于朦朧事件 不屈のトップスター、禁じられた領域に踏み込んだ冒険王、沈黙を強いられた音楽家、美貌の若き武僧――中国有名人の不審死、「証拠なき真相」の輪郭を追う

【特報連載】于朦朧事件第3回 つなぎ合わされる疑念〜証拠なき「真相」〜

2026/01/18 更新: 2026/01/18

 

【編集部注】

本記事は、中国当局の公式発表とは異なる視点から、事件をめぐってネット上で広く流通している説や証言、受け止め方を整理し、社会現象として記録することを目的としている。

 

中国では厳格な情報統制が続き、独立した検証や十分な取材が極めて困難な状況にある。本文で紹介する内容には、公的に確認されていない情報や、いわゆる「噂」「説」と呼ばれるものも含まれるが、これらを事実として断定するものではない。

 

ただし、多くの人々が真相と受け止め、繰り返し語っている現象そのものは、無視できない社会的事実であると判断し、紹介している。

 

中国の不審死事件をめぐる報道には、常に同じ壁が立ちはだかる。
証拠がない。関係者が沈黙している。公式発表しか存在しない。
だがこうした状況は例外ではない。これが常態である。

 

証拠がないのではない。残されていない、あるいは消されている。
関係者が沈黙しているのではない。沈黙させられている。
公式発表しかないのではない。それ以外の情報が封じられている。

 

この前提を無視して「証拠がないから書けない」と判断することは、中国報道において事実上の報道放棄に等しい。

 

つなぎ合わされた著名人の不審死

2025年9月に死亡した中国の俳優 アラン・ユー(于朦朧) の事件をきっかけに、中国語圏のネット空間では、過去に起きた中国の著名人の不審な死や「消失」が改めて掘り起こされ、結びつけて語られるようになった。

その中で再び名前が挙がっているのが、かつて「9億少女の夢」と呼ばれたトップスターのキミ・チャオ(喬任梁)、「チベット冒険王」と呼ばれた男・ 王相軍、美貌の若き武僧として注目を集めた秋風、そして音楽家・俳優として活動してきた趙英俊 である。

本来は単発の出来事として扱われてきた事件が、なぜ今になって結びつけられて語られるようになったのか。

人々がこれらの事件を結びつけて語る理由は明確である。
共通しているのは、いずれの事件も公式発表に不自然な点が多く、どれほど世間から疑問の声が上がっても、当局は「事件性なし」と結論づけ、情報は検閲され、関係者や発信者が沈黙を余儀なくされてきた点である。

一党独裁体制下の中国では、封じられる事件ほど体制にとって不都合である証拠だと受け止める見方が広く存在する。
検閲と沈黙の連鎖こそが、人々に闇の存在を悟らせてきた。

重要なのは、こうした見方が特定の人物や一部の過激な発信者に限られたものではない点だ。同様の疑問や指摘は広く共有され、孤立した主張ではなく、重なり合う声として確認されている。

もちろん、これらを直接結びつける公的な証拠は示されていない。それでもなお、人々が疑念を手放さないのはなぜか。その答えは、具体的な事例を一つずつ追うことで浮かび上がってくる。

 

「チベット冒険王」は何を見てしまったのか

「チベット冒険王」として知られた王相軍(ワン・シャンジュン)は、チベット各地の氷河を徒歩で登り、その様子を記録した映像で人気を集めていたが、活動を続けるうち、単なる登山や探検の記録とは性質の異なる内容を含む映像を次第に公開するようになった。

 

王相軍。(ネットより)

 

そこには、臓器移送に使われているとされるヘリコプターが氷河地帯を頻繁に往復する様子や、一般人の立ち入りが禁じられているにもかかわらず、人為的な通路が設けられていた洞窟、焼かれた身分証が散乱する洞窟内部を捉えた映像などが含まれており、いずれも王相軍自身が撮影し、公開していた点が注目を集めた。

こうした映像が断片的に積み重なった結果、臓器移植に関わる拠点や中継地がチベットに存在するのではないかという見方に至った人は少なくない。

 

王相軍が生前に撮影した氷洞内の映像に映っていた、一部が燃え残った身分証明書。(動画よりスクリーンショット)

 

だが2020年12月20日、王相軍はチベットの氷河での転落事故により死亡したと報じられた。しかし同行者の説明は時期によって食い違い、肝心の転落映像についても編集の可能性が疑われた。

