は語った。

また海外開発研究所は、中国が近い将来、アフリカのAIモデルを稼働させるために不可欠なインフラ、データ、エネルギーを掌握する可能性があると警告している。

海外開発研究所は、報告書で「AIモデルは、人々がアクセスできるニュース、情報、娯楽に影響を与えることで世論を形成できる。これにより、選挙プロセスに影響を及ぼし、特定の外国勢力に有利な方向に意見を誘導することが可能になる」と指摘している。

さらに、この影響は西側諸国のアフリカへの投資にも及ぶ可能性があると指摘する。

「その結果、西側企業が投資の門戸を閉ざす原因となっているAI分野にアクセスできなくなるリスクが生じる。また、バッテリーなど次世代技術に必要な重要な原材料へのアクセスも制限される可能性がある」と結論づけている。

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