于朦朧事件 アラン・ユー(于朦朧)事件をきっかけに、再び注目される「不審死」

没後9年 「9億の少女の夢」キミ・チャオ(喬任梁) 真相をめぐる議論が再燃

2025/12/15 更新: 2025/12/15

中国の歌手で俳優のキミ・チャオ(喬任梁)は、日本ではあまり知られていないかもしれない。
しかし中国語圏では、かつて「9億の少女の夢」とまで呼ばれた人気スターであり、その死は今もなお、「不審死の象徴」として語り継がれている事件の一つである。

公式には「うつによる自殺」と説明されたものの、その後も疑問の声は消えなかった。
そして没後9年が経った今、中国人俳優アラン・ユー(于朦朧)の事件をきっかけに、キミ・チャオの死を思い起こす人が急増している。

二つの事件は、公式説明とは別に、関与が疑われている人物や勢力が重なっているのではないかという点で、極めて似通っていると受け止められ、ネット上では同一線上で語られている。

 



【特報連載】于朦朧事件 第2回「地上の沈黙~国家総動員の封殺~」

「于朦朧事件」連載第2回。沈黙を強いられる地上で何が起きているのか。世界では「Justice for Alan Yu(アラン・ユーに正義を)」の声が響いている。

 

「9億の少女の夢」と呼ばれた存在

キミ・チャオは、歌手としてデビューし、俳優としても数多くのドラマや映画に出演した多才なスターだった。明るく爽やかなイメージと親しみやすさから、特に若い女性を中心に圧倒的な人気を集め、中国では「9億の少女の夢」と称された。

しかし、2016年9月16日、キミ・チャオは28歳で亡くなった。

当局側は、死因を「うつによる自殺」とする公式見解を示し、多くの報道も精神的な問題を背景とした個人の悲劇としてこの出来事を伝えた。
 

 

中国の歌手で俳優の故・キミ・チャオ(喬任梁)。(スクリーンショット)

 

死をめぐって広がった疑念

キミの死後、ネット上にはその死をめぐる実にさまざまな説が拡散されてきた。
その中でも、キミが業界内で「言うことを聞かなければこうなる」という見せしめの対象にされ、業界の大物が主導し、多数の著名人が集まる場で、生きた状態のまま致命的な暴行を受けたとする説が、最も広く語られている。遺体の損壊状況として伝えられている内容は想像を絶するものだが、これを真相に近いと信じている人も少なくない。

また、葬儀で撮影されたとされる遺体写真の真偽を疑う声や、遺体の所在そのものをめぐる噂も長年語られてきた。中には、北京にある芸術施設と結びつけて語る推測まで広がり、公式説明とは異なる解釈が根強く残っている。

 

キミ・チャオの遺体が北京の芸術施設で標本として展示されているのではないかという噂が中国語圏で広がっている。
画像は、キミ・チャオの頭部と非常によく似ていると指摘されている展示品の頭部(人間のものと見られる)。(SNSより)

 

こうした疑念を強める要素の一つとして、死後に流出した音声記録がある。
公開されたこの音声は、キミ・チャオが生前に使用していたとされる録音ペンから復元されたもので、2015年当時の酒席でのやり取りが含まれている。

録音には、投資関係者とされる人物による過度な飲酒の強要や、マネージャーによる恫喝と受け取られる発言が記録されており、キミ・チャオ本人が強い身体的苦痛を訴えている様子が確認できる。飲酒を拒否しようとする声や、体調不良を訴える発言も含まれており、当時の状況が切迫していたことをうかがわせる内容となっている。

録音に含まれるやり取りから、彼は相手がどれほど業界内で力を持つ存在であっても、不当な要求には屈しない人物だったという評価も生まれている。

一方で、仕事と引き換えに性的接待を求める暗黙のルールが存在する芸能界にあって、キミ・チャオはそうした要求を拒否し続けた結果、次第に仕事を失い、事実上干されたと語られている。さらに、周囲への「見せしめ」としていじめの対象にされていたとの見方もあり、その過程で精神的に追い詰められ、うつ状態にあったとする声もある。
 

左:キミ・チャオの遺体とされる画像。真偽を疑う声が中国SNSで広がる。
右:キミ・チャオの墓。遺体の所在をめぐる噂がネットで拡散している。(ネットより)

 

周辺人物の沈黙と「圧力」を疑う声

この事件が怪しいと受け止められている理由は、死の状況だけにとどまらない。
キミの死後、彼のために声を上げた友人の中には、口封じに遭ったのではないかと受け止められる形で失踪や不可解な病死に至るケースが相次いだ。さらに事件捜査に関わった警察関係者の中にも、後に消息が分からなくなった人物が複数いるとされ、同様に口封じを疑う声が語られている。これらが事実として立証されたわけではないものの、重なり合う沈黙は、多くの人に「背後の闇」を直感させてきた。