さらに事故前日に投稿された洞窟内の映像には、「まだ死んでいない」などの会話に聞こえる音が含まれているとして拡散し、「事故ではなく他殺ではないか」という見方を押し上げた。

2021年3月、当局は遺体を発見したと発表したが、家族は外見的特徴の違いやDNA鑑定の過程に納得できない点が残ったとして異議を唱えた。

国家レベルの利権や臓器移植をめぐる闇に偶然触れてしまったのではないか、知ってはならない現実を記録し、公にしてしまったのではないかという見方は、こうして広がっていった。

一方で、ネット上に噴出した数多くの疑問の声に対し、当局はこれを黙殺し、王相軍の死は最後まで「事故」として処理された。

その後、アラン・ユー事件をきっかけに北京の芸術館が注目され、館内で実際に撮影された動画の中に、王相軍と非常によく似た外見や特徴を持つ「人体作品」が確認されたとする指摘が拡散した。

だが、その後も当局側から明確な説明が示されることはなく、彼の死をめぐる多くの疑問はいまも整理されていない。

「チベット冒険王」王相軍の死の真相はいまも闇の中にある。

 

王相軍の生前の撮影作品。(ネット公開画像)

 

美貌の若き武僧

少林寺出身の武僧・秋風(チウフォン)は、当時21歳という若さで、2024年8月に浙江省で追突事故により死亡したと発表された。しかし華人圏では、この出来事を単なる事故として受け止める見方は少なく、事故そのものに強い疑念が向けられている。

 

秋風。(中国のネットより)

 

事故前日の車内ライブ配信で映っていた車内のシートと、事故後に公開された写真の車内の様子が一致せず、さらに事故写真には「車体が大きく壊れているもの」と「損傷が軽く見えるもの」の二種類が存在することから、同じ車・同じ事故とは考えにくいと受け止められている。その結果、本人が乗っていた車とは別の車を使い、事故が作られたのではないかという疑惑が広がった。

加えて、遺体が故郷に戻った際、村の関係者の間で背中に大きな切開痕があり縫合されていたことが確認されたとされ、秋風は事故死ではなく、臓器摘出の被害に遭った可能性まで語られるようになっている。

こうした疑念が広がる中で、華人圏の議論は次第に、ある人物に向かっていった。それが、中国武術の象徴的存在であり、同時期に外見や体調の変化が注目されていたジェット・リー(李連傑)である。

リーは2013年に自ら、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)を患っていることを公表しており、歩行に介助が必要な姿や、急激な老化が目立つ状態がたびたび報じられていた。ところが2024年以降、外見や体調が明らかに改善したかのような姿で、公の場に姿を現す場面が確認されている。華人圏では「なぜここまで回復したのか」という疑問が一気に噴き出した。その過程で浮上したのが、心臓を含む臓器移植を受けたのではないかという疑惑である。

この噂は単なるネット上の憶測にとどまらず、台湾の大手テレビ局やニュース番組でも取り上げられ、華人圏では公然と議論される話題となった。そして、同じ時期に不可解な死を遂げた若き武僧・秋風の存在が重ね合わされ、「若く、修行を重ねた身体の臓器がどこへ行ったのか」という問いが、ジェット・リーの「回復」と結び付けて語られるようになっていった。

その後、アラン・ユー事件を受けて過去の映像や展示が改めて洗い直される中、北京の芸術館に関する記録映像が再検証され、そこに収められた人体作品の中に、秋風と驚くほど似通った外見や特徴を持つものが含まれているとする指摘が広がった。

しかし、こうした指摘が重ねられても、当局から体系的な説明や検証結果が示されることはなく、秋風の死をめぐる疑問は解消されないまま残されている。

 

沈黙を破った音楽家

音楽プロデューサーであり俳優としても活動していた趙英俊(ちょう・えいしゅん)は、2016年に急死したトップスターのキミ・チャオ(喬任梁)と私的に親交があり、キミの死後、その死に疑問を投げかけていた人物である。

 

趙英俊。(中国のネットより)

 

周囲には、「キミは自殺ではない」「キミは家族を人質に取られ、奴隷契約に署名させられそうになっていた」と明かしていたという。また私的な場では、「自分も従順でなければ、末路はキミと同じになる」といった露骨な脅しを受けていたことも明かしていたとされる。

