エヌビディアが米エネルギー省向けに総額5千億ドル規模のAIスーパーコンピューター構築案件を受注。大規模な政府案件で中国依存からの脱却やアメリカ国内生産体制の強化も明確に。トランプ大統領の政策を称賛し、AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)も10億ドルのAIスーパーコン契約を発表するなど、アメリカ主導のAI開発競争が激化している。
エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は10月28日、同社がアメリカ政府と重要な協力関係を締結し、アメリカエネルギー省向けに7台のAIスーパーコンピューターを構築する計画を発表した。
これらのスーパーコンピューターは、アメリカの国家安全保障において重要な役割を担う。アメリカの核兵器庫の維持や開発を支援するとともに、核融合などの代替エネルギー研究にも活用される予定である。
フアン氏はあわせて、この協力事業と新製品展開により、エヌビディアのBlackwellおよびRubinシリーズAIチップの今後5四半期における受注総額が5千億ドルに達し、過去最高水準に到達したことを明らかにした。
トランプ大統領の政策を称賛
米中貿易摩擦が続き、先端技術の流通が世界的な焦点となる中、フアン氏は講演でトランプ大統領の政策を公に称賛した。
フアン氏は、トランプ政権による製造業の回帰とエネルギー成長を支える政策に感謝を示し、それがアメリカの技術発展にとって極めて重要であったと強調した。
「国家の力でエネルギー拡大を支援する政策を推進したことで、情勢は大きく転換した。もしそうでなければ、我々は悪化する状況に陥っていたかもしれない。トランプ大統領に感謝したい」と語った。
さらに、トランプ氏の製造業回帰の取り組みについて「我々は再び“メイド・イン・アメリカ”を実現している。まったく驚くべきことだ。トランプ大統領が私に最初に語ったのは『製造業を取り戻せ』という一言だった」と述べた。
フアン氏はこの場で、エヌビディアがアメリカ政府と締結した大型契約の詳細を発表した。この契約には、エヌビディアのAIチップを量子コンピューターと連携可能にするネットワーク技術の開発も含まれている。
中国依存から脱却、米国主導体制を強化
今回、エヌビディアが年次GTC大会を初めてワシントンD.C.で開催したことは、同社が今後、アメリカ政府や防衛関連産業との連携を最優先課題とする姿勢を示す戦略的メッセージでもある。
フアン氏によると、エネルギー省向けに開発される7台のスーパーコンピューターのうち、最大規模の1台はオラクル(Oracle)と共同で構築され、10万枚のBlackwellチップを搭載する予定である。
これにより、アメリカがAIを軍事研究にも積極的に投入し、重要技術サプライチェーンの安全保障を強化する方針であることが明確になった。
連携強化
また、連携強化の一環として、エヌビディアはアメリカ政府と関係の深いパランティア・テクノロジーズ(Palantir Technologies)との提携も発表した。
両社は主にパランティアの商業部門で協業を進め、Lowe’sなどの企業が抱える物流課題の解決を支援していく方針である。
さらに同社は、10億ドルを投じてフィンランドの通信機器大手ノキア(Nokia)の株式2.9%を取得し、次世代無線通信技術「6G」の共同開発を行う計画を明らかにした。これは将来の通信技術分野で同盟国との優位性を確立するための重要な一歩である。
米国内製造
フアン氏は、エヌビディアがどのようにアメリカ国内製造体制を整備しているかについても説明した。
同社は台湾積体電路製造(TSMC)のアリゾナ州拠点でチップを生産し、テキサス州でサーバーを組み立て、カリフォルニア州でネットワーク機器を製造しているという。製造業回帰の公約を着実に実行しているとみられる。
フアン氏はこれまで、中国市場で約500億ドル規模の潜在的売上を得なければアメリカでの研究開発費を賄えないと述べていたが、今回のアメリカ政府および連携企業との一連の協力により、中国依存を減らしつつアメリカのAI優位性を強化していく路線が鮮明になった。
国家AI戦略、競合AMDも10億ドル規模契約
アメリカ政府はAI分野の研究開発力と演算能力の強化を国家戦略の中核に据え、公的・民間の連携によって従来の調達体制を刷新している。
同日、エヌビディアの主要競合であるAMDも、アメリカエネルギー省と総額10億ドルの大型契約を締結したと発表した。
AMDのリサ・スーCEOとエネルギー長官クリス・ライト氏は共同記者発表で、同社が最新のAIチップを供給し、エネルギー省向けに2台のスーパーコンピューターを構築する計画を明らかにした。
そのうち、超高速性能を誇る「Lux」と呼ばれるマシーンは、6カ月以内に稼働開始予定である。
これらのスーパーコンピューターは、核融合エネルギー研究、がん治療薬開発、国家安全保障など、アメリカの戦略的課題の解決を目的としている。ライト長官は「AI計算能力の飛躍的な進展により、今後2~3年のうちに核融合エネルギーを実用化する道が開ける」との見通しを示した。
今回の二つの大型発表、すなわちエヌビディアによる5千億ドル規模の受注と核エネルギー関連プロジェクト、およびAMDによる10億ドルのスーパーコンピューター開発契約は、アメリカが国家の総力を投入して先端技術企業の能力を活用し、AI分野の世界的主導権と国家安全保障基盤を強化していることを如実に示している。
この発表を受け、エヌビディアの株価は28日午後の取引で3.3%上昇した。
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