中国の981プロジェクト 長寿追求の裏に潜む暗い影

2025/11/14 更新: 2025/11/14

数十年にわたり、「981プロジェクト」は北京のエリート層と、中国の無制限な医療研究の闇を探る一部の西洋人だけが知る存在だった。

著名な医師たちを揃えたこの影のプロジェクトは、長寿への道として位置づけられ、中国共産党上層部のほぼ1世紀にわたる内部特権医療の最新版だ。

今年、このあまり知られていなかったプロジェクトが注目を集めたきっかけは、中国とロシアの指導者のホットマイク事件だった。二人は、複数回の臓器移植を繰り返すことで長寿を実現できる可能性について話し合い、その中で150歳まで生きるという予測に言及した。

この150歳という主張を追うと、北京のトップ軍病院と981プロジェクトにたどり着く。さらに深く追うと、警鐘が鳴り響く。その病院の歴史や、今では削除された「臓器機能の回復」という記述が、研究者によると、より暗い物語を指し示している可能性がある。それは『臓器収奪』だ。

死と闘う

中国国営テレビは9月3日、北京の天安門広場で大規模な軍事パレードが行われる中、マイクがオンになったままの状態で漏れ出た中国共産党党首・習近平のつぶやきを捉えた。習はそこで、ロシアと北朝鮮の指導者をエスコートしていた。

「昔は70歳まで生きる人は少なかったが、今は70歳でもまだ子供だ」と習はロシアのプーチン大統領に語った。習と同じ72歳のプーチンはそれに答え、臓器移植を繰り返すことが永遠の若さの鍵だと述べた。

「予測では今世紀中に150歳まで生きる可能性がある」と習は言い、音声が途切れた。

この長寿の主張は、2019年に北京の301病院を宣伝する1分間の広告を思い起こさせる。中国の最高軍事医療センターで、政治トップを治療する専用施設だ。

「死と闘う150年寿命プロジェクト」と広告のナレーションは呼ぶ。

この広告映像は、何十年もかけて構築された医療システムを説明し、中国伝統医学の最高峰と西洋技術を組み合わせている。ある場面で、ナレーションは中国エリート向けのシステムを「実証済みで一流」と称賛し、中国指導者がアメリカやイギリスの同輩より少なくとも10年長生きしているグラフで裏付けている。

この大胆な宣言は医療倫理の専門家を悩ませている。

「病気は照明のスイッチのようにオンオフできるものではない」と、臓器収奪に反対する医師団体の事務局長トルステン・トレイ博士はエポックタイムズに語った。「150歳まで生きて、しかも権力を維持する? それは口で言うのは簡単だ。しかし、どうやってそれを実現するというのか?」

2025年9月3日、北京の天安門広場で行われた軍事パレードに到着した中国の習近平(中央)、ロシアのプーチン、北朝鮮の金正恩らの様子が大型スクリーンに映し出されている。 Kevin Frayer/Getty Images

需要に応じた臓器

その「どうやって」が、国家支援の981プロジェクトが解決しようとしている問題だ。

981指導者健康プロジェクトは「80年以上の赤い医療史」を基盤に、2005年に始まったと公的記録にある。軍の保健当局の下で「パイロットプログラム」として、全国最高の医療資源と人材を結集していると、今は削除された中国の情報サイトに記述されていた。

名称自体が威厳を表す。

中国語で9は「久」と同音で、81は人民解放軍が8月1日に創設されたことに由来する。8と1を足すとまた9で、長寿を二重に示すと、プロジェクト創設者の趙偉博士(元中央軍事委員会所属)が2016年の北京の雑誌のインタビューで語った。

981イニシアチブは、職種に応じた150項目もの包括的健康診断で細やかな医療管理を処方する。軍のパイロットや宇宙飛行士向けだ。

しかし、予防や検診には限界がある。加齢に伴い、臓器はいずれ機能不全に陥るからだ。この限界に対する答えを、短期間で姿を消した2019年の広告が示した。その答えとは、『臓器機能の回復』に他ならない。

このフレーズはプログラムの6つの重点の一つで、トレイ氏によると、移植、薬物、幹細胞療法などを意味する可能性がある。臓器機能回復の目標達成に何が必要かはほとんど情報がない。それでも—— 長年、臓器移植の虐待疑惑が絶えないこの国で、「臓器移植」という言葉を口にするだけで、 誰もが眉をひそめる。

2012年8月16日、中国河南省の病院で、医師たちが移植用の臓器を運んでいる。中国の習近平とロシアのプーチン大統領の間で、臓器移植による延命をめぐるやりとりが最近行われ、中国の闇のプログラムに注目が集まっている。Sohu.com/Screenshot via The Epoch Times

