2年間にわたり中国上海の郊外にある刑務所に拘留されていた英国の民間調査官は、このたび、監獄での不眠の長時間労働や反人道的扱いについて、フィナンシャルタイムズの寄稿記事につづった。同氏のいた刑務所では収容者の手で、欧州の大手アパレルH&M、米国の文具大手3Mの商品が製造されていたという。
製薬会社グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)の依頼で、中国の医師の賄賂について調査していたピーター・ハンフリー(Peter Humphrey)氏は2013年、中国系米国人の妻ユウ・インゼン(Yu Yingzeng)さんとともに逮捕された。中国政府当局は二人を13カ月間、裁判なしで拘束した。その後、「違法に市民の情報を取得」した罪で、裁判所からハンフリー氏に30カ月、妻に24カ月の有期刑を下した。彼らは2015年6月に解放された。健康状態は、病院に行かなければならないほどに悪化していた。
寄稿記事によると、同氏が収容されていた上海の青浦刑務所では、収容者たちがブランド品の梱包作業や縫製を行っていた。「社会的責任が求められる大手企業―3M、C&A(ベルギー発アパレル)、H&M(スウェーデン発アパレル)などのブランド製品が作られていた」。
「中国人収容者たちは、作業部屋でアパレルブランドの織物などを作っていた。朝ご飯前にその部屋に入室し、夜遅くに退出する」「私のいた作業部屋には、貧しいアフリカ系やアジア系の外国人などがいて、身よりの支援もない困窮者だった。何百、何千もの作業が繰り返された。給与は月120元(約2000円)」
刑務所労働それ自体は、国際労働機関(ILO)のルールに違反していない。しかし、多くの国際的な大手ブランドは、労働環境や生活が脅かされているとして、そのサプライチェーンにおいて、刑務所労働を受け入れていない。ILOはまた、刑務所労働の取り入れについて明確なガイドラインを設けている。
H&Mの広報担当者は、「私たちの知る範囲では(労働)違反はない。フィナンシャルタイムズが指摘した情報については真剣に受け止めたい」とした。同社は過去にも、中国の刑務所労働が使用されていると噂されている。
いっぽう、欧州発のファストファッションC&Mは、生産側の行動規範において、刑務所労働を禁じている。同社スポークスマンは、ハンフリー氏の指摘について「中国における生産委託工場273社を毎年監査しており、刑務所労働は確認していない」と否定した。C&Aは、無許可の下請けを処分する措置の用意はあると主張した。
3Mの広報担当者は、英字メディア・クォーツの取材に対して「搾取的な労働条件には関わったり使用したりしていない」とし、中国で刑務所労働を利用しているとの疑惑を否定した。しかし、ハンフリー氏の報告内容を調査していると回答した。
多くの場合、メーカーは企業規模が大きくなれば、生産委託先から、別の工場が仕事を請け負う。ハンフリー氏は記事で、中国に製造を委託した企業は、サプライチェーンのなかで刑務所労働者が含まれていることを「知らないのかもしれない」と推測する。ある中国メーカーは、国境を越え、北朝鮮へ仕事を委託するケースも報じられている。刑務所労働はたいてい、通常の工場作業員より工賃が安く、労働環境など条件は総じて悪いとされる。
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(編集・佐渡道世)
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