人権監視団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、10月15日に発表した声明で、中国共産党(中共)当局が脱北者の強制送還を続けており、その結果、脱北者たちが拷問、違法拘禁、性暴力、強制労働、さらには処刑といった深刻な危険に直面していると警告した。2024年以降、少なくとも406人の北朝鮮国民が中共により強制送還されたという。
同団体は、中共の行為が国際人権法に明確に違反しており、関与した中共の官僚らは、北朝鮮による人道に対する罪に加担したとして、将来的に刑事責任を問われる可能性があると指摘している。北朝鮮問題担当の上級研究員リナ・ユン氏は、「中国政府は送還された脱北者が深刻な迫害を受けることを知っていながら、数百人も北朝鮮に戻している」と批判し、国連難民高等弁務官事務所が拘束中の脱北者にアクセスできるようにすること、およびその人数を公表するよう中共に求めた。
この406件のケースは、中国と北朝鮮に精通した情報提供者である金世平(仮名)氏による報告に基づいており、2020年以降に強制送還された脱北者は少なくとも1076人に上る。2014年の国連北朝鮮人権問題調査委員会の報告書では、北朝鮮当局が脱北者に対して、拷問や性暴力、強制労働、強制失踪、非人道的な拘禁環境といった人道に対する罪を体系的に行っていると断定。また、中共の協力は共犯に当たる可能性があると警告している。
国連人権事務所は2025年9月に発表した報告で、「過去10年間に送還された脱北者の多くが、恣意的な拘束、拷問、虐待、強制失踪、性暴力といった深刻な人権侵害を受けている」とし、いかなる状況下でも迫害の恐れがある国へ庇護希望者を送還してはならないという「ノン・ルフールマン原則」の順守を各国に求めた。
2010年、北朝鮮は脱北行為を「国家反逆罪」と定め、死刑の対象とした。北朝鮮では、無許可の越境は動機や迫害の有無を問わず犯罪とされ、強制送還の対象となる。
2024年11月には、2023年10月に中国から送還された脱北女性2人が、北朝鮮国内で処刑されたとの報道を受け、国連の人権専門家が北朝鮮および中国政府に書簡を送って懸念を表明した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2024年以降に確認された強制送還の事例の多くは、送還後の行方が不明であると指摘している。例えば、2024年1月には、吉林省延辺朝鮮族自治州から108人の北朝鮮労働者が送還され、2024年4月には、吉林省と遼寧省から60人が送還された。また、雲南省や広西自治区などで拘束された212人の北朝鮮女性が送還された事例もある。
さらに、2024年から2025年にかけて、強制結婚させられた女性や妊娠中の脱北女性も送還され、その一部は北朝鮮で強制堕胎や乳児殺害の対象となる可能性があるとしている。
現在も中国南部の拘置施設には100人を超える北朝鮮女性が収容されており、中共当局は2025年9月の金正恩訪中に向け、これらの女性を送還する計画。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、中共政府に対して脱北者の人権を尊重し、強制送還を直ちに中止すること、脱北者に庇護を提供すること、また彼らが第三国への移動や中国社会への自発的統合を可能とする制度の整備を求めている。
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