四中全会後の中国権力構造 三つの解釈と本当の支配者は誰か

2025/10/28 更新: 2025/10/28

中国共産党の四中全会後、政権内部の権力構造や指導層交代を巡る三つの有力な解釈が浮上している。本記事では、それぞれの見方と今後の中国情勢への影響をわかりやすく解説する。

第一の見解は、習近平が依然として権力を掌握しており、軍内の粛清も主導しているとするものである。今回処分を受けた9人の上将も、習近平が自身の側近を一掃した結果だという見方である。

第二の見解は、No.2の張又侠ら反習派が軍権を握っているが、党や政府の権力には干渉していないと主張するものである。最終的には習近平との権力闘争の結果、両者の間で「恐怖の均衡」が生じたという内容である。

第三の見解は、習近平が四中全会で党・政府・軍の権限を失い、長老派が党の存続のため対外的な真実を隠し、習近平を「たんなるお飾り物」として表に立てつつ、汪洋が党総書記代理、劉源が軍委主席代理を務めているというものである。

この三つの見解のうち、最も信頼できるものはどれか。本稿ではこの点について検討したい。

第一の見解:習近平主導説:続く権力掌握とその根拠

まず第一の見解を見てみる。習近平が引き続き権力を握っているとする見方である。四中全会の公報を根拠としており、そこでは習近平が「核心」として位置づけられ、習思想も党の基本理論体系に組み込まれている。党・政府・軍の三つの職位も現在は解任されておらず、地位は揺るいでいないと考えられている。

しかしながら、この見解には問題がある。根拠はすべて中国共産党(中共)の公式宣伝に基づいており、ここ一年余りの間に党内で明らかになった数多くの権力闘争を説明できていない。

例えば、なぜ習近平が軍内の側近を自ら大規模に粛清する必要があったのか。今回処分された9人の上将、何衛東、苗華、林向陽らは皆、習近平に極めて近い人物である。仮に側近の多くが習近平に忠誠を尽くさなかったため粛清されたとしても、それは現実的とは言い難い。

中国共産党のトップは軍内に自身の派閥を築き、最も信頼できる人物によって軍をコントロールしなければ、本当の意味で権力を掌握したとは言えない。江沢民は就任後、軍内から鄧小平時代の「楊家将」や劉華清派を粛清し、自身の側近である郭伯雄や徐才厚を重用して権力基盤を強化した。

胡錦濤が党首就任した際も、軍の支配権は依然として江沢民派の郭伯雄・徐才厚が握っており、胡錦濤は実質的な軍権を得られなかった。このため「党首の胡錦濤と総理の温家宝の政令は中南海を出ず」と揶揄された。

習近平は政権を握ると直ちに反腐敗運動を展開し、旧派閥の郭伯雄・徐才厚を一掃した。第十九回党大会以降、徐々に軍権を掌握していった。

第二十回党大会時点で、習近平の権威は盤石となり、軍・党・政府の三つすべての体制を掌握したと見なされる。それほどの忠誠を誓った高級将校が多数、習近平に反旗を翻すという事態は考えにくい。

一般に中国共産党は暴力団のような構造があると認識されている。暴力団を題材とした映画やドラマでは、内部で権力争いが生じる際、No.2が機会を見てトップを排除し権力を握る。No.3はまずNo.2と競い合い、自身がNo.2となってからトップを狙う。いきなりNo.3がNo.2を飛び越えてトップに反旗を翻すことは基本的に起こらない。

仮に軍内の序列で言えば、習近平がNo.1、張又侠がNo.2、何衛東がNo.3にあたる。起こり得るのは、張又侠と習近平の争い、あるいは何衛東と張又侠の争いであり、何衛東が張又侠を飛び越えて直接習近平に反旗を翻す状況は考えにくい。

第一の見解は、何衛東が習近平への忠誠を欠いたため粛清されたとするが、これは暴力組織の構造上、筋が通らない。

以上から、第一の見解は最も信頼できない。中共のプロパガンダを鵜呑みにして政局を解釈しているため、実態を正しく捉えられていない。

第二の見解:習近平は軍権を失い、党と政府の権力を保持

次に第二の見解を検討する。張又侠と習近平は権力闘争を繰り広げており、何衛東ら9人の習近平派の将軍が張又侠によって粛清されたとする主張である。

この見解が示唆するのは、中共軍のNo.2とトップが激しい権力闘争を展開していることであり、これは暴力組織内部で最高権力を巡る争いが起こるという一般的な構図に合致している。「9人の上将事件」もその裏付けとなる。

10月17日、中共国防部は習近平派の9人の将軍に対して軍籍・党籍剥奪処分を発表し、この決定を四中全会で正式承認するよう求めた。

しかし、この国防部の動きは、権力運用の基本的秩序・手続きを逸脱している。通常ならこのような高官の処分は、まず四中全会で決議し、新華社が通達を発表、さらに軍の新聞が転載する流れとなる。

