中国 掛谷英紀コラム

混迷する米国大統領選と今後の国際社会

2020/11/08 更新: 2020/11/08

米国大統領選の決着がもつれている。誰が大統領になるかはまだ分からないが、一つだけはっきりしたことがある。バイデンが圧勝すると予想していた大手メディアはみな大ウソつきだったことだ。しかし、相変わらず彼らに反省の気配はない。彼らは我々と違い、己の不明を恥じるという思考回路が脳から欠落していると解釈するしかないだろう。

この米国の混乱を見ると、日本がいかに健全な民主主義を実践しているかがよく分かる。日本の選挙にも不正が全くないわけではないが、ここまで酷くはない。この騒ぎを見て、日本の戸籍制度の素晴らしさを再認識した人も多いだろう。日本で170歳の人が投票することはあり得ない。日本の左翼には、戸籍制度の廃止を狙っている人が少なくないが、この米国の混乱は今後彼らを論破する材料となるので、克明に記憶しておくとよいだろう。

左翼は社会を混乱させて、革命を起こすことを目的としている。その実現が容易になるように、彼らはできるだけ社会制度を緩くしようとする。戸籍制度の廃止を狙うのもその一つだ。米国の大統領選における郵便投票の実施もそれに該当する。これが不正の温床になることは容易に予想できた。もちろん、トランプ陣営はそれを分かっていて、事前に問題を指摘していたが、各州に押し切られた格好だ。新型コロナウイルスの蔓延が、彼らに口実を与えてしまった。一度既成事実を作られてしまうと、それを覆すのは難しい。(ただし、この点については、不正を見越して投票用紙に機密の透かしが入れてあったという真偽不明の情報がある。万が一これが本当だとすれば、事前に賢明な手を打っていたことになる。)

不正を厳格に取り締まれない郵便投票のように、性善説に基づいた制度設計を行うのは左翼の得意技である。彼らは、その導入に反対する人は人間を信用しない悪人だと攻撃する。そうして、一旦チェックの甘い制度を認めさせると、制度の穴をついて自ら不正を行う。不正をすれば、当然それを疑う人が出てくるが、そういう人に対しては人間を信用しない悪人だとまた攻撃する。法治国家では「疑わしきは罰せず」が原則であるから、確実な証拠がない限り、不正を追及するのは難しい。(ただし、日本の「モリカケ」や米国のロシアゲートやカバノー判事への攻撃のように、左翼の側は疑わしきを罰することが許されている。これは、彼らが大手メディアの制空権を握っているからできることである。)

そもそも、左翼が選挙における公正を全く尊重しないことは、彼らが理想とする社会で選挙が行われない、あるいは選挙が行われても決められた政党にしか実質投票できないことからも明らかである。そういう左翼に好き勝手をやらせないために、絶対不正できない投票の仕組みを作ることが、民主主義社会を守る上で極めて重要になる。

日本でも、安易にネット投票の導入を主張する人がいるが、下手なやり方では必ず不正の温床になる。投票率を上げることよりも、不正投票によって選挙結果が左右されないようにすることが最優先だ。選挙制度への信頼が民主主義の根本を支えていることを忘れてはならない。米国大統領選の混迷は、それを我々に再確認させる貴重な機会となった。

今、最も重要な問題は、これからの米国、そして世界がどうなるかである。このままバイデン新大統領が確定しても、逆転でトランプ大統領続投になっても、我々は血を見ることになるだろう。法廷闘争の末にトランプ大統領の続投となれば、米国内の左翼が黙っていない。米国で内戦レベルの暴動が起きても全く不思議ではない。

一方、バイデン大統領になったらどうなるか。米国内のトランプ支持者は左翼と違って暴力に訴える人は少ない。一部で暴動は起きると思われるが、すぐに鎮静化するだろう。バイデン大統領誕生で血を見るのは、米国人ではなく、我々東アジアの住人である。中国による台湾と日本への軍事侵攻の可能性が高まるからだ。

米民主党政権は中国に対して非常に甘い。米国が軍を動かさない保証があれば、中国は確実に軍を動かすだろう。米民主党政権はその保証をしかねない。実際、オバマ政権下で南シナ海が中国の手に落ちたのはそれが理由である。それと同じことが台湾や尖閣で起きても何の不思議もない。新型コロナウイルスで弱っているから世界も干渉しない。今が千載一遇のチャンスである。中国人はナショナリストが多く、台湾や尖閣を獲れば人民は熱狂的に習近平を支持する。彼は終身皇帝の身分が保障される。その次は沖縄、そして日本本土である。

日本の言論人の中には、米民主党は人権重視だから、中国に対して厳しい姿勢をとると言う人がいる。彼らは明らかに誤解している。今の民主党はケネディの頃とは全く違う。今や社会主義者の巣窟である。だから、彼らは政治的に利用価値のある人権にしか興味がない。平気でウソをつき、金で態度を変える。言っていることとやっていることが正反対なのが左翼であることを忘れてはならない。

民主党左派の狙いは、世界の全体主義化である。だから、グリーン・ニューディールを掲げる民主党下院議員のアレクサンドリア・オカシオ・コルテスは、自由主義国の温暖化ガス排出は批判するが、世界一の排出国である中国に対しては一切批判しない。それを続けて、中国の自由主義国に対する経済的・軍事的優位が確立すれば、彼らの理想とする共産党一党独裁による全体主義が実現される。

今回の選挙の唯一の救いは、共和党が上院の過半数をとる見込みなことである。バイデン大統領になっても、上院がその暴走をある程度は食い止めることができる。であるから、日本にとって共和党の上院議員との連携は必要不可欠である。とは言え、日本は自主防衛する力をできるだけ早急に整える必要があることに変わりはない。加えて、ベトナムをはじめとする東南アジア諸国、インド、オーストラリア、イギリスなどと協力して中国の拡張主義を牽制することも必要である。その意味で、菅新総理が就任早々ベトナムとインドネシアを訪問したことの意義は大きい。

米国が民主党政権になっても、その間に日本人が一致団結し、中国が軍事侵攻してきても一歩も引かないという姿勢を見せ続けている限り、日本を守り抜くことはできるだろう。一番心配なのは、日本の産業界から多数の裏切り者が出ることである。トランプ政権の睨みがなくなると、目先の金に目が眩んで国を売りかねない。

そうした企業の動きを封じるには、中国に対して厳しい世論を国内で盛り上げるしかない。忘れてはいけないのは、以前のコラム『新型コロナウイルス問題 中国共産党との戦い方』で書いた通り、中国共産党がWHOと共謀して情報を隠蔽し、人の移動を制限させずに世界中にウイルスを拡散させたことである。大手メディアをはじめとする世界の左翼たちは、人々にそれを忘れさせようと必死である。でも、彼らの思い通りになってはいけない。新型コロナウイルス問題で中国共産党が働いた悪事を人々が忘れない限り、企業も中国に融和的な方針は安易にとれない。

我々は、もう米国を頼りにできない。自ら努力をしなくても平和が保たれる時代は終わりを告げた。脅威は目の前に迫っている。今、日本人に問われているのは、自らの力で自分たちの命を守りぬく覚悟である。
 


執筆者:掛谷英紀

筑波大学システム情報系准教授。1993年東京大学理学部生物化学科卒業。1998年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。特定非営利活動法人言論責任保証協会代表理事。著書に『学問とは何か』(大学教育出版)、『学者のウソ』(ソフトバンク新書)、『「先見力」の授業』(かんき出版)、『知ってますか?理系研究の”常識”』(森北出版)など。

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