米上院は10月9日、2026会計年度の国防権限法案(NDAA)を賛成70票、反対20票で可決した。総額は9247億ドル(約141兆円)に達し、米軍の年間国防政策および予算の基本枠組みを定める内容となっている。
全1454ページに及ぶ法案では、国防総省に8780億ドル(約134兆円)、エネルギー省に350億ドル(約5兆3418億円)を配分。エネルギー省への予算は、米国の核兵器の維持管理に充てられる。
政府機関が10月1日に閉鎖され、与野党の対立が続く中での可決となったが、久しぶりに超党派の合意が見られたとして注目されている。
上院軍事委員会のロジャー・ウィッカー委員長は、「法案の重点は米国の軍需産業基盤を再建することにあり、ペンタゴン(国防総省)の予算運用と調達制度に歴史的改革をもたらすものだ」と述べた。
主な条項 軍人給与の引き上げ、艦艇建造、ウクライナ支援延長
法案には、現役軍人の給与を3.8%引き上げることのほか、「コロンビア級」弾道ミサイル原子力潜水艦5隻、強襲揚陸艦15隻、F-35A戦闘機34機の建造・配備が盛り込まれている。
また、アメリカのウクライナ支援計画を2028年まで延長し、情報および軍事支援のために追加で5億ドル(約763億円)の資金を拠出する。
さらに、法案は新型艦艇・航空機の継続調達を認め、海上から戦域へ海兵隊を輸送する能力の強化も定めている。これにより、アメリカの軍事戦略の中心が引き続きインド太平洋とヨーロッパの前線に置かれていることが明確になった。
民主党修正案は相次ぎ否決
民主党議員らは、法案に複数の修正条項を盛り込もうとした。その中には、2002年のイラクに対する武力行使権限法(AUMF)の廃止、各州の州兵が連邦の法執行活動に協力することを禁じる規定、さらにトランプ大統領がカタールから贈られたボーイング747-8型機を「エアフォース・ワン」に改装する計画を阻止する提案などが含まれていた。
しかし、これらの修正案はいずれも可決に必要な60票に届かず、否決された。
また、一部の共和党議員――たとえばランド・ポール上院議員など――は、行政権の制限を目的とした修正案の一部に賛同し、民主党と共同歩調を取ったが、最終的な採決結果を変えるには至らなかった。
「戦争省」改名案は盛り込まれず
法案には、トランプ大統領が提案していた「国防総省を戦争省(Department of War)に改称する案」は盛り込まれなかった。アメリカ憲法上、官庁の名称変更は議会の立法によってのみ行えるため、大統領令では実施できない。
上下両院で協議へ
下院もすでに独自の国防権限法案を可決しており、その内容は上院版と一部異なる。
今後、両院の代表による協議委員会(conference committee)で一本化した最終案を作成し、上下両院で再採決を経た後、トランプ大統領の署名によって成立する見通しである。
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