米国 小口輸入品免税制度を廃止 EC・物流業界に大きな影響

2025/08/30 更新: 2025/08/30

アメリカ政府は2025年8月29日から、長年続いてきた「800ドル以下の少額輸入品免税制度(De Minimis)」を正式に撤廃した。これにより、個人向けの小口輸入品にも原則としてすべて関税が課されることになり、EC市場や国際物流に大きな影響が及ぶ見通しだ。

87年ぶりに制度廃止 再導入の予定なし

この少額免税制度は1938年に導入され、2015年には免税枠が200ドル~800ドルへ拡大された。しかし、アメリカ政府は「今回の改正は恒久的なもので、例外は認めない」と強調。従来、友好国向けに特例措置が取られていたが、今後は免税制度の再導入も行わない方針だ。

輸送方法による課税の違い 6か月の移行期間

アメリカ税関・国境警備局(CBP)は、「8月29日午前0時1分以降、FedEx・UPS・DHLといった主要宅配業者を通じてアメリカへ送られるすべての貨物に対し、実際の価格に基づき関税を課す」と発表。関税の徴収や申告の手続きは宅配業者が代行する。これにより、ECの個人輸入を利用する消費者に関税の負担が広がることになる。

一方、海外郵便(各国の郵便局による発送)を利用した少額小包には、今後6か月間は「定額課税」が適用される。この金額は輸出国のアメリカへの関税率によって異なり、日本、イギリスやEU諸国など関税率16%未満の国は1件80ドル、インドネシアやベトナムなど16〜25%の国では160ドル、中国・ブラジル・インド・カナダなど25%超の国からは200ドルが定額となる。移行期間は2026年2月28日までで、それ以降はすべて実際の価格に基づく課税となる。

一部郵便局が発送停止も 貿易停滞への懸念

制度変更の影響で、中国など一部の海外郵政当局がアメリカ向けの発送を一時停止する事例も発生した。突然の制度変更による手続きの煩雑化や通関リスクが背景にあるとみられる。アメリカ政府は主要パートナー国やアメリカ郵政公社との連携強化を進め、貿易停滞リスクの緩和を図っている。イギリス、カナダ、ウクライナの郵政当局はアメリカ向け発送の継続を表明している。

麻薬対策・歳入増加が狙い

今回の制度改正には、麻薬密輸阻止とアメリカ歳入増加の目的がある。トランプ政権は「少額免税制度が麻薬や化学品密輸の抜け穴になっている」と指摘。ホワイトハウスの貿易顧問ピーター・ナバロ氏は「免税制度廃止によって違法薬物の流入を防ぎ、年間で100億ドルの関税収入を見込んでいる」と説明した。実際、2025年5月2日には中国・香港からの免税枠廃止が先行され、すでに4億9200万ドル超の関税収入を得た。

ECモデルにも直撃 中国系「Shein」「Temu」に影響

少額免税制度の拡充はアメリカ消費者の個人輸入を後押しし、小規模EC事業者の参入にも寄与してきた。しかし、米中貿易摩擦以降、中国系越境EC企業(Shein、Temuなど)が「中国からアメリカの消費者への直送モデル」を拡大。アメリカ税関によれば、免税枠を使った輸入小包の件数は2015年度の1億3900万件から2024年度には13億6000万件と、約10倍に急増している。

今回の制度廃止は、大量直送モデルや世界のEC物流に大きな転換点となる。今後は商品価格に応じた課税が一般化され、小口輸入の手続きやコスト負担が大幅に増すため、市場構造や運営体制の見直しが求められそうだ。

王君宜
王君宜