2020年初頭に中国・武漢から始まったパンデミックの起源は、未だに謎に包まれている。武漢の研究所からウイルスが漏れた可能性(ラボ漏洩説)については、1年以上おおやけに議論されることはなかった。10月に著書『What really happened in Wuhan』(仮邦題:武漢で実際に起きたこと)を上梓した調査ジャーナリストのシャリ・マークソンさんに話を聞いた。
世界最大のコロナウイルス・コレクション
武漢ウイルス研究所は、世界最大のコロナウイルスの種類を保有している。マークソンさんによると、2019年9月12日、2万2000種のウイルスを保存していた研究所のデータベースが突然オンラインから消えた。不思議なことに同日、研究所はセキュリティ強化を目的とした入札を行い、コロナウイルス検査用のPCR装置まで購入していた。欧米のサイバーセキュリティー専門家が削除された入札データを復元し、これらの事実が発覚した。
マークソンさんは、これらの証拠が「ラボ漏洩」を明確に示していると指摘する。「漏洩は9月中旬頃、あるいは少なくとも研究所が気付いたのは9月中旬だ。その後、中国当局は意図的に隠蔽しようとしたのではないか」
アメリカの情報機関は、同研究所の職員が新型コロナウイルスに似た症状で病気になっていたという情報を掴んでいた。マークソンさんがインタビューしたマイク・ポンペオ元国務長官とジョン・ラトクリフ元国家情報長官は、これが最初のクラスターだったと確信している。
検閲された「ラボ漏洩説」
2020年初め、中国当局はウイルスの出所を「海鮮市場」と説明した。また一部の欧米の科学者たちが連名で自然発生説を支持し、主流メディアはラボ漏洩説を「陰謀論」と呼んだ。
しかし、すぐ近くには機能獲得実験(ウイルスの感染力を増強させる実験)を行っている研究所がある。マークソンさんは、ラボ漏洩説を全否定するメディアに違和感を覚えた。
マークソンさんは、「(自然発生説)が主張されたのは、2020年初め頃だ。当時はまだ何の調査も行われておらず、遺伝子操作ウイルスを否定するには、あまりにも早すぎる」と話す。
その後、マークソンさんは様々な科学者を取材し、遺伝子操作ウイルスについて驚くべき事実を知った。現代の最新技術を使えば、科学者は痕跡を残さずにウイルスを操作できるのだ。武漢ウイルス研究所の生物学者・石正麗氏は、ノースカロライナ大学の科学者と共同で、この研究に携わっていた。
後に「自然発生説」を強く主張し、ランセットに手紙を投稿したピーター・ダザック氏が武漢ウイルス研究所に15年間務めていたことが明らかになった。また、米国立衛生研究所(NIH)も、ダザック氏が代表を務める「エコヘルス・アライアンス」を通じて、武漢の研究所に多額の資金を提供していたことも明らかになった。
「自然発生説」を唱えたNIH傘下のアレルギー感染症研究所所長アンソニー・ファウチ博士やダザック氏には、明らかに利益相反があった。彼らが武漢ウイルス研究所から注目を逸らしたいと思ったとしても不思議ではない。
「アメリカの国民は恐ろしいほどミスリードされた。2020年は、中国が選択したストーリーに支配されてしまった。これも、私たちが真相を追及しなかった代償だ」とマークソンさんは語気を強めた。
(つづく)
米国思想リーダー「Sharri Markson: Unmasking the Wuhan Institute of Virology and the Origins of COVID-19」より
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