今回はこの流れが逆転している。軍が最初に9人の上将を断罪し、新華社がそれを地味に転載、最後に四中全会が追認するという異例の順序となった。これは軍による反乱、すなわち張又侠が習近平に反旗を翻した可能性を示唆する。

第二の見解によれば、四中全会は事実上、張又侠主導の粛清であり、彼が習近平側近の多くを排除し、習近平もこの結果を認めざるを得なかった。本質的に軍が最高指導者に対しクーデター的圧力をかけ、一定の成果を得た状況であった。

ただしこの見解では、習近平はなお党と政府の権力を掌握しているとされ、双方が権力闘争の末に痛み分けとなり、いずれも決定的な勝利を得られず、表面的な権力均衡が続いているとしている。

しかし、この仮説にも矛盾がある。暴力組織的権力構造において、No.1とNo.2の間に「恐怖の均衡」が成立することはない。No.2がトップの側近を公然と粛清できるなら、トップの権力基盤はすでに崩壊しており、名目のみのトップに過ぎなくなるため、安泰に座り続けることは不可能である。

結局、第二の見解は四中全会時の権力闘争の様相は捉えているが、習近平がなぜ中南海で権力の座を維持できているのかについて、説得力に欠ける。

第三の見解:習近平はすでに権力を譲渡、「たんなるお飾り物」として残された

最後に第三の見解を紹介する。この見解では中国共産党が四中全会の真相を隠蔽し、習近平は党権・軍権の双方を手放してすでに退陣したとする。時評家「牆内普通人」がこの主張を展開している。

「牆内普通人」は、習近平と張又侠の関係は生死を賭けたものであり、党と軍が対立し、両者が引き分けに終わり、一時停戦するというシナリオは成立しないと断じている。必ず決着がつかなければならず、四中全会が問題なく終了したということは、すべてが計画通り進行し、何のトラブルも起きなかったことを意味する。

「牆内普通人」によれば、10月23日午前、温家宝が「党中央決策議事調整機構」を代表して発言し、胡錦濤からの伝言を紹介しつつ、中央委員や候補委員に要請を行った。張又侠は軍代表として軍が改革開放路線を堅持すると表明した。午後には中央全会が全体決議で、習近平の中共総書記辞任に同意し、汪洋が次期大会まで代理を務めること、また習近平の中央軍事委員会主席辞任に同意し、劉源が次期大会まで代理となることが決定された。政治局委員の総辞職は次期大会まで保留され、今後の資料は中共総書記宛は汪洋、軍事委員会宛は劉源が直接処理する形となった。習近平は一定期間、華国鋒と同様の待遇が与えられ、温家宝の指示に従うこととなった。

「牆内普通人」は、四中全会の舞台裏が極秘にされるのは伝統であり、林彪・四人組・華国鋒失脚の際も中央全会の文書で国民をごまかしたと指摘する。

過去、鄧小平は毛沢東を直接失脚させることはできなかった。それは共産党自体の打倒に等しかったからだ。現在の共産党元老たちも習近平の公開失脚はできない。習近平は最高指導者として、地位は華国鋒に近く、失脚方法も華国鋒時と類似する。

今後の中国政治を見極めるポイント

「牆内普通人」は、習近平がすでに退陣したか、共産党が路線転換したかどうかを確かめる方法は単純で、政治・経済・軍事・外交の4つの側面から観察すればよいとしている。

外交面は最も変化が現れやすく、中米間で貿易協定が締結されれば、それは共産党が習近平の外交路線を放棄した証拠となる。

軍事面では戦争宣伝が続くかどうか、とりわけ台湾海峡や南シナ海に注目する必要がある。

経済面では株価や経済全体の安定がポイントとなり、習近平退陣となれば経済は早期に底打ちして反発し、そうでなければ下落が続くとみられる。

政治面では胡錦濤・温家宝派の台頭が見られるかが焦点であり、現時点でもその傾向は明らかであるという。

これらの主張は10月25日、「牆内普通人」が自身のメディア番組で発信したものである。翌26日には、中米貿易交渉に前向きなニュースが伝えられた。ベッセント米財務長官は、2日間の米中貿易協議の結果、両国が貿易協定の枠組みで合意したと発表した。中国側は米国産大豆を大量購入するほか、レアアースの輸出規制措置も1年間延期する方針を明らかにした。

こうした進展により、外交分野において「牆内普通人」の分析が裏付けられた形である。今後も軍事・経済・政治の各分野において、習近平退陣によってのみ現れる現象が観察されるかどうか、引き続き注視していきたい。

林可音
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