便利な標的

内部告発者が体系的な臓器収奪の警鐘を鳴らしたのは2006年で、981プロジェクト開始の1年後だ。

その一人、北東部の中国病院の医療スタッフは、エポックタイムズに、元夫の神経外科医が拘束された法輪功学習者から角膜を摘出し、遺体はすぐに焼却炉で火葬されたと語った。

英国の独立民衆法廷(元戦争犯罪検察官ジェフリー・ナイス卿が議長)は2019年、中国全土で国家の監督下で臓器収奪が行われていると認定し、法輪功学習者が臓器の『主な供給源』であると結論付けた。

法輪功は便利な標的だ。1990年代末に7000万から1億人が実践したこの心身修養法は、1999年から政権の標的にされている。学習者は毎日瞑想し、喫煙や飲酒をせず、平和な心構えを目指す。研究者によると、これらの健康的な生活習慣が臓器移植市場で理想的な臓器を提供している。

警察に拘束されても友人や家族を巻き込まないよう、多くの学習者は名前を明かさない。公式記録がなければ、秘密が鍵の違法臓器取引で容易な餌食だ。

「中華人民共和国の病院には、需要に応じて臓器を摘出できるドナーの人口が存在する」と民衆法廷は判決で述べた。

中国当局は「法輪功学習者をどんな運命に委ねるにも難しさはない」と、都合よく利用できる臓器提供者の“在庫”に変えている。

元高級幹部の白書忠は臓器収奪と981プロジェクトの両方に関与している。白書忠はかつて軍の後方支援部門の保健部を監督した。

2014年の米国拠点の潜入捜査員との電話で、白書忠は法輪功学習者からの臓器収奪が上からの命令だと認めた。

2004年に退役後、白書忠は北京監督下の2つの全国医療協会で活動し、2013年と2019年に981プロジェクトに賞を与え、他の指導も提供したと中国メディアが報じた。

「多くの臓器」を交換

中国当局は1970年代後半から、臓器交換を若返りの選択肢として見ていた。中国の臓器移植産業が初期段階だった頃だ。

1978年、米国拠点の中国語雑誌(現チャイナニュース・ダイジェスト)によると、医療従事者が政治犯の処刑直後に腎臓を摘出した。臓器は腎不全の高官の子供に移植された。

この慣行が地下で広がっていく中、政権は政治エリートの健康記録を厳重に秘匿した。 それでも、要人たちの臓器移植手術の噂は、次々と漏れ伝わってきた。

2023年、元中国文化副部長の高占祥の死が注目された。死亡記事が誤って「多くの臓器を交換した」と漏らし、87歳の彼は「多くの部品が自分のものではない」と冗談を言っていた。

高占祥同様、元財務大臣の金人慶は心臓移植で社交生活を取り戻したと、30年来の友人が書いたブログに記されていたが、その記事は今、削除されている。

2007年3月8日、北京の人民大会堂で行われた全国人民代表大会で演説する金人慶財務大臣。30年来の友人が投稿したブログ記事(現在は削除)で、金大臣が心臓移植手術を受けたことが明らかになった。Teh Eng Koon/AFP via Getty Images

301病院

981プロジェクトのウェブサイトのアーカイブを見ると、北京の医療センターには11の部門があると書かれている。だが個別の部門名は一切公開されておらず、プロジェクトが直接臓器移植手術を行っているかどうかは分からない。

トレイ氏は、「981プロジェクトの提携病院なら、紹介状一本で移植手術を受けられる施設がいくらでもある」と語った。

プロジェクトの提携病院の多くは、異常に多い移植件数から国際捜査官の監視対象になっている。その代表が301病院だ。正式名称は北京人民解放軍総病院。2019年の長寿広告の主役で、習氏の「150歳」発言後に再び注目を集めた。

301病院は中国最大の軍病院で、国家最高指導者や軍の要人を専門に治療している。

2011年7月6日、北京にある301軍病院の入り口。中国最大の軍医療センターであるこの病院は、高官や軍部隊にサービスを提供している。臓器移植の異常な多さから、不正行為の可能性が国際的に調査されている数施設の一つだ。Liu Jin/AFP via Getty Images

病院の庭園の南、国有賓館に隣接する南棟は、鉄壁の警備で守られた特別エリアだ。高官が病気になると必ずここへ運ばれる。

共産党指導者を診てきた医師たちが今、981プロジェクトで長寿目標に取り組んでいる。

2011年、301病院は法輪功弾圧を指揮した警察局長・王英のために、肝臓移植を手配した。王英は政権から「模範」と称賛され、国営メディアがその功績を大々的に報じた。

入院から手術まで3カ月未満だった。

手術後、政権の公安副部長、楊煥寧が上司からの見舞いを伝え、病院が「一流の技術と医療条件」を提供し、「関連する政治法律部門」が「可能な限りの準備」をしたと中国メディアが述べた。