キミの死後、彼のために声を上げていた趙英俊は、やがて表立った発言を控えるようになった。関係者の間では、家族を盾に取られる形で強い制約を受け、公の場で語ることが難しい状況に置かれていたのではないかという見方が語られてきた。その後、彼の仕事は目に見えて増え、映画音楽を中心に話題作が続いたが、本人は私的な場で「これらの機会は、友人の命と引き換えに得たものだ」と漏らしていたとも伝えられている。

最後に姿を見せた録音スタジオには、「そろそろ、返すべき借りを返す時が来た」と記された紙が残されていたという。

2020年、趙英俊は映画の制作過程で、資本側がキミ・チャオの未公開音源を流用しようとしていることを知り、これに強く反発したとされる。このとき初めて真正面から資本に抗い、メディアを通じて事実を明らかにしようとしていたが、ほどなく姿を消した。

その後については、自宅が荒らされ電子機器が破壊されていたことや、病院で事実上、軟禁状態に置かれていた趙英俊を見たという関係者の話が伝えられている。

2021年2月3日、趙英俊は43歳で病気のため亡くなったと公式に発表された。

さらに近年、北京の芸術館が注目を集める中、館内で実際に撮影された動画の中に、趙英俊と非常によく似た外見や特徴を持つ「人体作品」が確認されたとする指摘が拡散した。真偽は確認されていないが、彼の「消失」と結びつけて語る声も少なくない。

公式には「病死」とされているものの、脅迫の証言、沈黙に至る経緯、意味深な言葉、そして死後も続く異様な符合は、多くの疑問を残したままである。趙英俊の不審死は、キミ・チャオの事件と重ね合わされながら、今も中国語圏で問いとして語られ続けている。

 

芸能界の闇に消えた不屈のトップスター

キミ・チャオ(喬任梁) は、かつて「9億の少女の夢」とまで呼ばれたトップスターであり、その死は今もなお、中国語圏で『不審死の象徴』として語り継がれている事案の一つである。

当局側は死因を「うつによる自殺」とする公式見解を示し、多くの報道も精神的な問題を背景とした個人の悲劇としてこの事案を扱った。

 

中国の歌手で俳優の故・キミ・チャオ(喬任梁)。(スクリーンショット)

 

キミの死後、ネット上には実にさまざまな説が拡散された。中でも最も広く語られてきたのは、キミが業界内で「言うことを聞かなければこうなる」という見せしめの対象にされたのではないかという見方である。

業界の大物が主導し、多数の著名人が集まる場で、生きた状態のまま致命的な暴行を受けたとする説は、真偽不明ながらも長年語られ続けてきた。遺体の損壊状況として伝えられている内容は常識では考え難いものだが、それでも「これこそが真相に近い」と信じる人が少なくないのが現実である。

こうした疑念をさらに強めたのが、死後に流出したとされる音声記録である。この音声は、キミが生前に使用していたとされる録音ペンから復元されたものとされ、2015年当時の酒席でのやり取りが含まれているという。そこには、投資関係者とされる人物による過度な飲酒の強要や、マネージャーによる恫喝と受け取られる発言が含まれており、キミ本人が強い身体的苦痛を訴えている様子が記録されている。

この録音内容からは、相手がどれほど業界内で力を持つ存在であっても、不当な要求には屈しない人物だったというキミの姿が浮かび上がる。

一方で、仕事と引き換えに性的接待を求める暗黙のルールが存在するとされる芸能界にあって、キミはそうした要求を拒み続けた結果、次第に仕事を失い、事実上干され、さらに権力に屈しない姿勢が周囲への「見せしめ」となって、いじめの対象にされたと受け止められてきた。

その過程で精神的に追い詰められ、撮影現場で号泣する場面が映像に残ったことが「うつ状態だった証拠」として扱われてきたが、趙英俊ら親しい友人たちは一貫してこれを否定している。彼は不当な圧力の中で、精神的にも肉体的にも極限の状態に追い込まれていただけで、家族思いで親孝行だったキミに自殺願望はなく、状況を自力で打破しようとしていたという。

 



没後9年 「9億の少女の夢」キミ・チャオ(喬任梁) 真相をめぐる議論が再燃

没後9年。「9億の少女の夢」と呼ばれたキミ・チャオの死が、いま再び議論されている。中国語圏で「不審死の象徴」と語られてきたこの事件は、なぜ終わらないのか

 

