巨額貿易黒字の中国に各国が防壁 日本 対中デリスキング加速へ

2026/07/16 更新: 2026/07/16

米外交専門誌フォーリン・アフェアーズは7月、エンリコ・ファルデッラ、セルゲイ・ラドチェンコ両氏の共同論文「中国は自国の台頭を可能にする世界を破壊している(China Is Sabotaging the World That Enables Its Rise)」を掲載した。

同論文は、中国の繁栄が依然として西側主導の開放的な国際秩序に依存しているにもかかわらず、中国共産党(中共)がその秩序の弱体化を図っており、秩序を掘り崩すほど自らの繁栄の基盤を損なうリスクが高まると指摘。また中共が産業支配の拡大を追求するほど各国の保護主義と経済分断を促し、警告を無視すれば破壊的な貿易戦争を招いて「国家の復興」の夢も潰えると警告している。

史上最大の貿易黒字と「危険な信号」

中国税関総署が1月14日に発表した2025年の貿易統計によると、貿易黒字は1兆1890億ドルと過去最大となり、初めて1兆ドルを突破した。時事通信によると、対米輸出が20.0%減少する一方、輸出全体は前年比5.5%増となり、東南アジア諸国連合(ASEAN)やアフリカ向けが大きく伸びた。輸入は国内の景気冷え込みもあり横ばいにとどまった。 

黒字の裏側にあるのは構造的な内需不足だ。内閣府の分析によると、中国の家計消費が名目GDPに占める割合は約4割と主要国に比べて低い。フォーリン・アフェアーズの論文では、中国の有力経済学者や元中央銀行幹部の間で、家計所得と消費の役割が高まらない限り過剰生産と過剰貯蓄が続き、外需依存が強化されるとの見方が広がっていると紹介した。

欧州は鉄鋼・EVで防壁、日本も対抗措置を発動

余剰生産物の受け皿となってきた各国は、防壁の構築を急いでいる。EU理事会は6月、鉄鋼の過剰生産能力が2027年までにEUの年間消費量の5倍以上に相当する7億2100万トンに達するとの予測を示し、EU市場が世界の余剰鉄鋼の主な受け皿になっていると警告したうえで、鉄鋼輸入の関税割当量を約47%削減し、超過分への関税を50%に引き上げる新規則を成立させた。

電気自動車(EV)分野でも、EUは2023年10月から中国製EVへの反補助金調査を開始し、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、中国の過剰生産能力が政府補助金によって輸出に流れ、市場を歪めていると説明した。米国とカナダも2024年、追加関税措置を発表している。 

日本も例外ではない。経済産業省と財務省は2025年8月13日、日本製鉄、日鉄鋼板、神戸製鋼所、淀川製鋼所の4社が同年4月28日に提出した課税申請を受け、韓国産と中国産の溶融亜鉛めっき鋼帯・鋼板に対する不当廉売(反ダンピング、AD)関税の課税の要否に関する両省合同の調査を開始した。

経済産業省によると、ニッケル系ステンレス冷延鋼帯・鋼板をめぐっては、両省が2025年7月22日から実施してきた調査の結果、6月19日に中国産・台湾産の不当廉売と国内産業への実質的な損害を推定する仮の決定を行い、関税・外国為替等審議会の答申を経て、7月9日から11月8日までの間、3.6〜42.1%の暫定的な不当廉売関税を課すことが閣議決定された。

片山さつき財務相は6月19日の会見で、不当廉売の差額率は中国産品で最大約45%、台湾産品で最大約21%に上ると説明している。

保護の網は制度面でも強化されつつある。日本鉄鋼連盟など鉄鋼関連5団体は2025年8月18日、AD関税の対象品の母材を第三国で加工して輸出する「第三国迂回」などの迂回行為が多発しており、G20のうち18か国が導入済みの迂回防止制度を日本も速やかに創設するよう政府に要望した。

同制度はその後創設に至り、5団体は制度の適切な運用による不公正輸入の抑止に期待を表明している。鉄鋼連盟は2024年度事業報告書でも、中国の過剰生産能力問題に起因する輸出急増が各国鉄鋼業を危機的状況に陥れ、前例のない通商・保護貿易措置の拡大を招いていると総括した。

高市政権の経済安保と中国の対抗措置

高市政権は経済安全保障を政策の柱に据えている。2025年10月に公開された閣僚への指示書では、経済安保担当大臣に対し、サプライチェーンの強靱化や基幹インフラ役務の安定提供などの施策を見直す経済安全保障推進法の改正検討、戦略物資の確保、技術流出防止、対日直接投資審査の高度化などが指示された。 

これに対し中共側は、経済的威圧とも取れる措置を強めている。2025年11月の台湾有事に関する高市首相の国会答弁を機に日中関係が悪化する中、中国商務部は2026年1月と2月に相次いで日本を標的とした輸出管理措置を発表し、日本企業に衝撃を与えた。さらに国務院は4月7日、サプライチェーンの安定を国家安全の問題と位置づけ、対抗措置や域外適用を明記した「産業チェーン・サプライチェーン安全に関する規定」を公布・即日施行した。供給網の武器化が進むほど、日本企業にとって対中依存そのものが経営リスクとなる構図である。

デリスキングのコストと残された論点

もっとも、対中依存の低減には代償が伴うとの指摘もある。経済産業研究所(RIETI)の戸堂康之氏は、中国からの輸入の8割が6週間途絶した場合、日本の付加価値生産は約15%減少するとのシミュレーションを示す一方、デリスキング戦略は短期的な経済損失を伴うため、経済的利益を著しく損なうことなく安全保障上のリスクを下げるバランスが必要だと論じている。

それでも、史上最大の貿易黒字と各国の防衛的措置の応酬という現実は、フォーリン・アフェアーズ論文が描いた「自らの台頭を支えた開放的秩序を、自らの行動で分断していく」という構図を裏付けつつある。輸出主導から内需主導への転換を先送りし続ければ、失われるのは市場だけではない。世界第2位の経済大国の行方は、その輸出に深く組み込まれた日本経済の針路をも左右することになる。

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