中国では文化大革命の再来を彷彿とさせる「告発ブーム」が巻き起こっている。人気スターから学校の教師まで、チャットアプリでの「不適切」な投稿が知人に通報されたため、相次ぎ批判の的となった。ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は専門家の見解を引用して、これは中国当局が長年にわたって国民に「愛国教育」を施してきた結果だとした。
一方、人々の熱狂的な愛国心は、個人的な私利を実現するための手段としても利用されていると記事は指摘した。
文化大革命時代の狂乱への回帰か?流行る告発ブーム
15日、人気俳優の張哲瀚(チャン・ジャーハン・30歳)氏が靖国神社の前で記念撮影した写真がネットに出回り、中国政府系メディアから痛烈に批判された。
「その行動は極めて不適切であり、民族感情を傷つけただけでなく、若者たちにも悪影響を及ぼしている」と厳しい言葉を並べた。
張氏は自身のSNSウェイボー(微博)上で謝罪し、「私は親日派ではなく中国人だ」と釈明したが、事態は収まらず、すべての広告契約を打ち切られ、わずか数日で芸能界から追放された。
また、中国の歌手である霍尊氏が交際相手を批判したチャット記録がSNS上に公開され、それを見た交際相手の女性が彼の「不適切な発言」を暴露した。世論の圧力の中、霍氏は芸能界からの引退を余儀なくされた。
中国政府が教育・学習支援サービス産業の非営利化を打ち出した後、瀋陽のある保護者は自分の子供が無事試験に合格した後、かつて個別指導を受けた物理の教師を実名で通報した。通報された教師は授業料を返還し、その上2000元(約3.3万円)を弁償したが、処分は免れなかった。
国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の中国担当研究員である王亞秋氏はVOAに対し、「今では多くの人がSNS上でつながっている他人を通報している。この現象は非常に恐ろしいものだ。その狂気は文化大革命の再来を感じさせる」と嘆いた。
南カリフォルニア大学のトマス・ホリハン(Thomas Hollihan)教授もVOAのインタビューの中で、「習近平氏の指導の下、中国当局はネット世論に対する統制を強化し、キャンパスの講義内容についてより厳格な管理を講じている」と指摘した。
昨年11月、華東師範大学歴史学部の終身教授で著名な冷戦史の専門家でもある沈志華氏の講義は、「悪意ある通報」により中断された。
また、2018年当時、厦門(アモイ)大学の経済学教授だった尤盛東氏は、講義中の発言が「当局のイデオロギーにそぐわない」と通報され、大学側から解雇された。
さらに、中国最高学府である清華大学の2人の教授、許章潤氏と呂嘉氏も、講義中に習近平氏や中国当局を批判する発言をしたため、学生に通報され、調査のために停職処分を受けた。
「愛国心」はビジネス
最近相次ぐ有名人の摘発事件において、「愛国心がない」ことは非常に有効な武器であり、摘発理由として最も多く見られる。
王亞秋氏はVOAに対し、「真に熱狂的な愛国心を持つ人もいるが、多くの人のは計算された愛国心であり、その愛国心を利用してビジネスにしている」
「愛国心のない人を通報すればするほどフォロワーが増えるため、そこから利益を得ようとしている人も確かにいる。現に自分の友人の何人かは、ビジネスのために、SNS・微信(WeChat)のモーメンツ(友達間の投稿共有機能)で愛国的な投稿をしている」と明かした。
同氏はまた、「現在、中国のSNS上には熱狂的な愛国主義や民族主義の投稿しかない。そんな中で生活していれば、おのずと熱狂的になり、それが長くなると、愛国的な投稿をすることや、愛国心のない人を通報することが、計算なのか、それとも自発的なのか自分でもわからなくなる。これこそホリハン教授の言う『中国当局による民衆への愛国愛党教育の結果』だ」と述べた。
愛国洗脳に加え、中国当局のより洗練されたメディア検閲システムもこの種の民族主義の狂信を助長し、育て上げている。
ホリハン氏によれば、「中国政府はメディアプラットフォームのコンテンツを監視するために何百万人も雇っているから、公共秩序を乱す可能性のある情報は迅速に削除できる」
「現在、中国当局がやっていることは、人を雇って政府の利益を支持するコンテンツを作らせ、政治的な反対意見を破壊している。そして、自分たちに不利な情報を隠蔽している」と指摘した。
(翻訳編集・李凌)
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