「文化交流」という名の認知戦 沖縄を標的とした複合法律戦の構造分析

2026/01/29 更新: 2026/01/29

「文化交流」「学術対話」「平和的な市民運動」これらの言葉に警戒心を抱く人はあまりいない。しかし現在、国家の主権をめぐる攻防は、もはやミサイルや戦車だけで行われる時代ではないのかもしれない。もし、これらの活動が沖縄の主権を揺るがすものであるとすれば、日本の安全保障は根底から覆されるだろう。

日本沖縄政策研究フォーラム理事長の仲村覚氏は、一見すると善意に満ちた文化交流や学術対話が、実は高度に戦略化された「複合法律戦」の一部として機能していると述べている。

仲村氏は、自身のYouTube番組「仲村覚チャンネル」で、2026年1月に報じられたグローバルサウス学術フォーラムでの意見交換会と、中国国営放送CGTNが制作した琉球文化のドキュメンタリー番組という二つの具体的事例を取り上げ、中国共産党(中共)が密かに進めている沖縄奪取の企図を、シミュレーションとして紹介している。

二つの事例に共通するのは、「文化」「歴史」「平和」という、誰もが異論を唱えにくいテーマを入口としながら、その奥に三層構造の戦略的作戦が組み込まれている点である。

「三戦」で読み解く作戦構造

仲村氏は、中国共産党(中共)の軍事戦略理論である「三戦(世論戦・心理戦・法律戦)」を用いて、彼らが成し遂げようとしている目論見を明らかにしている。

世論戦とは、中国の「三戦」の一つで、銃弾の代わりにプロパガンダを用い、物理的戦闘の前に相手社会を内側から無力化する戦術を指す。

グローバルサウス学術フォーラムでは、「沖縄の米軍基地は、西洋帝国主義によるグローバルサウスへの抑圧の最も顕著な現れだ」という発言があった。ここで作られているのは、「日米=抑圧する側」対「中国・沖縄=抑圧される側」という図式である。つまり、沖縄は日本やアメリカではなく、中国と同じ「被害者の仲間」であるというメッセージだった。

一方、CGTNの番組では別の角度からアプローチし、「琉球はもともと中華民族の家族だった」「琉球文化は中国からの移民が作った」と繰り返し主張することで、沖縄と日本のつながりを薄めていく。代わりに、「沖縄と中国は昔から近い関係だった」という印象を植え付ける狙いだ。いずれも目的は同じで、沖縄を日本の安全保障の枠組みから「認識上」切り離し、中国側へ引き寄せることにある。

次に、トラウマを「武器」として用いる心理戦である。心理戦とは、宣伝(テレビ、インターネット、印刷物の散布など)を通じて敵の思考や態度を変化させ、抵抗意思を破砕する手法を指す。

沖縄戦の記憶は、この作戦において重要な役割を果たす。「防衛力を強化すれば、再び悲劇が繰り返される」と訴えることで住民の恐怖心を刺激し、冷静な安全保障議論を困難にする。感情が先行してしまうからだ。

さらに、沖縄の人々を「先住民族」と呼ぶことで、「日本政府に虐げられている被害者」という意識を植え付けようとする。被害者意識が強まれば、日本政府への不信感も増幅され、分断が深まっていく。この手法の巧妙さは、本物の感情――沖縄戦への恐怖や基地負担への不満――を利用し、それを政治的行動、すなわち安全保障政策への抵抗へと自然につなげてしまう点にある。

そして法律戦である。仲村氏はこれを「最大の罠」と位置づけ、法を用いて自己の行動の合法性を確保し、相手を法的に拘束する戦術だと説明する。

CGTNの番組では、カイロ宣言やポツダム宣言といった古い文書のみを取り上げ、「沖縄の主権について曖昧な記述がある」と主張している。しかし、日本の主権回復を正式に確定させたサンフランシスコ平和条約については、意図的に言及していない。

仲村氏は、中国がサンフランシスコ平和条約に触れれば、「沖縄の主権は日本にある」という法的根拠が確定し、「沖縄の地位は未定である」という彼らのナラティブ(物語)が成立しなくなるため、意図的に無視または否定していると分析している。

また仲村氏は、グローバルサウス学術フォーラムのような場が、日本政府を飛び越えて沖縄県が直接海外組織とつながる「準外交ルート」を形成しつつあり、これが既成事実化すれば、沖縄県があたかも独自の外交政策を持つ「独立した主体」であるかのように見えてしまうと警鐘を鳴らしている。中央政府の統制が効かなくなる危険性があるという。

五段階の侵略ロードマップ

仲村氏は、これらの作戦が以下の段階を経て進行すると警告している。

1)接触と交流 平和的対話として開始

那覇市で、中国の研究機関と沖縄の市民団体(「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」など)が意見交換会を開催した。「平和構築」を掲げながら、事務局長が「沖縄の米軍基地は西洋帝国主義による抑圧の象徴」と発言し、沖縄を「グローバルサウス(植民地被害者)」側に位置づける対話が行われている。

こうした平和構築を名目とする意見交換について、仲村氏は、多くの参加者が善意から関わっている一方で、その活動が結果として「日本政府(本社)を介さず、沖縄県(支社)が海外と直接つながる準外交ルート」の既成事実化に利用されている構造を指摘している。

2)歴史の書き換え 「日本とは別物」という認識の形成

中国国営テレビ(CGTN)が制作し、フランス語で放送されたドキュメンタリー『失われた王国を求めて』では、「琉球は本来、独立した平和な王国だったが、1609年の薩摩侵攻や1879年の琉球処分によって不当に侵略された」という歴史観が流布されている。「琉球は元来中華民族の家族の一員」「文化は福建省からの移民が築いた」といった言説を広め、日本との歴史的・文化的つながりを否定する世論戦が展開されている。

3)法的疑義の流布 主権未定論の国際的拡散

中国共産党は、日本の沖縄統治の正当性を法的に切り崩すため、サンフランシスコ平和条約を無視し、カイロ宣言やポツダム宣言のみを根拠として、「日本の主権は本州など四島に限定され、琉球の地位は未定である」とする法理論を拡散している。昨年の高市発言を契機に、この主張は対日メッセージとして改めて強調されている。

さらに仲村氏は、2026年3月にジュネーブで開催される国連人権理事会において、沖縄の先住民族の権利保護に関する緊急決議が採択される可能性を指摘する。一度国連の公式文書に記載されれば、修正は極めて困難になると警鐘を鳴らしている。

対抗策としての「事実の防衛線」

中国共産党の戦略的布石に対し、私たちに打つ手はないのだろうか。仲村氏は、感情論や善意に依拠するのではなく、第一に、サンフランシスコ平和条約によって日本の主権(潜在的主権を含む)が法的に確定しているという国際法上の事実を示すこと、第二に、沖縄県民のルーツが日本人であるという科学的・歴史的事実をもって反論することが重要だと述べている。

認知戦の本質は、相手が反論しない間に既成事実を積み上げる点にある。情報の発信と拡散こそが、この「見えない侵略」に対する最も有効な防衛線になると仲村氏は指摘する。

現代の主権侵害は、必ずしも軍事的手段によるものではない。「文化」「歴史」「人権」という普遍的価値を装いながら、その実態は高度に戦略化された法律戦・認知戦として展開されている。この現実に、私たちは今、気づかなければならない段階に来ているのかもしれない。

大道修
社会からライフ記事まで幅広く扱っています。
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