レーダー照射事件の衝撃 中共J-15と空自F-15との性能差は

2025/12/17 更新: 2025/12/17

空母「遼寧」の宮古海峡通過後、中共軍のJ-15戦闘機が航空自衛隊のF-15を沖縄南東空域で2度レーダーロックオンした。この論説ではレーダー仕組みからJ-15 vs F-15比較、米中艦隊対峙まで徹底解説する。

日中は本格的に一触即発の局面に入ったのだろうか。中国共産党(中共)のJ-15戦闘機が2度にわたり、航空自衛隊のF-15戦闘機をレーダーロックオンした。いわゆる「レーダーロックオン」とは、相手機のレーダーによって照射され、攻撃対象として捕捉された状態を指す。中共空母が沖縄に接近する狙いはどこにあるのか。

レーダーロックオン事案の詳細 12月6日沖縄南東空域で発生

12月6日、小泉進次郎防衛相は、中共軍機が航空自衛隊機に対してレーダーロックオンを行った事案が2件確認されたと明らかにした。最初の事案は6日午後4時32分ごろ、沖縄本島の南東海域の上空で発生した。遼寧号空母から発進したJ-15戦闘機1機が、防空識別圏任務中の航空自衛隊F-15戦闘機1機を対象に、断続的にレーダーロックオンを行ったとされる。

同日午後6時37分から7時8分の間にも、同じ沖縄本島南東海域の上空で、別のJ-15戦闘機が別のF-15をロックオンした。日本政府は、これらの行為を「航空機の安全な飛行に必要な範囲を超えた危険な行動だ」として中共側に強く抗議した。

日本防衛省が公表した地図によると、遼寧号の航行経路が示されている。遼寧号は12月5日に東シナ海側から第一列島線に進出し、6日に宮古海峡を通過、その後北上して7日には沖縄本島北東海域に到達した。このレーダーロックオン事案は、遼寧号が宮古海峡を抜けた6日以降に発生している。中共艦隊と艦載機は日本の防空識別圏内で活動しており、そこは領海ではないものの、主権国家として、日本が自国の排他的経済水域内を航行する外国軍艦を戦闘機で監視するのは当然の対応である。

事案発生地点は沖縄本島にきわめて近い。沖縄には普天間飛行場と嘉手納基地という主要な米軍・自衛隊基地があり、米空軍・米海兵隊および航空自衛隊の重要な拠点となっている。F-15戦闘機がこれらの基地から発進し、遼寧号空母を監視するのは日常的な任務である。

レーダーロックオンとは? 探索モードから火器管制モードの仕組み

では、レーダーロックオンとは具体的に何を指すのか。

初期の軍艦や戦闘機には一般に2種類のレーダーが搭載されていた。一つは遠距離目標を探知するための「探索レーダー」である。これは広範囲をスキャンし、目標のおおよその位置を捉えるが、精度は高くない。もう一つは「火器管制レーダー」で、目標を高精度で追跡・照射し、交戦時には継続的に照射してミサイルを誘導する役割を担う。

しかしレーダー技術の進歩により、現代の戦闘機では探索用と火器管制用を明確に分ける必要は薄れている。F-16や旧ソ連時代のSu-27に搭載された機械走査レーダーでも、1基の装置で探索・追跡・火器管制を兼ねることが可能であった。

旧来の機械走査レーダーは、アンテナを機械的に回転させて特定方向にビームを送信する仕組みである。探索モードでは扇状または広範囲をスキャンするため、同じ方位に再びビームを照射するまで時間間隔が生じる。

レーダーが電磁波を発射すれば、相手側はそれを検知できる。これがレーダー警報受信機(RWR)の動作原理である。警報受信機は周囲の電磁波を受動的に受信し、その周波数、パルス間隔、波形、強度などを解析する。多くの警報受信機には「レーダー指紋データベース」があり、特定の電波特性から使用機種やレーダーの種類を判別できる。

敵機のレーダーが探索モードで作動している場合、送信パルスの間隔は比較的長く、「ピッ、ピッ、ピッ」といった間隔あるリズムとなる。警報受信機はこのパターンから、敵機が広域探索中であり自機をロックしていないことを把握する。

敵レーダーが広域探索で目標のおおよその位置を捉えると、モードを「追跡(track)」に切り替える。この段階では、レーダービームは頻繁に同じ方向を向くようになる。続いて「ロックオン(lock)」または「火器管制(fire control)」モードに入る。この状態ではビームが目標に集中し、パルスの繰り返し周波数が非常に高く、波形も安定する。この状態が、半アクティブ誘導ミサイルの照射や射撃データ算出に利用される段階だ。

ここまで進むと、相手がミサイル発射ボタンを押すだけで自機は極めて不利な状況に追い込まれる。

今回、航空自衛隊のF-15戦闘機が中共軍のJ-15にロックオンされたというのは、レーダー警報受信機が警報を発したことを意味する。平時にこのような行動を取る必要性はほとんどなく、極めて挑発的な行為と受け取られかねない。

