アメリカ軍事 フリン大将は昨年、米太平洋陸軍司令官を退任した

前米太平洋陸軍司令官チャールズ・フリン大将が語る 今世紀を決定づけるもの

2025/12/20 更新: 2025/12/20

過去10年間、中国共産党(中共)政権の脅威について毎日考え続けてきた男がいる。チャールズ・フリン氏だ。彼は2024年11月に太平洋陸軍司令官を退任したが、それ以前は陸軍の作戦担当副参謀次長および作戦担当参謀次長を務めていた。

彼のインド太平洋における経験は、2014年にハワイの第25歩兵師団の指揮を執ったことから始まった。10年前は、今日ほど深刻に、自由世界に対する中共政権の脅威を懸念しているアメリカ人などほとんどいなかった。当時、フリン氏は中東情勢に14年間集中し続けていた。

「カブールやカンダハール、クンドゥーズ、バグダッドについてはすべて知っていたが、インド太平洋における中国には全く注意を払っていなかった」と、フリン氏は「American Thought Leaders」の司会者、ヤン・エキレック氏に語った。

新たな任務に就く前、彼の兄であり、当時、国防情報局(DIA:Defense Intelligence Agency)局長を務めていたマイケル・フリン退役中将から、米国がインド太平洋で直面している脅威の概要を説明するために招待を受けた。

「フォートブラッグへの帰路、渋滞に巻き込まれているときに、自分には膨大な勉強が必要だと痛感した」と彼は言う。その日からフリン氏が学び始めたことは、今も彼の使命の原動力となっている。

「今世紀という時代は、米国と中国の関係によって決定づけられるだろう。中国が進める軍の近代化、組織改編、そして先端技術の導入。これらが完成の域に達すると目される『10年という節目』が、すぐそこまで迫っている。 我々に猶予はない。今、最大の問題はスピードだ。この地域における中国の動きを阻止するため、我々はもっと強い危機感を持って挑まねばならない」。

太平洋における利害

米国はグアムなどの自国領土を太平洋に有し、第一列島線沿いには防衛条約を結んだ同盟諸国を抱えている。中共が強引に影響力を拡大させているこのインド太平洋において、米国は自国の権益を守るだけでなく、地域の安全を保障する重い責任を負っているのだ。

2014年にフリン氏が太平洋に目を向けたとき、中共は係争地である南シナ海のスプラトリー諸島で人工島の建設を加速させていた。

「我々は島を作るなと言ったが、彼らは作った。武装化するなと言ったが、彼らは武装化した。軍隊を配置するなと言ったが、彼らは配置した」とフリン氏は語る。

「これこそが、中国が段階的かつ狡猾、そして無責任な道を進んできた理由だ。彼らは世界的な野望を持っており、そのために地域的な覇権を握る条件を作り出そうとしている」。

フリン氏は、これらの人工島を単なる不誠実な姿勢の表れ以上のものであると見なしている。中共は、衛星画像が軍事利用を証明しているにもかかわらず、建設は非軍事目的であると主張している。

「私は陸軍の人間だ。だから、単なる島が造られているのではなく、『戦術的な地形』が作り出されているのだと理解できる。その目的は南シナ海という『スーパーハイウェイ』を封鎖するためだ」。

この地域での混乱は、軍事的な優位性だけでなく、経済的にも甚大な影響を及ぼすとフリン氏は指摘する。この海域にはエネルギー資源や鉱物資源が豊富に眠っているとされ、1億2500万人の漁業権に関わり、世界で最も混雑する航路の一つでもあるからだ。

長年、米国はインド太平洋を優先的な戦域であると主張してきた。しかし、フリン氏をはじめとする専門家たちは、米国の行動が必ずしもその言葉を裏付けていると同盟国が感じているわけではないと指摘する。

2022年、ウクライナに対する330億ドルの米国の支援策が承認されたその日、フリン氏はあるASEAN加盟国の国防相らと会談していた。彼らは、米国の関心がインド太平洋から逸れてしまうのではないかという懸念を率直に口にしたという。

