大阪府箕面市(みのおし)にある名刹・勝尾寺(かつおうじ)で、参拝者が奉納した達磨(だるま)を中国人観光客の女性が破壊する映像がSNSで拡散し、波紋を呼んでいる。
映像には、達磨を並べてつくられた 「台湾の島の形」や台湾(Taiwan)のイニシャル「TW」の文字、そしてハートマークのアート作品を、女性が強引に崩していく姿 が記録されていた。
女性はアートを保護するために設けられた立ち入り禁止区域に強引に入り込み、夫の制止を振り切って、手を伸ばして達磨を動かしたり、足で蹴り倒したりして破壊を続けた。しかもその行為は、彼女自身の幼い2人の子どもたちの目の前で行われていた。

勝尾寺は奈良時代に創建されたとされ、「勝運の寺」として武将や庶民に信仰されてきた。参拝者は願いを込めて達磨に片目を描き入れ、成就後にもう片方の目を入れて奉納する。境内に積み重なるように並ぶ達磨は、単なる飾りではなく、人々の祈りの結晶である。

破壊されたアートは台湾出身の参拝者らが奉納したもので、台湾本島の形と「TW」をかたどり、台湾への願いを込めて並べられた配置であった。祈りが込められた奉納物が踏みにじられたことで、日本人や台湾人の旅行者から深い悲しみと怒りの声が上がった。
(中国人女性が台湾をかたどった達磨アートを破壊した場面)
映像によれば、女性は一度立ち去ったあと再び戻り、さらに達磨を崩していた。夫が腕を引いて止めようとしても行動をやめず、同行していた幼い子どもたちの前で破壊行為を続けた。偶発的な動作ではなく、明確な意図をもった行動であったと見られる。
こうした行為に対し、「宗教施設への冒涜だ」「国籍は関係なく、人としての礼節が問われている」といった批判が相次いだ。しかし、問題は単なるマナー違反では片づけられない。

専門家が語る「背景にある思想」
中国語圏の独立系ジャーナリストで台湾情勢に精通する 唐浩(タン・ハオ)氏 は、中共の浸透工作や日米中台関係を専門的に分析し、国際メディアから広く取材を受ける論者である。現在は自身の番組「世界十字路口」などで、国際情勢をわかりやすく解説している。
同氏は今回の勝尾寺事件について、次のように述べる。

【専門家コメント(唐浩氏・翻訳)】
「一部の中国人観光客の奇妙な行動は、必ずしも個人の性格や道徳だけの問題ではありません。根には、中国共産党が幼少期から国民に刷り込んできた政治的な集団思想教育があります。
中国では小学生の頃から、『台湾は敵』『日本は敵』『アメリカは敵』といった敵視教育が繰り返されます。そのため、一部の人々は台湾や日本に対する反感を、もはや反射行動として示してしまうのです。これは極権体制の下で育った人々に生じる人間的悲劇とも言えます。
共産党が国民にこうした敵意を植え付ける理由は、将来、民族主義を利用して十数億の国民を政治目的のために動員するためです。勝尾寺での破壊行為も、その思想教育が一定の影響を及ぼした可能性があります。
ただし、現在の中国には共産党の宣伝を見抜き、理性的に物事を判断しようとする人々も増えています。しかし彼らは自己防衛のため声を上げにくく、沈黙の多数派として表に出ません。一方で、洗脳が強い層ほど攻撃的で極端な言動を示しがちであり、結果として海外社会に誤解や不信を生んでしまうのです」
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唐氏の指摘は、女性の行動が単なる個人の癇癪ではなく、中国社会の教育構造が生んだ「無自覚の反射」である可能性を示す。
読者が抱く「なぜここまで台湾の象徴を壊すのか」という疑問は、中国国内の思想環境を理解しなければ解けない。

奉納物を修復した台湾人
破壊の翌日、ニュースを知った台湾の人たちは勝尾寺を訪れ、崩された達磨を元の形に整え直した。
「仲間と一緒に並べてつくった台湾の記念を壊されて悲しかった。でも皆で元に戻せてよかった」との投稿が広がり、日本側からも称賛の声が寄せられた。
壊す者と、祈りを修復する者。
二つの行動の対比は、文化を尊重する姿勢の違いを際立たせた。

私たちに問われるもの
宗教施設は観光スポットではなく、祈りの場である。奉納された達磨には、誰かが人生の節目に託した願いが込められており、それを「気に入らない」という理由で乱す行為は、文化そのものへの冒涜である。
今回の事件は、
「人の行動の背後には社会が作り上げた思想が潜んでいる」
という事実を浮き彫りにした。
唐氏が指摘するように、この事件を「マナー問題」だけで語ることはできない。行動の背景を理解することは、日中関係を冷静に見つめる第一歩となる。

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