中国の芸能界で今、はっきりとした異変が起きている。アラン・ユー（于朦朧）事件の影響は想像以上に大きく、業界全体を巻き込む前例のないボイコットを引き起こした。

アラン・ユー事件に関与したと疑われ、市民調査の末に作られた「加害者リスト」に名前が挙がった人物は、出演作や公演、広告から次々と排除され、市民からもボイコットされている。これは単なるイメージ悪化ではなく、実際に仕事が消える現象として可視化された。

その一部として、例えば歌手の焦邁奇のケースがある。焦邁奇は事件後、関与が疑われる人物の一人としてネット上で名指しされ、出演作やライブへの抗議が相次いだ。2026年1月2日に上海で予定されていたライブは、会場側から「不可抗力」を理由に中止が発表された。天災や事故ではないにもかかわらず、この表現が使われたこと自体が、市民の圧力が現実の判断に影響したことを示している。

焦邁奇をめぐっては、以前から本人の自撮り写真がネット上で広く拡散していた。そのサングラスのレンズには、体の細い男性が両手を縛られたような状態で吊るされ、周囲に2～3人が立っているように見える光景が映り込んでいると指摘された。ネットユーザーの間では、この人物がアラン・ユーではないか、そして虐待を受けていた場面を写したものではないかという疑念が急速に広がった。

こうした強い疑問の声が世論を覆う中、ネット上では「この事件に関係しているとされる芸能人はすべて排除すべきだ」との呼びかけが広がり、関連が疑われた芸能人を全ネットでボイコットする動きへと発展していった。

こうした事例は焦邁奇に限らない。ブラックリスト入りした芸能人だけでなく、関与が疑われたプロデューサーや投資者も排除の対象となり、関係する映画やドラマが、市民によるボイコットを受けて上映中止や差し替えに追い込まれる例が相次いでいる。

さらに注目すべきなのは、その影響範囲の広がり方である。ボイコット対象とされる人物と、過去にツーショットで写った写真があるだけで、その写真に一緒に写っていた別の芸能人まで批判と排除の対象になる例が相次いでいる。直接事件と関係があるかどうかなど、もはや関係ない。

なぜ、ここまで極端な動きが起きているのか。背景にあるのは、アラン・ユーの死をめぐり、当局と芸能界が示した異様な早さの幕引きと、徹底した沈黙である。事件は短期間で刑事事件性が否定され、詳しい検証や説明は示されなかった。疑問だけが封じ込められたことで、市民の怒りは逆に膨張した。

芸能界が何も語らない以上、市民は態度で判断するしかない。誰が声を上げなかったのか。誰が距離を取らなかったのか。誰が沈黙の側に立ったのか。そうした視線の積み重ねが、現在の連鎖ボイコットを生み出している。

この動きを、アラン・ユーのファンや支持者は「見える報い」として共有している。事件の関連者とされる人物がドラマを降板した、公演が取り消されたといったニュースは次々と拡散され、「正義への道はまだ遠いが、少しずつ結果が形になってきた」と受け止められている。

同様に、アラン・ユーの所属事務所や、その親会社であるマンゴー・スーパーメディア（中国メディア大手、芒果超媒）の株価下落も象徴的な出来事として語られている。沈黙を選んだ業界に対し、市民の拒否が経済的な影響として現れ始めたとの認識が広がっているためだ。

一人の俳優の死が、中国の芸能界の秩序を根底から揺さぶっている。
事件の余波ではなく、信頼を失った業界が直面している構造的な崩れである。

中国のファンが「推し」の映画をボイコット　于朦朧事件がもたらした予期せぬ連鎖

「本当にごめんなさい…今回は観に行けない。だって、この戦い、負けられないから。」

【特報連載】于朦朧事件　第1回「霊界からの追跡」

国家ぐるみの隠ぺいと封殺。