中国共産党の国家戦略は長年、製造業主導で進められてきた。製造業には国家総力を挙げて過剰なほどの投資を行う一方、公共衛生、医療、教育などサービス産業への投資は長期にわたり不足し、規制も強化されてきた。このいびつな経済モデルは現在、国内では生産能力の過剰と需要の低迷を招き、過去最長となるデフレ局面に陥っている。国外では高関税の打撃も受けているが、中国共産党がこの経済モデルを転換する兆しは見られない。
製造業への投資拡大が続く
7月14日、習近平会議で、地方政府が新エネルギーや人工知能(AI)プロジェクトに一斉に取り組む状況を異例の形で批判した。「プロジェクトといえばAI、計算能力、新エネルギー車。全国すべての省がこうした方向に産業を発展させるつもりなのか」と問いかけたのである。
その後の7月31日、国家発展改革委員会は政府系投資基金の運用指針案を公表し、新興産業分野での盲目的な追随や一斉参入を避けるよう求めた。しかし過去を振り返れば、「中国製造2025」から「新質生産力」「新興産業」に至るまで、いずれも習主席の強い後押しを受けて推進されてきた政策である。製造業、とりわけ新興産業への投資は現在も急速に拡大しており、その勢いは衰えていない。
2021年のハイテク産業投資は前年比17.1%増で、内訳はハイテク製造業が22.2%増、ハイテクサービス業が7.9%増であった。同期の全社会固定資産投資の伸び率は4.9%にとどまっており、製造業の伸びが際立っている。新華社通信によれば、2024年1〜11月に中央企業が行った戦略的新興産業への投資額は2兆元に達し、前年比18.7%増。投資総額に占める割合は初めて40%を突破した。製造業全体の投資は2024年に9.5%増加し、2025年も7.5%の伸びを示している。
慢性化する過剰生産能力
特に各地方政府は、新素材、自動車、半導体、バイオ医薬、装備製造、新エネルギー産業チェーンなどの先進製造業を推進し、利益向上よりも規模拡大を優先している。英フィナンシャル・タイムズ紙は、米コンファレンスボードの最新報告を引用し、中国の多くの二・三線都市が経済成長のため製造業投資に過度に依存していると報じた。2024年、これらの都市の投資額はGDP比で平均58%に達し、全国平均でも40%であった。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均は約22%にとどまる。
米ノースイースタン大学の邱万鈞教授(ファイナンス学)は「中共の国家発展戦略は政府主導で、AI、新エネルギー、計算能力が優先事項になっている。必ずしも市場があるわけではないが、上層部が好む分野は地方も推進せざるを得ない。特に不動産市場が低迷する中、地方政府はGDP成長を下支えする新たな戦略を必要としている」と指摘する。
台湾大学の樊家忠教授は、「中国共産党(中共)の産業政策は十数年間一貫してハイテク産業育成を奨励してきた。『中国製造2025』が西側の反発を招いた後は『新質生産力』と名称を変えたが、基本路線は変わっていない。国家の力で“大躍進”を繰り返し、自らが重要とみなす産業発展を促す構図は同じだ」と指摘した。
製造業投資への固執は、中国の深刻な過剰生産能力を生み出してきた。1990年代以降、中国本土は少なくとも三度の過剰生産局面を経験しており、現在の国際的関心は新興産業分野に集中している。一般に、生産能力利用率が85%を超えると需要が旺盛で、75%を下回ると供給過剰の兆候とされる。2024年は多くの産業で利用率が低下し、自動車、食品、非金属鉱物製品などで顕著な過剰が見られた。また、金属鉱物、石化、電子機器などでは在庫率が二桁台に達している。EV市場の急拡大は需給バランスの崩れをさらに悪化させている。
中国汽車工業協会によれば、2024年第1四半期の業界平均生産能力利用率は52%にとどまり、ほぼ半分の設備が遊休状態だった。在庫処分のため、各メーカーは大幅な値下げ競争を展開した。BYDの「元PLUS」は2023年初の14万9800元から9万9800元に値下げされ、下落幅は33%に達した。
樊氏は「中共はEVなど新興産業に巨額の補助金を出すが、その条件の一つが一定の生産量確保だ。需要は考慮されず、生産が条件に達しなければ補助金は支給されない。このため補助金目当てで各社が生産拡大に走る」と説明する。通常の経済では、生産能力拡張時に市場需要を考慮するが、中国ではこの動機が歪められている。「中共は一貫して計画経済であり、政府が産業発展の方向性や競争、資金を統制する。基本的には“大躍進”型の発想で集中投資を行い、その結果、供給過剰が構造的に生じている」と述べた。
消費主導型経済への移行困難
中国は過剰な生産能力を海外市場に依存して消化している。2023年の国際貿易黒字は1兆米ドルに達し、そのうち製造業が輸出総額の98.9%を占めた。
樊氏はBYDを例に挙げ、「BYDは近年、超低価格の補助金戦略で国際市場を席巻し、多くの老舗自動車メーカーに打撃を与えたが、自社も破綻寸前に追い込まれている。この内向きの過当競争が国外に波及し、損害は他社のみならず自社にも及び、国際的な貿易秩序を深刻に損なっている」と述べた。
また、WTOの規範では国内産業への補助金は認められるが、輸出品に対する補助は禁じられている。しかし「中共は加盟国でありながら規範を守らず、大量の補助金で輸出を押し上げ、その結果、競争相手も含め共倒れを招いている」と批判した。
7月29日にスウェーデン・ストックホルムで開かれた記者会見で、アメリカのベッセント財務長官は「中国(中共)は現代で最も不均衡な経済体だ」と述べ、製造業中心の経済から消費主導型経済への転換を強く求めた。「外部からの刺激、あるいは触媒が必要かもしれない。それはより多くの関税かもしれない」と述べ、欧州が将来的に関税を課す可能性にも言及した。
権威主義体制の構造的制約
樊氏は「経済構造の転換は掛け声だけでは実現しない。中共の権威主義体制下では、政治的にも経済的にも消費主導型経済の発展は難しい」と強調する。政治面では、消費志向経済の育成には政府権限の縮小が不可欠であり、大規模な産業計画をやめ、経済権限を民間に解放する必要がある。これは中共の権力構造にとって大きな挑戦であり、世界で消費型経済へ移行できた共産国家は存在しない。
経済面では、消費主導型経済の前提は国民が豊かで安心できることである。しかし中共体制は民間を豊かにも安全にもしていない。土地は実質的に国有または集団所有であり、銀行はすべて国有、主要資源も政府が掌握している。国民が蓄えた富の多くは政府に帰属し、民間には残らない。高い貯蓄率は生活や雇用の不確実性が西側諸国より高いためであり、人々は将来に備えて貯蓄せざるを得ない。
邱氏はアメリカの高い消費率について「社会保障制度があり、失業や事業失敗時には一定期間支える仕組みがある。福祉制度があれば人々は安心して消費できるが、中国は特に農村部で福祉制度が不十分であり、それが消費を抑制している」と述べた。
台湾の呉嘉隆氏は「現在の中国体制では消費不足はほぼ必然だ」と述べ、その原因として購買力の多くが国有企業や紅二代、官二代といった特権階級に集中していることを指摘した。彼らや国有企業幹部の多くは財産を海外に移しており、国内消費には回っていないという。
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