中国の張高麗前副首相に性的な関係を強要されたと告発した中国の女子プロテニス選手・彭帥氏の消息不明により、中国当局の人権対応に疑念が深まっている。中国問題を注視する人権団体や議員からは、この流れは来年2月開催予定の北京冬季五輪に対するボイコット呼びかけを強めると指摘する。

彼女はどこ? #Where Is Peng Shuai運動広まる

国際オリンピック委員会（IOC）は21日、バッハ会長と中国のテニス選手・彭帥氏とビデオ通話で無事を確認したと発表した。しかし、女子テニス協会（WTA）会長兼最高経営責任者のスティーブ・サイモン氏は、彭選手の安否を巡る懸念を解消するものではないとの意見を示した。

中国当局は最近、彭帥選手の写真や動画を公開して「告発による失踪」との世界的な人権問題疑惑を払拭しようとしている。中国政府系メディア「中国国際テレビ（CGTN）」は17日、彭選手からWTA宛てに送られた電子メールをツイッターで公開した。「自宅で休養しており、すべては順調」などと書かれている。

メールでは、張高麗前副首相から「性的暴行を受けていない」「私は消息不明になっておらず、無事」とも主張した。しかし、WTAのサイモン氏は、このメールの公開後に彭選手とあらゆる方法で連絡を試みたが、連絡は取れなかったと述べた。

彭選手は2日、中国の前首相による性的暴行を告発した後、公の場から姿を消した。張氏を告発する同氏のネット投稿は、約30分後に削除された。それ以来、彼女の消息不明は国際的な関心を呼び、ツイッターでは「#WhereIsPengShuai」というハッシュタグがトレンドにもなっている。

ニューヨークに拠点を置く国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ（HRW）のグローバル・イニシアチブ担当のミンキー・ワーデン氏は21日、自身のツイッターで「彭帥氏が姿を現し、自由に発言していることが明らかになるまで、他のいかなる情報、特に中国国営メディアからの情報を懐疑的に扱うべきだ」と述べた。

23日、HRWはIOCと彭選手のテレビ通話について「中国政府のプロパガンダを助長してはならない」と批判する声明を発表した。

北京冬季五輪ボイコットを求める声

少数民族や法輪功迫害、香港や台湾への抑圧問題がくすぶるなか、来年2月4日に開催する北京冬季オリンピック開催を疑問視する声は以前からあった。今回の彭帥氏の消息不明により、ボイコットへの呼びかけがさらに強まる可能性がある。

19カ国の100人以上の国会議員からなる国際的な超党派の議会連盟「対中政策に関する列国議会連盟（IPAC）」は18日、中国のテニス選手・彭帥氏の安否についての声明を発表した。

発表によると、中国当局が2022年の冬季オリンピック開催に向けて、国際的なアスリートを失踪させることは、大会に参加するアスリートの安全と自由に対する深刻な懸念を引き起こしていると指摘した。

こうした状況を踏まえ「私たちは各国政府に対し、北京冬季オリンピックの外交的ボイコットを表明するようあらためて要請する。この大会に出席する政府関係者は、中国政府による国内外の批判者に対する強引な迫害を正当化する危険性がある」と訴えた。

民主主義防衛財団に属する研究員のクレオ・パスカル氏は、中国での開催はオリンピックのコンセプトにまったく相反していると指摘した。「オリンピックでは、個人が最高の成績を目指しているものの、国家の目標を達成するために個人を従わせる共産党とは相いれないものだ」と加えた。

米国の有力議員は、彭帥選手が行方不明になったことが、中国で冬季オリンピックを開催するのにふさわしくない左証だと指摘した。マルコ・ルビオ上院議員は18日、「彭氏の行方不明は中国共産党が行ってきた不道徳かつ非人道的な行為の最新例にすぎない」とした。

下院外交アジア小委員会の委員長であるアミ・ベラ議員も、19日の声明で「性的な虐待の告発についても、正式かつ独立した調査が行わなければならない」と述べている。

「中国共産党がひどい人権侵害と基本的な自由の侵害を続けているのを、世界は黙って見ていてはいけない」と強調し、バイデン政権に対して2022年の北京オリンピックの外交的なボイコットを実施することを強く求めた。

ロイター通信17日付によると、米政府は中国の人権問題に抗議するため、北京冬季五輪の開会式に外交使節団を派遣しない「外交的ボイコット」を検討している。

22日、松野博一官房長官は記者会見で、国際オリンピック委員会（IOC）が彭帥選手の無事を確認したことをめぐって「一刻も早い懸念の払拭を望んでいる」と指摘した。「多くのスポーツ関係者が懸念を示しており、関連の状況を注視してまいりたい」と述べた。