キミの両親についても同様だ。両親は長年にわたりライブ配信を続けてきたが、その中で見られる言葉選びの不自然さや、特定の話題を避ける態度などから、「事件について深く語らないよう、加害側とされる勢力から圧力を受けているのではないか」と受け止めるファンは少なくない。

 

左:キミ・チャオの墓。右:キミ・チャオの墓前で合掌する両親。
(いずれもSNSよりスクリーンショット)

 

父の入院が呼び起こした違和感

こうした疑念が積み重なる中で報じられたのが、キミの父が「死んだカニを食べて体調を崩し入院した」とされるニュースだった。入院日は12月8日だとされ、本人は「もったいないから食べた」とている。この出来事は中国のSNSでトレンド入りし、多くの人に強い違和感を与えた。

コメント欄には、「死んで3日も経つカニを食べるなど論外だ」「これはもったいないからの次元の話ではなく、命を懸けた冒険だ」といった声が相次ぎ、単なる不注意として受け止める見方は少なかった。

ネット上で多く語られたのは、食中毒の是非そのものよりも「なぜ今、この出来事が起きたのか」という点だった。アラン・ユーの事件をきっかけにキミ・チャオの死が再び注目され始めたそのタイミングでの入院に、偶然では片づけられないと感じる人が多かったのである。

上海出身の家庭が死後のカニを食べる危険性を知らなかったとは考えにくいとして、「本当は毒を盛られたのではないか」「これ以上しゃべるな、さもなければ命はない、という脅迫の意味を持つ出来事なのではないか」と受け止める人も多く、この「タイミングの一致」こそが最も不気味だと語られている。

 

中国の歌手で俳優のキミ・チャオ(喬任梁)の父親が入院したとの情報が中国SNSでトレンド入りした。死んだカニを食べたことが原因と報じられている。(スクリーンショット)

 

終わらない疑問

こうした見方が重なり、キミ・チャオの死をめぐる噂はいまも尽きない。

実際、キミ・チャオの父親は息子の死後、中国SNSウェイボーに「老天不公,欺人太甚!」と投稿した。これは「天は不公平だ。相手は人を馬鹿にし過ぎている、やり過ぎだ」という意味合いを持つ強い抗議の言葉であり、遺族の怒りと無念を象徴する一文として、いまも語り継がれている。

 

左:生前の中国の歌手で俳優のキミ・チャオ(喬任梁)。
右:キミ・チャオの死後、父親が中国SNSウェイボーに投稿した言葉
「老天不公,欺人太甚!」(天は不公平だ。相手は人を馬鹿にし過ぎている、やり過ぎだ)
(いずれもSNSよりスクリーンショット)

 

キミの死について、決定的な証拠も新たな証拠も示されていない。それでも「噂の方が真相に近いのではないか」と感じる人は少なくなく、9年が経った今も、遺族の一挙一動は疑念とともに受け止められている。説明されない点が重なるほど「何かがおかしい」という感覚は消えず、その結果、キミ・チャオの死は中国語圏で「不審死の象徴」として語られるようになっていった。

そこに、アラン・ユーの事件が起きたことで、二人の死を重ねて考える人が急増し、同一線上で語られるようになった。

 

キミ・チャオとアラン・ユーの事件を同一線上で捉える見方が、中国語圏で広がっている。画像は、YouTube上で高い再生回数を記録しているセルフメディア制作の関連動画の一部。こうした動画は多数投稿されており、多くの華人が両事件を重ねて考えている現状がうかがえる。(YouTubeよりスクリーンショット/合成)

 

この二人の死が並べて語られるのは、事件の構図が似ているからだけではない。権力があまりに大きく、地上の公式なルートからは何も明らかにならない、明らかにされてはならない――そう感じる人が増えているからだ。共産党体制が続く限り、真相は地上には現れないのではないか、という諦めすら広がっている。

そうした行き場のない状況の中で、人々は霊界にまで突破口を求めるようになった。アラン・ユーの事件で本人の霊と交信したと主張する外国人の霊媒は、「数年以内に、アラン・ユーの事件とともに、キミ・チャオの事件の真相も明らかになる」と告げているという。

キミ・チャオの死をいまも納得できない人々にとって、「数年以内に真相が明らかになる」という霊界からの言葉は、静かに心を支え続ける希望となっている。

アラン・ユーの事件と同様に、キミ・チャオの事件についても、真相究明への強い要求が日に日に高まっている。

語られる日を待ち続ける人々が存在する限り、社会的な要請として、この事件を終わらせることは許されない状況にある。

 

(キミ・チャオの命日に墓参りし、墓前で涙を拭う母親。2025年9月16日)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
関連特集: 于朦朧事件