王英の手術を監督した一人が当時中国第3の権力者だった周永康で、失脚後、北京当局は「周永康が違法な臓器収奪に関与していた」と公式に非難した。

「中国当局は、必要なときにいつでも臓器を即座に入手できる」——中国医療システムに詳しい高官のコンサルタントが、匿名を条件にエポックタイムズにそう明かした。報復を恐れてのことだ。

腎臓移植の準備をする医師たち。Pierre-Philippe Marcou/AFP/Getty Images

「指導者を守る」

健康と長寿を高めるプロジェクトの歴史的系譜は、党創設にほぼ遡る。

早くも1920年代後半から、内戦で生き残りをかける中、共産党はすでにトップ指導者治療専用の病院を持っていた。

1949年に共産党が中国を支配すると、当局は玉泉山近くに100エーカーの農場を兵士で運営し、新鮮な乳製品と野菜を供給したと中国国営歴史雑誌にある。ここは政治の「裏庭」と呼ばれる地域で、高級軍指導者の別荘がある。

農場では毛沢東が楽しむ珍しい季節外れの食べ物、例えば種なしスイカを栽培した。この種なしスイカが一般市場に出回るようになったのは、早くても1990年代後半だ。

1960~70年代、若い兵士の血液注入が人気の「強壮剤」だったと、毛沢東の22年間の主治医・李志綏が1994年の米国出版(中国禁書)の回顧録に書いた。

長寿追求の方法についての流行は変わっても、たった一つのルールは絶対に揺るがない。「支配エリートが常に優先される」ということだ。

共産党幹部はVIP病棟で無料の最高級医療を受け、最上層にいたっては、専属の栄養士チームが食事の一品一品を決めていると中国メディアが報じた。

2006年、中国国営メディアは元保健副大臣の言葉として、「中国の医療費の5分の4が、8500万人の共産党員のために使われている」と報じた。これは全国的な猛反発を受け、すぐに記事は撤回された。エポックタイムズはこの数字を独自に検証できていない。

2018年3月10日、北京の人民大会堂で開かれた中国人民政治協商会議第三回全体会議に出席する軍代表団。Fred Dufour/AFP via Getty Images

「指導者を守る」ことは国家優先事項だと情報筋は語った。

大手中国病院のVIP病棟で心臓専門医だった寧暁偉博士は、「ある副省級幹部が怪我をした途端、全省のトップ病院が一斉に動員された」、「人民の公僕と呼ばれる者が、全中国国民に奉仕させている」とエポックタイムズに語った。

エリートの特別待遇はデータに表れる。

1970年代後半、中国人の平均寿命は68歳だった。一方、共産党のトップ政治家は70代後半から80代を生きた。これはエポックタイムズが公的データを分析した結果だ。

中国現代史で最長寿の一人は人民解放軍少将の張立雄で、2024年4月に110歳で死去。元国務委員の宋平は108歳で存命中だ。

秘密厳守

国家支援の981プロジェクトは、 301病院で高官を診てきた約12人の健康専門家を中核に、 全国数百のトップ病院をパートナーにしている—— そう中国メディアとプロモーション動画が伝えている。

2011年、981プロジェクトは初の医療センターを開設。 「産業エリート」と呼ばれる新興富裕層を対象にサービスを拡大したが、 その実態は今もほとんど知られていない。遺伝子検査、免疫細胞実験、幹細胞再生の3つの世界クラスの研究所と数十の健康リゾートを記述するが、公式ウェブサイトはない。最新アーカイブは2019年2月で、広告が注目を集める数カ月前だ。

抖音(TikTokの中国版)では、981プロジェクトを称賛する投稿が溢れている。

「どれほど奇跡的か? クライアントの平均年齢92.5歳、38%が100歳超」——とある投稿。

「88歳でも健康、寿命150年は夢ではない」ともう一つの投稿。

2011年7月6日、北京にある301病院の敷地内で、掲示板の記事や写真を読む人々。Goh Chai Hin/AFP via Getty Images

多くの投稿動画では、 エリート医師と共産党旗の額縁写真の前で微笑む男女、 高級感あふれる製品、 VIP向けプレゼンの様子が映し出されている。

2021年11月の動画クリップでは、訪問者が海南の981支部をツアーし、緑の低木を背景にした輝くプールを見て「これぞ至高の待遇!」と称賛。海南は中国南端の豪華リゾート島だ。

「海南に巨大な健康インフラを構築し、世界トップクラスの西洋医学の疾患・長寿専門家が配置されている」 ——そう情報筋が明かした。981プロジェクトは、政権にとって最優先の国家事業だ。

