ブリンケン米国務長官は26日、バイデン政権の対中政策を巡って、「中国による最も深刻で長期的な国際秩序に対する挑戦に重点を置き続けていく」と述べ、中国政府が「非対称のデカップリング(切り離し)を追求している」とした。
長官は演説の中で、南シナ海、台湾、人権、技術競争、貿易ルールなど様々な面から中国政府を批判し、対中国のさらなる強硬姿勢を示した。
関係強化
長官は、米国は特にインド太平洋地域で新たな同盟関係の強化に取り組んでいるとした。米国と同地域の諸国は、「自由で開かれたインド太平洋地域」「各国が自由に主権的な決定を行う」とのビジョンを共有する。
バイデン大統領は19~25日にかけて日韓両国を訪問した。米国がインド太平洋地域での優先事項を強化するために、大統領は日韓との間で「重要な安全保障同盟を再確認し、経済・技術協力を深めた」と長官は紹介した。
日本滞在中、大統領はオーストラリア、日本、インド、米国の4カ国からなる「クアッド」首脳会談(サミット)に参加した。また、大統領は今月11日に開催された米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の特別首脳会議にも参加し、東アジアや南シナ海で現状変更を試みる中国をけん制した。
長官は「われわれは中国に軌道修正を求めることはできないが、オープンで包括的な国際システムというわれわれのビジョンを推進するために、中国を取り巻く戦略的環境を形成していくつもりだ」と述べた。
米国の政界では過去数十年、中国がグローバル経済に参与すれば中国で民主化が進むに違いないと期待してきた。ブリンケン氏の発言は、米国のエリートの間では、中国に対する期待がすでに消え去ったことを浮き彫りにした。
ただ、「われわれは中国の政治体制を変えようと思っていない」と長官は強調。「われわれの任務は、民主主義が緊急課題に対応し、機会を創出し、人間の尊厳を高めることができることと、未来は自由を信じる人々のものであり、すべての国が強制されることなく自由に自らの道を切り開けると証明することである」と長官は加えた。
長官は、インド太平洋地域の平和と安定のための米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」や、米国と欧州連合(EU)の関係強化にも言及した。
中国に焦点
ブリンケン国務長官は演説中、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領について、世界の平和と安全に脅威をもたらしたと糾弾した一方で、中国問題は依然として米国の「最も深刻で長期的な」課題であると強調した。
長官は、中国政府と中国国民を分けて認識する必要があるとし、「中国の変革は中国国民の才能、創意工夫、勤勉さによるもの」と語った。しかし、「習近平国家主席の下で、中国共産党は国内ではより抑圧的に、国外に対してはより攻撃的になった」と批判。
ブリンケン長官は、中国政府は中国を成功に導いた法律、協定、原則、制度を強化し活性化させ、他国が恩恵を受けられるようにするのではなく、むしろ弱体化させようとしているとの見解を示した。
長官は、米国は「中国政府が国内で大規模な監視を行い、その技術を80カ国以上に輸出していること、南シナ海で不法な海洋権益を主張していること、平和と安全、航行の自由、通商を損なっていること、貿易ルールを迂回しまたは破り、米国内と世界中の労働者や企業に被害を与えていること」などを見てきたと痛烈に非難した。その一方で、米国は中国との「冷戦」を望んでいないと明言した。
台湾
ブリンケン国務長官は、バイデン政権の台湾政策方針は変わっていないと述べ、「台湾関係法、3つの米中共同コミュニケ、6つの保障に基づく『一つの中国』政策を引き続き堅持していく」と語り、米国は「現状に対する一方的な変更に反対し」「台湾の独立を支持しない」とした。
「われわれの政策に変化はないが、変わったのは中国が台湾と世界各国の関係を断とうとしたり、台湾の国際機関への参加を妨害したりして、威圧的な態度を強めていることだ」
長官は、中国空軍の軍機が「ほぼ毎日、台湾近くで活動している」として、台湾海峡地域の安定を破壊していると述べた。米国は今後、台湾関係法に基づき「台湾が十分な自衛能力を維持できるように支援し」、「台湾の国際社会への参加も支持し、経済関係を深めていく」と示した。
人権・技術競争
長官は、中国政府によるウイグル人やチベット人住民への抑圧政策、香港民主化運動への弾圧行為を非難した。
中国政府は今まで、「内部問題である」として中国国内の人権問題に対する国際社会の非難に反発してきた。
長官は「これは間違いだ。新疆やチベットでの少数民族や宗教的少数派への扱いは、国連憲章の核心となる原則やすべての国が順守すべき『世界人権宣言』に反した」とした。
いっぽう経済の面において、長官は「中国との競争体制を整えており」、米国の競争力を高めるために国内での投資を増やし、同盟国やパートナー国との連携を深めていくと明らかにした。
同氏は、ハイテク分野において中国政府が世界覇権を握るために「他国の対中依存度を高め、その依存度を利用して中国外交政策の選好を押し付ける」とした。中国は米国とのハイテク競争に勝つため、「米経済の開放性を悪用し、スパイ行為、ハッキング、技術窃盗、軍事技術革新を進めている」
米国は今後、技術的な競争力を守るために「輸出規制の強化、学術研究の保護、サイバー防御、機密情報のセキュリティなどの強化、主要戦略分野の支配を狙う中国の動きから米企業を守るための厳しい投資審査措置」などを実施していくという。
また、長官は中国企業が米市場に自由にアクセスできるのに対し、中国は米企業の中国市場へのアクセスを制限すること、中国政府の国内企業に対する巨額の補助金給付などを挙げ、投資・貿易上の不公平さを批判した。
「米国は、中国を世界経済から切り離すことを望んでいないが、中国は非対称的な切り離しを追求している。中国は、中国の世界経済に対する依存度を下げ、世界経済の中国に対する依存度を高めようとしている」
長官は中国に進出する米企業に対し、西側の価値観を保ち、強制労働を含む人権侵害を助長しないよう呼びかけた。
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