「彼らはこう言った。『本気なのか? これからどうなるんだ? あなたたちはここに居続けてくれるのか?』と。その時、私は強い衝撃を受けた。我々の意志を地域の同盟国やパートナーに示すことができなければ、信頼を失うことになる。今はそんな余裕などない時なのだ」

現在、トランプ政権の新戦略は、米国の重点を西半球(本土周辺)に置いている。しかしインド太平洋についても、「自国の主権を自ら守り抜きたい」という各国の強い意志を、この戦略は的確に捉えているとフリン氏は評価している。 

「自ら助くる者を助ける」

このトランプ政権の新戦略では、抑止力の確立を経済活動を維持するための「不可欠な基盤」と位置づけ、その実現に向けて地域のパートナー諸国との連携を呼びかけている。

「現政権は、自ら助くる者を助けるつもりだ」とフリン氏は述べ、同盟国が自分たちで防衛費をもっと出すべきだという、米政権側の要求に触れた。

「トランプ政権は、パートナー諸国に対して応分の負担を求めるだろう。なぜなら、それは他国のためではなく、自分たちの防衛や領土、そして主権を守るための『自国への投資』にほかならないからだ。アジアの国々にとって、安全保障の傘の大部分を構成しているのは、中国と同様に彼ら自身の陸上部隊なのである」

フリン氏は、インド太平洋における陸上戦力の重要性をしばしば強調する。しかし、ワシントンでこの主張を通すのは容易ではない。多くの政策決定者が地図を見て、そこにある広大な「青い海」ばかりに目を奪われるからだ。 「この地域を海軍と空軍だけの戦域だと考えるのは誤解だ。実際には、あらゆる領域(陸・海・空・サイバー等)が絡み合う『統合的かつ多国籍な戦域』であり、各国が連携して対処しなければ解決できないのだ」。

例えば、中共が米軍基地周辺の通信会社を買収したり、地元のメディアを買収して反米世論を煽ったりする「影響力工作」がある。これらは衛星や艦船からでは見えず、地上に拠点を置き、現地の社会に接している陸軍だからこそ察知できる重要な情報であると彼は言う。

また、アジア諸国の軍隊の多くは陸軍が主体である。

  • インド:軍の80%が陸軍
  • インドネシア:75%
  • タイ:75%
  • ベトナム:80%
  • フィリピン:70%(師団数は米陸軍より多い)

フリン氏は、中国の拡大に対抗するため、これら地域の陸上戦力を結ぶネットワークの構築に10年を捧げてきた。その結果、近年、各国軍が新たな形で自立し始めているのを目の当たりにしている。

「彼らは米国の安全保障の傘に、ただ一方的に依存し続けたいわけではない。米国の力を借りて自国の能力を高めたいのであり、有事の際に信頼できる後ろ盾を求めているのだ。彼らが望んでいるのは、主権を尊重し合う真のパートナーシップなのだ」。

技術的優位と抑止力

米国が提供するのは、技術的な優位性と訓練である。昨年の初め、米国はフィリピンのタスクフォースに対し、中距離地上発射型ミサイルという新たな能力を提供した。タスクフォースは深夜、フィリピン諸島の北端に上陸し展開した。

翌日、中共はフィリピンを威嚇する声明を出したが、フィリピン側は即座にこう反論した。「我々は、自ら選ぶ方法で訓練し、展開し、国民を守る」。

「彼らは自国の主権を主張したのだ。日本も最近、同様の行動をとっている」とフリン氏は述べ、陸上戦力において米国は依然として中共に対して軍事的な優位性を持っていると付け加えた。

中共軍は、米国の海空軍力を打ち負かし、宇宙やサイバー能力を低下・阻害するように設計された「接近阻止・領域拒否(A2/AD:Anti-Access/Area Denial)」の兵器体系を構築している。

「しかし、その中国の兵器体系の狙いは米国の船や飛行機を追い払うことにある。つまり、インド太平洋の各地に分散し、機敏に移動しながら再装填し、攻撃を繰り返すネットワークでつながった『神出鬼没な陸上戦力部隊』を正確に捕捉して仕留めるようには設計されていないのだ」とフリン氏は語る。

