北朝鮮が憲法改正 金正恩の狙いとは 「娘への王朝継承準備」との見方も

2026/05/08 更新: 2026/05/08

北朝鮮が最近、憲法を改正し、初めて領土条項を新設したうえ、「祖国統一」など韓国に対する敵対的表現を全面的に削除した。また、国務委員長である金正恩が核兵器の使用権限を持つことも明文化した。複数の専門家は、今回の改憲は北朝鮮の戦略路線における重大な転換を示すものだと指摘している。

金正恩は政権基盤を強化し、一族による世襲体制の法的基盤を固める狙いがあり、さらに今後の米国との交渉に向けた布石でもある可能性があるという。

北朝鮮が改憲 「統一」など敵対的表現を歴史的削除

韓国の聯合ニュースおよび『朝鮮日報』によると、韓国政府は今月6日、北朝鮮の新憲法全文を公表した。それによれば、北朝鮮当局は憲法の前文および本文から、「北半部」「祖国統一」「社会主義の完全勝利」など、民族統一や南北統一に関連するすべての表現を全面削除した。

新憲法第2条では、初めて領土条項が新設され、「朝鮮民主主義人民共和国の領土は、北側で中国およびロシア連邦と接し、南側で大韓民国と接する。また、領海および領空を含む」と規定された。

金正恩は2023年末、南北関係について「敵対する二つの国家関係」であると宣言しており、2024年1月には憲法改正によって領土を新たに規定すると表明していた。

注目されるのは、新憲法には韓国を「敵対国」と明記する内容が盛り込まれなかった点である。改正前に記されていた「帝国主義侵略者」「抑圧・搾取される人民の解放」「国内外の敵対勢力による破壊工作の陰謀」など、強い敵意を示す文言も姿を消した。

一方、改憲後は金正恩の権限が大幅に強化された。憲法では国務委員長の位置づけが「最高指導者」から「国家元首」へと変更され、国家を代表する地位が与えられた。国家機関の序列でも、国務委員長が最高人民会議より上位に置かれるのは初めてとなる。

金正恩は現在、朝鮮労働党総書記、党中央軍事委員長、国務委員長、武力最高司令官などの職を兼任している。軍階級は共和国元帥であり、北朝鮮第3代の最高指導者である。

また、改正憲法では初めて、国務委員長による核兵器使用権限が明示された。これにより、核戦力指揮機構に対する核使用権限付与の法的根拠が整備された形だ。

さらに、北朝鮮憲法からは「無償医療」や「無税国家」といった、現実とかけ離れた福祉条項も削除された。

北朝鮮の改憲は何を意味するのか

今回の改憲は国際社会から大きな注目を集めている。中国語番組『早安中国』で、ベテランメディア司会者の石山氏は、今回の動きについて「単なる法改正ではなく、北朝鮮の戦略路線における重大な転換だ」と分析した。

石山氏は、「金正恩の本質的な狙いは、金王朝体制の永久化にある」と指摘する。

「彼はいま、『白頭山血統』のために、完全な主権国家を残そうとしている。まず法律上、北朝鮮を完全に独立した国家として確立し、その後に米国や韓国と交渉するつもりなのだ」と述べた。

白頭山血統とは、金王朝の支配を「革命の聖なる血筋」として正統化するための北朝鮮独特の政治概念として使用される。

さらに、「北朝鮮が本当に重視してきたのは、イデオロギーではなく政権の安全保障だ」と語る。旧ソ連崩壊以降、北朝鮮は強い安全保障上の不安を抱え続けてきたという。

そのため、北朝鮮は核兵器開発に全力を注いできた。石山氏は、「論理は単純だ。核兵器を持てば、誰も手を出せなくなる。つまり、それによって体制を守ろうとしている」と説明した。

また、六者会合(日本、米国、中国、ロシア、韓国、北朝鮮)が行われていた時期には、北朝鮮が米国側に対して繰り返しシグナルを送っていたとも指摘する。

「北朝鮮の外交官は、米国側に対し、平和条約さえ締結されれば、韓国以上に親米になることすら可能だと直接語っていた。ミサイルは東側だけでなく、西側、つまり中国に向けることもできると言っていた」と明かした。

石山氏は、今回の改憲と「統一」の放棄路線は、将来的な米韓との交渉に向けた準備である可能性が高いとみている。

一方、中国問題専門家の章天亮氏は、別の観点から分析している。自身の番組『天亮時分』で、今回の改憲は「金正恩の権力基盤が極めて安定していることを示す政治的シグナルだ」と述べた。

「彼はもはや、国内結束のために外部の敵を必要としていない。また、朝鮮半島の統一を政権の正統性維持に利用する必要もなくなった」と語った。

章氏によれば、これまで北朝鮮が「統一」を強調してきたのは、国内を動員し、常時緊張状態に置くための政治的手段でもあった。しかし現在の金正恩は、より現実的な統治と政権維持を重視しているという。

「もし金正恩の目標が金王朝の維持であるなら、自国だけで静かに体制を維持することが最優先になる。社会主義や朝鮮半島の統一は、もはや重要ではない」と述べた。

「娘が世襲するための準備」との見方も

章天亮氏はさらに、今回の改憲が娘の金主愛氏への後継準備と関係している可能性にも言及した。「金正恩はいま、自らの娘に後継させる準備を進めている。本人の健康状態も決して万全ではない」と指摘した。

仮に将来、若い女性が政権を継承する場合、「韓国武力統一路線」を維持することは極めて危険だと分析する。

「若い女性が戦争開始の責任を負うことは難しい。一度戦争になれば、王朝そのものが崩壊しかねない」と述べ、金正恩は最も危険な問題を事前に処理しようとしているとの見方を示した。

北朝鮮女子サッカーチーム 8年ぶり訪韓へ

こうした憲法改正の衝撃が続く中、半島情勢に新たな変化を感じさせるニュースも伝えられた。

韓国サッカー協会および統一部によると、北朝鮮女子サッカークラブ「ネゴヒャン(私の故郷)」が、今月20日に水原総合運動場で「水原FC」と準決勝を戦う予定である。

北朝鮮代表団の訪韓は、2018年の仁川で開催された国際卓球連盟(ITTF)ワールドツアー・グランドファイナル以来、およそ8年ぶりとなる。また、金正恩が2023年末に南北関係を「敵対交戦国家関係」と定義して以降では初の訪韓となる。

韓国の専門家らは、北朝鮮が参加を決めた背景について、優勝賞金100万ドルの存在などが影響した可能性を指摘している。北朝鮮女子チームが韓国チームに勝利すれば、少なくとも準優勝賞金50万ドルを獲得できる。一方で、大会を欠場した場合、アジアサッカー連盟(AFC)の規定により最低10万ドルの罰金が科される可能性があるという。

北朝鮮が今後、徐々に変化していく可能性について、章天亮氏は「いまが観察の出発点になるかもしれない」と語った。

「もし将来、北朝鮮と米国の関係が緩和し、経済が徐々に開放されれば、王朝的な色彩を残しつつも、現在ほど極端ではない体制へ向かう可能性がある」と述べた。ただし、その見方については「やや希望的観測かもしれない」とも認めている。

李淨
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