来日中に心臓病を患い、心臓移植を受けるために帰国した中国人の女性実習生は、わずか13日後に武漢の病院で移植手術を受けた。中国からの訪日医療ツーリズムに積極的な名古屋の藤田医科大学病院が、武漢の移植病院と連携して実現した。通常よりも何倍もの早さで移植手術を行える背景には、無実の囚人から強制摘出した臓器を、移植病院が利用しているためだと国際人権団体などが指摘している。
今回、女性実習生の手術を執刀した華中科技大学同済医学院附属協和医院(以下、武漢協和病院)の董念国教授は、人権団体により「臓器狩りに関与していると疑われる者」としてリストアップされている。武漢協和病院は3〜4日に1度、心臓移植手術を行っているとの中国国内報道がある。
中国の臓器移植問題を調査している米拠点のNPO組織・追査国際はウェブサイトで、人道犯罪が疑われる移植手術に関わる当局者や医師、病院などについて詳述している。情報は、中国メディアや医学論文、ニュース、病院広報誌のほか、組織が独自に中国の関係者を電話調査した結果などが含まれている。
追査国際によれば、2015年12月31日付の湖北日報に、武漢協和病院は同年102件の心臓移植を成功させたと報じている。
心臓移植は、部分移植が可能な他の臓器と異なり、ドナーが心停止あるいは脳死していることが条件になる。さらに、移植用の心臓は、心停止から4時間以内に移植手術が完了する必要がある。3〜4日に1度の移植手術を行うことができるならば、血液型や年齢、抗体、健康状態など、多数の条件が合致した人物が、移植可能な心臓を保ったまま心停止状態で頻出していることになる。
董氏はインタビューで、中国全土20都市近くから心臓が提供されたと述べた。また「すべて市民の自発的な提供」だと付け加えた。同氏は、これまで同病院の待機患者の「8割は手術を受けることができた」とした。
董氏はさらに、心臓が心停止から虚血状態にいたるまで6時間であることを強調し、ドナーが現れたら「ただちに心臓を取りに行かなければならない。ドナーがある限り、随時に移植手術はできる」と語っている。
董氏の所属する中華医学会の会報紙2017年5月付によれば、武漢協和病院では2014年に84件、2015年に102件、2016年に100件の心臓移植手術を行っており、3年連続で全国最多だと宣伝している。
同記事には、武漢協和病院が心臓を入手する過程について記述がある。「3人の医師がチームになり、心臓を取りに行く。ドナーの連絡を受けた若い医師たちは、今病院の作業を直ちにやめて、取りに行かなければならない。30分もかけず即席の医師チームが、手術器具や氷の塊が入った合計約200キロもあるケース3つを用意して、広州、上海、杭州、北京などの駅や空港に向かう」という。
2008年から2017年の9年間で、武漢協和病院では約400件の心臓移植手術を行っており、300件あまりは董氏が担当したという。
いまも続いている臓器狩り
中国国家衛生健康委員会によれば、2015年から2018年までの中国の臓器提供件数はそれぞれ2766件、4080件、5146件、6302件。「臓器移植件数は2万件を超え、手術件数も世界第2位となった」としている。
しかし、中国臓器移植問題の追跡を続けるカナダのデービッド・マタス人権弁護士ら独立調査団は、中国国内情報を元に、臓器移植件数は年間6万件から10万件と推計しており、提供数やドナー数よりもはるかに多くの移植手術が行われていると指摘している。
移植手術のために使われた臓器は、いったい、どこから来るのか。
2019年6月、中国臓器移植問題について証拠や供述を集め、公開し、第三者が裁量を下す「民衆法廷」がロンドンで開かれた。最終判定では「強制的な臓器収奪は、中国全域で何年にもわたり相当な規模で行われてきている」と最終結果を報告した。移植に使用できる臓器を入手するまでの待ち時間が異常に短く、医師や病院が臓器の予約を受け付けていること、法輪功学習者とウイグル人が拷問を受けていることなどを挙げた。
中国では全土で移植手術のために多くのインフラ設備が開発され、医療スタッフが養成されている。このため民衆法廷は「現在も移植手術は継続的に行われており、強制的な臓器収奪がなくなったとする有力な証拠がない」とした。
前出の追査国際もまた、臓器収奪が続いているとの最新調査結果を出している。2020年3月、2019年版全国病院調査結果を報告では、移植病院として中国当局が公認する178件を中心に調査した。
報告によれば、直轄市と各省、自治区、市では、肝腎移植を中心に中国全土で移植手術が行われている。北京、天津、上海、杭州、広州、鄭州では多くの移植手術が行われており、海南、深セン、ウルムチ、昆明では移植事業が急速に拡大していることがわかった。
医師らの回答によれば、病院ではいわゆる「脳死したドナーの臓器」を使った移植手術が多数行われている。しかし、「脳死ドナー」がどこから来るのかは、話す医師はいなかった。待機期間は最速で1日か2日のケースもあり、1週間、2週間、数か月と病院によりまばらだった。しかし、臓器の状態(年齢や喫煙歴など)の選択や、早期手術、医師の指名などの希望があれば、金額を上乗せして手術を受け付けることができるとの回答もあった。
中国国内法は、まだ臓器移植と脳死に関する法律を成立させていない。中国共産党は2015年、「死刑囚の臓器使用をやめる」と発表していることから、表向きには、市民の自発的な提供が臓器移植の唯一の手段となっている。
しかし、同年以来、中国の移植病院は独自の「脳死基準」を設けて、移植用の「脳死ドナーの臓器」を入手し、「脳死臓器」と記録していることが、移植病院に対する調査で判明した。
法輪功学習者の臓器の選択について、調査者は聞いている。医師の反応はさまざまだが、過去には少なくとも法輪功学習者が臓器移植のためのドナーであったことがうかがえる。ある医師は、「以前は入手できたが、いまはそのルートがない」またある医師は「よほど(当局や病院と)緊密な関係があり、金がある人なら選択するだろう」と述べた。
追査国際の2019年調査結果は、公式ホームページで全文(中国語のみ)読むことができる。
駐日中国大使 名古屋実習生の移植手術「歴史の1ページ」と強調
武漢協和病院と連携した名古屋の藤田医科大学病院は、在日本中国大使・孔鉉佑氏から、返送する形で手紙を受け取っている。7月15日に公開された手紙には、日本と中国には「医療・健康分野で広範な協力の余地と大きな協力の潜在力がある」とし、実習生の移送は、両国の「医療交流・協力の歴史の重要な1ページ」と強調した。さらに、「今後、藤田医科大学病院と武漢協和病院が関係分野での交流と相互参考」がさらに進むことを期待するとある。
また、7月はじめ、藤田医科大学病院の高味良行教授は孔大使にあてた手紙のなかで、日本から出発してわずか13日後の「6月25日、無事心臓移植手術が施行されたと聞き安堵している」とある。
藤田医科大学病院公式ページでも、中国人実習生の事例を紹介している。体外式両心室補助人工心臓に依存して生活していた彼女は、「緊急度が高いと判断され」心臓移植手術を受けることができたとしている。
日本ほか米国、欧州各国でも、心臓移植までの待機期間は約3年以上だ。中国では、なぜ短期間で手術が受けられたのか。高味教授の手紙にも藤田医科大学病院の説明にも書かれていない。
(編集・佐渡道世)
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