中共の海軍や空軍による侵入は連日、驚くべきペースで起きており、米国、日本、韓国、台湾などの注目を奪っている。

「私が強調したいのは、中共の『陸軍』の動きを注視していれば、政府首脳部がいち早く侵攻の予兆を察知できるということだ。海軍や空軍による挑発だけでは、台湾への本格的な侵攻は成立しない。だが、中共が陸軍の輸送や展開を始めたら、それこそが『本気の侵攻』が始まる決定的な合図なのだ」。

フリン氏の構想は、米軍基地を新設することではない。むしろ「基地は減らし、より多くの場所に、より多くの兵士を送り込む(More faces in more places with less bases)」ことにある。これは、特定の場所に固定されず、地域内を頻繁に移動しながら駐留し、多国間での共同演習を増やすことで、常に米軍が各地に「存在」し続ける状態を作る戦略だ。

「インド太平洋において、米国の抑止力に疑念を持たれることは絶対に避けなければならない」 彼は、10年にわたる地域紛争が連鎖して拡大した、第二次世界大戦の教訓を引き合いに出した。 「現在ウクライナと中東で起きている2つの紛争は、米国の抑止力が機能しなかった結果だと言える。もしここに3つ目の紛争(アジアでの戦火)が加われば、それはもはや地域紛争ではなく、地球規模の世界大戦になるだろう」。

サプライチェーンの確保

フリン氏は最近、ある磁石メーカーを視察した際、加工段階ごとに分けられた5つの瓶を見せられた。

「経営者は『これが我々の製品(の製造工程)だ』と言った。そこで私は、その5つの工程のうち、どの段階までを自社(米国側)で管理できているのかと尋ねた。すると彼は3つ目の瓶を指し、『自前と言えるのは、この段階の半分くらいまでです。それより前の工程は、すべて外部(海外)に依存しています』と答えたのだ」

「彼らが作っているのは、冷蔵庫に貼るような玩具ではない。F-35戦闘機や精密誘導兵器、スーパーコンピュータに不可欠な高性能磁石だ。原材料から加工に至るサプライチェーンの川上から川下まで、自国でコントロールを取り戻さなければ、米国にとって致命的な弱点(脆弱性)になる。 その現実を、私はその場で突きつけられた思いだった」。

重要物資のサプライチェーンを確保する上で、一刻の猶予も許されない、スピードが命である理由は3つある。

  1. 中国による「武器化」: 中国共産党がすでに供給網を外交上の武器として使う意志を露わにしていること。
  2. 回帰への時間的障壁: 海外依存をやめ、国内生産(リショアリング)へ切り替えるには膨大な時間がかかること。
  3. 迫りくる「2030年問題」: 2030年までに、米国の熟練技能労働者の60%が定年退職を迎えてしまうこと。

この危機に対し、フリン氏は軍隊を活用した解決策を提案している。 「軍には、数年間の任期を終えて社会に戻る陸・海・空・海兵隊、そして宇宙軍の若き精鋭たちが大勢いる。彼らは高い規律とリーダーシップを備え、高度な教育も受けている。彼らに対し、『退役後の技能習得にかかる費用の9割を国が負担する』と持ちかけ、製造業の現場へ誘い込んではどうだろうか」。

フリン氏は、米国人のDNAに刻まれた「イノベーター(革新者)」としての資質を信じている。しかし、その才能を呼び覚ますには、「教育から現場へつなぐ育成のパイプライン(仕組み)」が不可欠だと説く。

「どれほど設備やテクノロジーが進化しても、職人の手仕事でしか成し得ない工程は必ず残る。何より、人間の柔軟な知性こそが、新しいものを創り出し、予期せぬチャンスを掴むための鍵なのだ」。

ニューヨークを拠点とするエポックタイムズ記者。
エポックタイムズのシニアエディター。EPOCH TVの番組「米国思想リーダー」のパーソナリティーを務める。アカデミア、メディア、国際人権活動など幅広いキャリアを持つ。2009年にエポックタイムズに入社してからは、ウェブサイトの編集長をはじめ、さまざまな役職を歴任。ホロコーストサヴァイバーを追ったドキュメンタリー作品『Finding Manny』 では、プロデューサーとしての受賞歴もある。
関連特集: アメリカ軍事