ここまでの説明は機械走査レーダーを前提としているが、この種のレーダーは警報受信機によって探知されやすい。一方、現在の第5世代戦闘機の多くは「アクティブ電子走査アレイ(AESA)レーダー」を搭載している。AESAレーダーはアンテナを物理的に動かさず、素子の位相を変えてビームを制御する方式であり、より高い探索・追跡能力を持つ。いわゆる「探索しながら追跡する(track while scan)」能力である。広い空域をスキャンしつつ、複数の目標を同時に追跡・ロックオンできる。

AESAレーダーは警報受信機による解析を難しくするが、不可能にするわけではない。周波数、パルス幅、瞬時出力など電波特性の分析により、火器管制レーダーによるロックオンかどうかを判定することは依然可能である。

J-15 vs F-15性能比較 重量・速度・レーダー性能で日本優位

今回、日本周辺空域で確認されたJ-15は、機械走査レーダーを搭載する初期型とみられる。

中共海軍の艦載機であるJ-15には複数のバリエーションがある。最新型の「J-15T(カタパルト発進型)」はAESAレーダーを装備しているが、初期型J-15はSu-33に近い機械走査レーダーを搭載している。「遼寧」は中共海軍初の空母であり、その艦載機部隊は旧来型のJ-15で構成されているとされる。結果として、日本のF-15に搭載された警報受信機によって探知されやすい。

一部には「J-15がF-15をロックオンしたのだから、J-15の性能が優れている証拠だ」とみなす向きもあるが、その見方は適切ではない。平時の接触においては、両軍の機体が目視できる距離で飛行しており、ロックオンするか否かはパイロットの判断による。日本側がロックオンを行わなかったからといって、能力が劣るわけではない。むしろ、日本が運用するF-15戦闘機の総合性能は、J-15を大きく上回っているといってよい。

航空自衛隊のF-15は1980年代から順次配備が進められてきた。当初はAN/APG-63レーダーを主力としていたが、近年の改修で高性能AESAレーダー「AN/APG-82」への換装が進んでいる。レーダー性能に限れば、J-15がF-15の優位性に太刀打ちするのは難しい。

J-15はSu-33系列を基礎としており、機体が大きく重量がかさむのが特徴である。空虚重量は約17トンに達するとされる。一方で、同じく重戦闘機に分類されるF-15の空虚重量はおよそ13トンである。F-15はプラット・アンド・ホイットニー社製のF100エンジンを搭載し、最高速度はマッハ2.5に到達する。機動力の面でも、F-15はJ-15を大幅に上回るとみられる。

日米共同演習と中共の挑発意図

12月初旬の1週間、西太平洋では日本だけでなく米中艦隊も対峙していた。

時系列でみると、「遼寧」は12月5日から7日にかけて宮古海峡を抜け、沖縄南東の海域に達した。同じ頃、中共海軍の「海南」強襲揚陸艦が南シナ海からバシー海峡を通過して西太平洋に進出し、12月2日から3日にかけてフィリピン海周辺を航行していた。

「遼寧」が沖縄本島沿いを北上していた時期、米海軍の「ジョージ・ワシントン」空母打撃群が12月4日にグアム近海を出港し、その後沖縄付近の太平洋側海域に入った。事実上、両空母打撃群が同じ海域に現れたことになる。また、米海軍の強襲揚陸艦「トリポリ」は5日から6日にかけて西太平洋側を通過し、バシー海峡を抜けて南シナ海へ進入した。

米海軍の空母ジョージ・ワシントンは、もともとこの地域での活動を予定していたとみられる。米海軍と海上自衛隊は12月、日本列島南東海域で共同演習を実施していた。

「遼寧」の行動軌跡と日米共同演習の海域を重ね合わせると、「遼寧」機動打撃群は沖縄東方の太平洋側へ意図的に進出し、日米の演習エリアに踏み込んだ構図となる。日本の自衛隊と米軍の訓練に割り込む形であり、挑発的行動と受け取られても不思議ではない。

今回、中共海軍は第一列島線を越えて活動範囲を拡大し、J-15による日本機へのロックオンなど、挑発的な行動を続けた。中共の意図は、軍事力を誇示し日本を『懲らしめる』狙いがあったと考えられる。しかし、こうした行為は日本側の危機意識を高め、自衛隊の能力強化や軍事力の「正常化」を求める世論をむしろ後押しする結果を招く可能性が高い。

台湾有事をめぐっても、「台湾有事は日本有事」という認識はいっそう強まるだろう。中共は長年、台湾封鎖や包囲を唱えてきたが、台湾の東側海域へ出るには宮古海峡を通過する必要があり、日本が関与を避けるのは現実的に難しい。平時から中共海軍がこのような強硬姿勢を続ければ、中共が望む政治的結果とは逆方向へ情勢が動く可能性も否めない。

周子定
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