高市早苗首相が台湾有事を巡って国会で言及したことを受け、中国政府が強く反発し、日中関係の緊張は一段と高まっている。こうした状況下、在中国日本大使館は在留邦人に向けて異例の以下の注意喚起を発出した。
・現地の習慣を尊重し、現地の方と接する際には言動や態度に注意する。
・周囲の状況に注意を払い、大勢の人が集まる広場や多くの日本人が利用すると思われやすい場所は可能な限り避ける。
・少しでも不審に感じる人物や集団等を見かけた際には近付かないようにし、速やかにその場を離れる。
その他、今年3月に出された「安全の手引き」で「スパイ行為」に関する注意を再喚起している。
中国は2014年に反スパイ法を制定し、2023年の改正によって国家安全に関わる情報の範囲を大きく拡大した。改正法では「国家安全に関連するあらゆる情報」が取り締まりの対象になる一方、その判断基準は極めて曖昧であり、法の解釈と運用は当局の裁量に大きく委ねられている。
大使館が作成した「安全の手引き」では、邦人が注意すべき行為として、多くの場面が具体的に挙げられている。
政治や経済、軍事に関する情報の中には、中国側が国家秘密や国家安全にかかわる情報と見なすものが含まれており、意図の有無にかかわらず、それらを取得・保有するだけで問題視される恐れがある。日本の企業への業務報告や市場分析といった通常のビジネス行為であっても、当局の判断次第で「情報提供」と解釈されかねない。
さらに、軍事施設や空港周辺、港湾設備、国境管理施設といった場所を興味本位で撮影する行為は極めて危険であり、拘束の上でデータ消去を求められる事例も確認されている。政治集会やデモの様子を記録することも治安当局の警戒を招く可能性が高く、慎重な行動が求められる。
また、生態調査や地質調査、GPS機器を用いた測量、地図の作成などの活動は、専門家であっても許可なしに実施すれば国家安全に危害を加える行為と判断される恐れがある。学術目的で行われるアンケート調査や統計調査でさえ、適切な許可を得ていなければ違法とされる可能性が高い。中国では、詳細な紙地図を所持していたことが問題視された例もあり、「地図を持っていただけで疑われる」との指摘が現実味を帯びつつある。
他にも大使館は中国当局の取り調べが中国国内での行為にとどまらず、入国前の海外での行動や発言、研究活動にまで及ぶ可能性があると警告する。過去の言動が問題視される場合もあり、研究者やジャーナリストだけでなく、一般のビジネスパーソン(性別に関係なくビジネスに関わるすべての人を含む言葉)であっても例外ではないとする立場を示している。
これまでも、報酬目的で軍艦の写真撮影を依頼された男性が拘束された事案、軍用飛行場を撮影してSNSに公開した人物が摘発された例、自然保護区で大量の昆虫標本を採取し国外に持ち出したとして逮捕された事例などが当局から公表されている。
反スパイ法第4条では、国家秘密の窃取や不法提供、サイバー攻撃、攻撃対象の指示などが「スパイ活動」と定義され、刑法上のスパイ罪では10年以上の懲役、無期懲役、特に重大な危害があった場合には死刑が規定されている。刑事罰に至らない場合でも、反スパイ法に基づく行政拘留や罰金など厳しい処罰が科される可能性がある。
大使館は、事件や事故、不安を覚えた場合には休館日や夜間を問わず連絡するよう強く促している。
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