この事件が「怪しい」と受け止められている理由は、死の状況だけにとどまらない。キミの死後、趙英俊をはじめ、彼のために声を上げた友人の中に、口封じに遭ったのではないかと受け止められる形で失踪や不可解な病死に至ったとされる例が相次いだ、という語りも広がった。

さらに、事件捜査に関わった警察関係者の中にも、その後消息が分からなくなった人物が複数いるとする話が出回り、同様に沈黙を強いられたのではないかという疑念が重ねられてきた。これらが事実として立証されたわけではないが、重なり合う沈黙が、多くの人に「背後に触れてはならない闇があるのではないか」という感覚を抱かせてきたことは否定できない。

キミの両親は長年にわたりライブ配信を続けてきたが、言葉選びの不自然さや特定の話題を避ける態度から、「事件について深く語らないよう圧力を受けているのではないか」と受け止めるファンも少なくない。

また、葬儀で撮影されたとされる遺体写真をめぐっては、その真偽を疑う声が長年消えていない。そうした中、アラン・ユーの事件をきっかけに北京の芸術館が注目され、館内で撮影されたとされる動画の中に、キミと非常によく似た外見や特徴を持つ「人体作品」があるように見える、という指摘もネット上で拡散した。ただし、これについても公式な確認や説明は示されていない。

こうして数多くの疑問が積み重なった結果、キミ・チャオの死は単なる一人の芸能人の悲劇ではなく、中国語圏では芸能界の深い闇を象徴する出来事として、今も語り継がれている。

 

証拠なき真相の「輪郭」

そして俳優 アラン・ユー(于朦朧) についても、中国語圏では他の不審死と同じ文脈で語られてきた。背景として指摘されているのが、キミ・チャオ、秋風、アラン・ユーの三人が、いずれも同じマネージャーである杜強の管理下にあったとされる点である。

杜強は、ネットユーザーが整理したアラン・ユーへの加害者リストの筆頭として語られてきた人物で、事件後に姿をくらましたとされており、ネット上では台湾に潜伏している、身元を隠すため整形を試みているといった噂も流れている。

こうした共通性から中国語圏では、アラン・ユーの事案も単独の出来事としてではなく、同じ構造の中で起きた一連の出来事の一つとして受け止められてきた。

アラン・ユーの事件については、背景や経緯、指摘されている疑点を含め、すでに詳しく報じてきた過去記事を参照してほしい。

 



【特報連載】于朦朧事件 第2回「地上の沈黙~国家総動員の封殺~」

「于朦朧事件」連載第2回。沈黙を強いられる地上で何が起きているのか。世界では「Justice for Alan Yu(アラン・ユーに正義を)」の声が響いている。

 

もちろん、決定的な証拠が示されたわけではない。

しかし、説明されない死、沈黙する関係者、声を上げた人物が消えていく現実、そして情報が検閲によって遮断される状況が重なった結果、「これは本当に偶然の死が重なっただけなのか」という問いが生まれ、人々は「これほどの闇がなければ説明がつかない」と考えるようになった。

人々による情報のつなぎ合わせが最終的に描いた輪郭は、過激である一方、長年続いてきた沈黙を説明し得る一つの構図でもある。

すなわち、権力に逆らった、あるいは触れてはならない領域に踏み込んだ人物が排除されてきたのではないかという見方である。

さらに中国語圏では、これらの事件の終着点として、「消された」著名人たちの遺体が北京の芸術施設に保管され、「芸術品」や「標本」のように扱われているという説まで語られてきた。

言うまでもなく、これらは公式に確認された事実ではない。
証拠もなく、検証もできない。
本稿がそれを真実として断定することはない。
判断はすべて読者に委ねられる。
ただ伝えたいのは、こうした「証拠なき真相」が多くの人に共有され続けているという現実そのものだ。

 

故・中国人俳優のアラン・ユー(于朦朧)。 (Getty Images)
李凌
中国出身で、日本に帰化したエポックタイムズ記者。中国関連報道を担当。大学で経済学を専攻し、中国社会・経済・人権問題を中心に取材・執筆を行う。真実と伝統を大切に、中国の真実の姿を、ありのままに、わかりやすく伝えます!
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