カリブ海のバルバドスが共和制に 英女王の君主制から離脱 英紙「中国の浸透が一因」

2021/12/05 更新: 2021/12/05

カリブ海の島国バルバドスは11月30日、英国のエリザベス女王を君主とする立憲君主制を廃止し、共和制に移行した。英女王の承認を得ず、独自に進路を定めることができるようになった。

先月、議会の投票で大統領に選出されたデイム・サンドラ・メイソン(Dame Sandra Mason)氏が同日夜に開催された式典で、大統領に就任した。同氏はエリザベス女王に代わって国家元首となった。

バルバドスは今後も「英連邦(Commonwealth of Nations、コモンウェルス)」の加盟国にとどまる。

英連邦とは、旧英国植民地を中心に、54の加盟国から構成される経済同盟である。

かつて英国の植民地だったバルバドスは、1834年に奴隷制を廃止し、1966年に完全に独立した。それから55年間、英国君主を国の君主として忠誠を誓い続けてきた。

英国のEU離脱後、ボリス・ジョンソン英首相は英連邦諸国との貿易を拡大しようと計画するも、中国による浸透が先行していた。

「中国は密かに弱小な英連邦加盟国に手出しをしてきたが、英国は何十年もの間、ハンドルの上で眠っていた」と欧米の外交政策のタカ派は非難した。

中国のカリブ海への浸透

英紙デイリー・テレグラフ11月26日付は、バルバドスの動きは「偶然ではない」と分析した。同国は近年、中国への依存度を高めていると指摘した。

「北京は、バルバドスに同国GDPの約10分の1に相当する約5億ポンド(約765億9000万円)を投資している。バルバドスは中国と一帯一路の覚書を交わしている」

道路、住宅、下水道、ホテルなどの建設には、中国人民元が使われているという。

アメリカンエンタープライズ研究所(American Enterprise Institute)のデータによると、中国は2005年以降、英連邦の加盟国42カ国に6850億ポンド(約104兆円)以上の投資をしていたという。

デイリー・テレグラフの分析では、中国は英連邦の非加盟国より、英連邦加盟国に多く投資している。

中国はカリブ諸国の軍隊や警察部隊に沿岸巡視船などの装備を提供したり、また中国の政策を宣伝するために大学や孔子学院のネットワークを構築したりした。パンデミックの期間には、同地域に対し大量の検査キットやマスク、呼吸器を贈与した。

カリブ海国家は中国が渇望する鉱物や天然資源を持っていないが、北京は太平洋地域における米国の軍事的主導地位に対する不安から、米国に地理的に近い同地域に接近しているという。

「英連邦加盟国への静かな経済侵略に加えて、中国の投資家は英国にも、私立学校や空港、電力企業などのインフラ施設、一流の英国企業などへの投資に巨額を投じている」と同紙は分析した。

債務の罠と国際支援

バルバドスやジャマイカなどの貧困国に巨額の資金を投入する中国の目的について、これらの国が巨額の債務を返済できなくなった時、担保に入れた国有資産を手に入れることや、政治面で支持を取り付けることだと同紙は指摘する。

中国が英植民地であった香港の反体制派を弾圧するため「香港国家安全法」を導入した際、英連邦王国のパプアニューギニアとアンティグア・バーブーダから支持を得た。いずれも中国から多額の投資を受けている。

香港への弾圧を支持した英連邦加盟国には、2005年以降の中国からの投資がGDPの145%にのぼるシエラレオネ、パキスタン(GDPの21%)、スリランカ(GDPの17%)、ザンビア、レソト、カメルーン、モザンビークなどがある。

中国は、台湾と断交する代わりに北京の懐に飛び込んだ国家に対しても手厚い支援を行なっている。グレナダは2005年に台湾と断交した後、中国から5500万ドル相当の真新しいクリケットのスタジアムを提供された。

中米のドミニカ共和国も台湾と断交して中国と外交関係を結んだ後、中国から30億ドルに上る投資や融資を受けた。

中国は「弱い」英連邦国家を狙っている

英シンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサエティー(Henry Jackson Society)」の設立者アラン・メンドーザ(Alan Mendoza)氏は、デイリー・テレグラフに対し、「中国は英連邦をとても弱腰だと考え、標的にしているようだ」「私たちは当初、中国の破壊力を真に理解していなかった。私たちの行動が遅かった」と述べた。

11月24日、途上国へのインフラ投資を担ってきた英連邦開発公社は英国際投資機構(British International Investment)に改名された。英政府は、2025年までに英連邦諸国に毎年、80億ポンドを投資する計画を発表した。現在の年間投資額は15億ポンド。

この提案を歓迎する人は多いが、すでに積極的に投資してきた中国と比べて、「手遅れだ」という批判の声もあがっている。

中国外交政策を研究するSinopsisプロジェクトの上級研究員Didi Kirsten Tatlow氏は、「我々は何十年もの間、ハンドルの上で完全に眠っていた」

「我々は中国共産党が何であり、また何を求めているかを根本的に誤解していた。我々はミスを犯した」

「彼らは資金力を利用して、あらゆるところで戦略的な依存関係を築いている」と述べた。

英連邦の加盟国は、本当は英国など欧米諸国から融資を受けたいが、中国はより便利な条件を提示してくると不満を漏らしている。

英連邦加盟国であるウガンダのBiyika Lawrence Songa議員は、「資金調達が非常に簡単なため、ウガンダを含む英連邦加盟国は今、中国の懐に飛び込んでいる」と述べた。

その理由の一つとして「中国に比べ、欧米国家の融資には多くの制約があり、ビザの取得も難しい」ことを挙げている。

「英国と欧州は、英連邦加盟国が中国に接近している問題に対処しなければならない。この現状を生み出したのは、代替方案が欠如していたからだ」と指摘した。

(翻訳編集・李凌)