2021年末までに会員は3700人超。スマホブランド小米の億万長者CEOと国有音響メーカー国光電子の元社長が利用していると動画にある。

共産党高官に直結する政治インサイダー・袁紅冰氏は、981プロジェクトを「政権の従来型医療ビジネスの“進化版”」と呼ぶ。

「要するに、党の金儲けだ」——そうエポックタイムズに語った。

同時に——エリート層に極上ケアを提供し、政財界のトップと同盟を結び、“健康管理”の名目で腐敗を正当化する完璧なエコシステムだ。

981プロジェクトが成長する一方で、 検閲当局の手も休むことなく動いていた—— 両者は完全に歩調を合わせている。

981プロジェクトが始まった頃、中国の臓器移植ビジネスが爆発的に急成長した。病院はウェブサイトで、「手術件数:〇〇件!」と赤字で強調し、急上昇グラフを掲げて自慢げに宣伝した。これはアーカイブに残っている。

中国のある病院は、「私たちの成果」と題されたグラフで移植件数を誇示している。同病院の移植件数は1998年の9件から2004年には1,600件以上に急増した。法輪功迫害調査国際機構
301病院の動画広告のスクリーンショット。左から右に、臓器機能の回復など981プロジェクトの主な焦点、プロジェクトの有効性の証拠として80代、90代まで生きた毛沢東を含む6人の中国高官の名前、そして「981、死と闘う150年の長寿プロジェクト」というテキストが表示されている。ラジオ・フリー・アジア

だが国際社会の監視の目が強まると、すべての宣伝が一夜にしてウェブから消えた。

2019年、中国のネット検閲は病院広告をわずか1日で削除した。削除の理由を「政府機関や人員の名前・画像を不適切に使用した」と公式に宣言した。その後、
「臓器機能の回復」という記述は、981プロジェクトの公式説明から完全に消えた。

最近の「ホットマイク事件」も同じ運命をたどった。中国ネットから動画は瞬時に削除され、国際ニュースエージェンシーの配信ライセンスまで取り消された。

「中国政治の不透明さこそ、こうした削除を際立たせる」——トレイ博士はこう指摘する。「重要でなければ、放置するだけだ。だからこそ彼らは“ステルス・モード”に切り替えた」。

死と闘う

腎臓専門医のリチャード・アメリング博士(米国で初めて中国の大規模臓器収奪に反対した医師団体会長)は、「無実の命を政権のために犠牲にする」という考えに激しい怒りを覚える。「ここ(米国)には臓器共有ネットワークがある。だが中国にはない。エリートが最優先——当然だろう?」——そうエポックタイムズに語った。「彼らは絶対権力者だ。その臓器ネットワークは、ただ彼らを生かすためだけに作られた。悪魔的だ」

「共産政権にとって、統治が最優先だ。 だからこそこれは“取引の一部”にすぎない」 ——そう中国内部告発者の鄭治博士は断言する。

1990年代、 彼は軍用バンの中で眼球摘出に参加した。

数年後、 軍将校が法輪功学習者から摘出した「新鮮な」腎臓を、 高官に約束する現場を目撃した。

2023年7月31日、カナダのトロントでインタビューを受ける鄭治氏。鄭氏は、2006年以降、中国共産党政権による臓器収奪行為を告発するために大紀元に名乗り出ている数人の証人の一人だ。Yi Ling/The Epoch Times

「当初は秘密の“軍事任務”だった。しかし今は世界の想像をはるかに超えて拡大している」鄭治博士はこう告白する。「もう秘密ではない。だが、誰も公に口にできない——恐怖のためだ」そうエポックタイムズに語った。

「無神論の共産政権にとって、人間の命などどうでもいい。目標のためならどんな境界も押し広げる」 トレイ博士はこう断じる。

「人間の体を車のように扱う。壊れたら臓器を交換——  それだけだ」 彼は冷たく言い放つ。

だが「車の部品と違って、人間の臓器は繰り返し交換できない」臓器収奪反対医師団体の欧州支部副代表、アンドレアス・ウェーバー博士は警告する。

臓器移植手術は、 臓器と宿主をつなぐ血管を傷つける。 この損傷は手術ごとに蓄積していく。

「血管を多く手術するほど、早く失敗する」ウェーバー博士はこう警告する。

免疫抑制薬は、臓器受取者にとって避けられない“現実”だ。 COVID-19のようなウイルスに、 極めて弱い体にしてしまう。

中国文化副部長の死因もこれが一因だったかもしれない。専門家が以前、エポックタイムズに明かした。

トレイ博士は、981長寿プログラムの裏に、共産党指導者が決して口にしないものを見る——死への恐怖だ。

「生きている間は、全てを手に入れられる。死ねば、何も残らない。だから彼らは命がけで闘う」——トレイ博士はこう言い切る。

Eva Fu
エポックタイムズのライター。ニューヨークを拠点に、米国政治、米中関係、信教の自由、人権問題について執筆を行う。
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